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16,ルドル卿パーティ。

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ルドル卿のパーティに強制参加。

 ということで、【覇王魔窟】に入る。
 1階の13体の〈蠍群魔(スコーピオン)〉なんて、500日間あまりに殺しすぎたせいか、個体識別ができるようになってしまった。
 そうこの〈蠍群魔(スコーピオン)〉、毎回、魔素によって復活しているわけだけど、そのたび同じ特徴があるのだ。たとえば、あの子は触覚が折れていて、あっちの子は縞縞模様、と言う感じ。だから普段なら、「また来たよ」と声をかけているけど、今日は黙っておくとしよう。

 ところでルドル卿のパーティは、カトラスのライオネルさんのほか、クレイモアの戦士風の男の人がボンさん、生贄要員(?)の町娘がエミリーちゃん。

 ふと隣を見ると、エミリーちゃんが今にも気絶しそうな顔色。

「大丈夫ですか? 具合が悪そうですよ」

「あの、私たちは──ひぃ!」

 ボンさんに睨まれて、悲鳴を上げて押し黙るエミリーちゃん。ボンさんはルドル卿から、私たちの守護を命じられている。一方のルドル卿は、

「見よ! これが〈開華のタネ〉によってスキルツリーを覚醒させた者の力だ! 《炎刃》!!」

 両手から炎刃が飛び出るルドル卿。二刀流ということで、〈蠍群魔(スコーピオン)〉に斬りかかっていく。
 しかし──見た目はカッコいいけど、一撃の破壊力はたいしたことがなさそう。〈蠍群魔(スコーピオン)〉一体を倒すのに、何度斬りかかれば気が済むのだろう。

 農家の娘として、私はカブについては一家言を持っている。その私から言わせてもらえば、このパーティをカブ畑にたとえるならば、中心核となっているのはルドル卿ではない。
 カトラス装備のライオネルというおじさんだ。
 
 まだ若い(といっても、私より数歳は年上)ルドル卿の荒っぽいバトルを、丁寧にフォローしている。というかライオネルさんの保護がなければ、ルドル卿はとっくに、背後から〈蠍群魔(スコーピオン)〉の鋭い一撃を受けて死んでいる。だから壁を背にして戦わないと。背後からくるんだって。

 あとクレイモアのボンさん。正直、この人も視界が狭すぎる。
 私とエミリーちゃん(14階の何かの生贄要員)を守護しなきゃならないのに、自分の身を守るのに忙しくて、さっきから何度か私とエミリーちゃんへの〈蠍群魔(スコーピオン)〉の致命的な攻撃をガードできていない。
 私が魔改造くわ〈スーパーコンボ〉で弾いていなかったら、エミリーちゃんは毒針か触肢ハサミの餌食になっているよ。

 そして、ついにはボンさんも一体の〈蠍群魔(スコーピオン)〉に背後を取られる。
 えー。これで14階まで、本気で行くつもりなの? まぁ14階に行ったことはあるんだよね。そこにいる魔物対策のため、エミリーちゃんを連れてきたわけだし。
 
 にしても、たかが13体の〈蠍群魔(スコーピオン)〉でこの体たらく。とにかくボンさんが危ないので、私はこっそり〈スーパーコンボ〉で〈蠍群魔(スコーピオン)〉を殴りつける。
『武器の打撃力をUPする(打撃Lv.2)』のおかげで、《爆打》などのスキルを使わずとも、通常攻撃の一発で潰せた。

 その場面を、ライオネルさんだけが目撃している。ライオネルさんは片目をつむってみせた。
 はい、どうもです。ようやく13体がぜんぶ片付く。

 ようやく1階を攻略。
 その後、とりあえず2階の〈鮟鱇魔アンコウ↓〉は楽勝に倒す。〈鮟鱇魔〉はヒト型の疑似餌の罠にさえ騙されなければ、そんなに怖くない。
 ただ3階の〈牙高身魔(トール)〉はどうするのだろう? 

 ところで──ルドル卿が、〈牙高身魔(トール)〉を見たときの様子がおかしい。なんというか、顔が引きつっていたような。まさか、初めて見た? うーむ。

「お、おいライオネル。私のかわりに片付けろ」

 とルドル卿が命ずると、ライオネルさんが「了解しました」と、カトラスを床に触れさせ。
 とたんカトラスの刃が赤く光る。そこから〈牙高身魔(トール)〉の片足を輪切りにしていく。ついに倒れる〈牙高身魔(トール)〉、その頭部へとさらに赤く光る刃を叩き込んでトドメとした。凄い切れ味。
 あと〈牙高身魔(トール)〉を倒すため、頭頂部まで飛んでいく必要もないんだね。当然といえば当然だけど、人によって攻略法は違ってくるわけか。

 その後、順調に階を上がっていく。4階の30体もの〈蠍群魔(スコーピオン)〉では、1階のときと違ってライオネルさんが前へと出たので、あっさりと終わってしまった。
 そして7階。〈回転刃人(ブレイドヒューマン)〉を撃破したところで、ルドル卿が休憩を告げる。

 私は、エミリーちゃんの隣に座ってウトウトしていた。自分で戦えないと、退屈だなぁ。500日間の間に、何千回と繰り返した階層だものね。見学者では、ほんと飽きる。

 気配を感じたので見やると、ライオネルさんが音もなく隣に腰かけていた。

「あんたのその鍬(くわ)は、魔素を取り込んでいるようだな。俺のこのカトラス〈バラクーダ〉も同じだ」

 ルドル卿は〈開華のタネ〉によってスキルツリーを覚醒しているが、ライオネルさんは私と同じで、武器強化派ということ。

「あんた、だいぶ【覇王魔窟】馴れしているな。最高で何階まで行ったんだ?」

「8階です。あそこで右足を負傷しまして」

 ライオネルさんは納得した様子。

「ああ。8階は難易度が高い。【覇王魔窟】ってのは、一般的には上階へ行くほど魔物が強力になる、と言われている。まぁ、大雑把にいえば間違っちゃいないが、上下10階内程度の範囲だと誤差もあるのさ。俺が見たところ、9~13階の難易度は、8階より低い。もちろん余裕こいていたら足元をすくわれるが──やはり8階が初心者殺しといえる階だな。〈影鰐(シャドウアリゲーター)〉は一体だけならともかく、5体同時に来ると、一気に手ごわくなる」

「ですね」

 とはいえ、真の初心者殺しは、やっぱり1階だと思うけれど。と、四肢切断された挙句、顔の半分を溶かされた私は思うのです。

「ところでライオネルさんは、かなりの【覇王魔窟】経験者のようですが。ルドル卿は今日が初めてですね?」

「ああ。あの貴族の坊やは、男になりたいというのさ。ま、お友達たちに自慢したいんだろうよ。スキルツリーを覚醒できたからといって、みなが猛者になれるわけじゃないのにな。あんたも気づいただろ、ルドル卿の《炎刃》、あれは──」

「こけおどし、ですね。酒場での喧嘩なら威力を発揮するでしょうが。魔物相手には力不足です。〈蠍群魔(スコーピオン)〉一体を倒すのに、何十秒もかかるというのは」

 ライオネルさんがにやりと笑う。

「14階でも生きのびれたら、また話そうや」

 そう言って、ライオネルさんは立ち上がり、ルドル卿のもとまで歩いていった。

 ふーむ。14階が、ちょっとワクワクしてきてしまったぞい。

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