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14,500日後。
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500日、長いようで短い。
早朝早起きして、カブ畑に水をやり、雑草狩りなどもしてから、朝食とお昼のお弁当を同時に調理。朝食とって、右手に魔改造鍬〈スーパーコンボ〉、左手に弁当を持って、【覇王魔窟】へ。
1階→7階まで攻略したところで、〈緊急脱出トンカチ〉で外に出てから、また1階からやり直す。お昼休憩を1時間とってから、午後も同じことを繰り返す。
日が暮れたら、町の公衆浴場で汗を流してから帰宅。就寝。
これの繰り返しの繰り返し。
とはいえ何度かルーティンとは違うことを行う日もあった。たとえばある日は、ジェシカさんを呼び出して、
「カブの収穫祭です!」
「え、お祭り? 神輿をかつぐの?」
「違います。ひたすらカブを収穫して、あちらの出荷箱に入れるんですよ。出荷箱に入れておけば、明日、業者さんが持っていってくださるので。あ、もちろんジェシカさんにプレゼント用のカブもあります」
「…………………帰る」
「帰宅不可イベント、ですっ!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!」
ちなみに収穫祭イベントは、4回あった。カブは一年中、栽培できるのです。最強ですぜ。
──500日の地道な地道な強化作業の末。わが家宝にして、今や魔改造中の鍬〈スーパーコンボ〉の武装Lv.は52となった。
501日目の朝、久しぶりに【覇王魔窟】前まで来ていたジェシカさんに、まずは成果の報告。
「ふぅ。さすがに、ここまで武装Lv.を上げると、7階までではまったく動かなくなってしまいましたね。もうLv.52からぴくりともしませんよ」
「だろうねぇ。ところでスキルツリーの開拓のほうは、どんな感じ? キミの〈スーパーコンボ〉は、新たなスキルを会得したんだろうねぇ」
「いいえ、一個も」
「え? まさかスキルポイントが溜まらない? あー、恐れていたことが。武装Lv.が上がっても、スキルポイントも入るとは限らないんだった。それはやっぱり、魔素を取り込む武器の性能──もう武器の才能といえる話になってくるんだよ」
なぜか頭をかかえているジェシカさん。これはカブ収穫祭の概要を説明したときと似ている。あのときは、死んだ目でカブを引っこ抜いていたっけ。
「誤解ですよ、ジェシカさん。スキルポイントは、がんがん溜まっています。単に私が、スキルツリーの解放を行っていなかっただけで」
「え、そうなの? 紛らわしいなぁ。だけどどうしてスキルツリー解放しなかったの?」
「だって、一気に解放していったほうが、『わぁ、私の〈スーパーコンボ〉強くなったっっっ!!』感が強いじゃないですか! 一個一個こまめにやるのも否定はしませんが、別に『1階→7階』期間ならば、解放済みスキルパネルだけで問題ないわけですしね」
ジェシカさん、重たい溜息。
「キミは、なんというか、変なこだわりを持っているというか…………まぁ『結婚できないバグを直す』とかいう、しょうもない理由で不可能ダンジョンの異名を持つ【覇王魔窟】の最上階を目指そうというのだから──変人はいまに始まったことじゃなかったね」
「もう褒めないでくださいよぉ、ジェシカさん。照れます」
「いや褒めてない。キミのために、あえて厳しく言うけど、変人というのは褒めてない」
「…………じゃ、今日から8階以上への攻略を開始します」
「頑張れ~」
「はい~」
とりあえず7階までは、今の状態で行こう。8階に上がる前に、スキルツリー解放だ。このワクワク感、ジェシカさんには分かるまい。ところが──【覇王魔窟】に入ろうとしたところ、丘から騎馬隊がやって来るのが見えた。
「えー、またですかぁ。もう出ばなをくじかれるとはこのことですよね、ジェシカさん──あれ、ジェシカさん??」
ジェシカさん、退散が早い。もういなくなっている。仕方ないので、私は騎馬隊を待つことにした。はじめはハーバン伯爵の騎馬隊だと思っていた。
実はハーバン伯爵邸には、この強化期間の500日のあいだにも、何度かお邪魔している。というのも、町の公衆浴場が工事のため休館しているときがあったため。そこでミリカさんにお願いして、ハーバン伯爵邸のお風呂を借りていたのだ。というわけで、騎馬隊の人とも顔見知りだったりする。
ところが──いま向かってくる騎馬が翻している紋章旗。ハーバン伯爵とは違うものだ。つまり、別の貴族家がおいでというわけで。
ちなみに【覇王魔窟】周辺は、どこの領土でもない。遠い昔、当時の王が王領として、他の者の立ち入りを禁じた時もあった。歴史書によると、たった数日のことだったらしいが。
というのも王が独占したとたん、王の子供たち、王子王女がバタバタとグロ病で死んでいったので。もちろん【覇王魔窟】が怒ったのである。
それ以来、どこの有力者も【覇王魔窟】は独占していない。だから、私のようなソロプレイヤーも気軽に入れるし、どこの貴族家でも堂々とパーティを送り込んでくることもできるわけだけど。
私が立っていると、騎馬隊が到着した。
「これ、そこの農家の娘よ。いますぐ立ち去れ。これよりルドル卿とそのパーティが、【覇王魔窟】に入るのだ」
「私も、【覇王魔窟】に入るんですけど」
なぜか、大爆笑しだす騎馬隊の皆さん。おかしいなぁ。笑わせること言ったかな? まぁ、みんなが楽しいなら、私も嬉しいです。
騎馬隊、ようは護衛部隊の後方から、一人の男がやってきた。馬上から飛び降りる。銀色の髪が、やたらとサワサワしている。あれは、いいトリートメントを使っているね、うん。さては、この人がルドル卿か。
「小娘。まさか貴様、そのボロい鍬(くわ)で、【覇王魔窟】に挑むつもりか?」
と言って、私の〈スーパーコンボ〉を指さしてくる。
私は〈スーパーコンボ〉を見て、ルドル卿を見た。
「はい、家宝の鍬(くわ)ですから」
すると、また大爆笑の渦が巻き起こる。
よく分からないけど、どうやら皆さんの笑いのツボを押さえているらしい。さすが、私!
早朝早起きして、カブ畑に水をやり、雑草狩りなどもしてから、朝食とお昼のお弁当を同時に調理。朝食とって、右手に魔改造鍬〈スーパーコンボ〉、左手に弁当を持って、【覇王魔窟】へ。
1階→7階まで攻略したところで、〈緊急脱出トンカチ〉で外に出てから、また1階からやり直す。お昼休憩を1時間とってから、午後も同じことを繰り返す。
日が暮れたら、町の公衆浴場で汗を流してから帰宅。就寝。
これの繰り返しの繰り返し。
とはいえ何度かルーティンとは違うことを行う日もあった。たとえばある日は、ジェシカさんを呼び出して、
「カブの収穫祭です!」
「え、お祭り? 神輿をかつぐの?」
「違います。ひたすらカブを収穫して、あちらの出荷箱に入れるんですよ。出荷箱に入れておけば、明日、業者さんが持っていってくださるので。あ、もちろんジェシカさんにプレゼント用のカブもあります」
「…………………帰る」
「帰宅不可イベント、ですっ!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!」
ちなみに収穫祭イベントは、4回あった。カブは一年中、栽培できるのです。最強ですぜ。
──500日の地道な地道な強化作業の末。わが家宝にして、今や魔改造中の鍬〈スーパーコンボ〉の武装Lv.は52となった。
501日目の朝、久しぶりに【覇王魔窟】前まで来ていたジェシカさんに、まずは成果の報告。
「ふぅ。さすがに、ここまで武装Lv.を上げると、7階までではまったく動かなくなってしまいましたね。もうLv.52からぴくりともしませんよ」
「だろうねぇ。ところでスキルツリーの開拓のほうは、どんな感じ? キミの〈スーパーコンボ〉は、新たなスキルを会得したんだろうねぇ」
「いいえ、一個も」
「え? まさかスキルポイントが溜まらない? あー、恐れていたことが。武装Lv.が上がっても、スキルポイントも入るとは限らないんだった。それはやっぱり、魔素を取り込む武器の性能──もう武器の才能といえる話になってくるんだよ」
なぜか頭をかかえているジェシカさん。これはカブ収穫祭の概要を説明したときと似ている。あのときは、死んだ目でカブを引っこ抜いていたっけ。
「誤解ですよ、ジェシカさん。スキルポイントは、がんがん溜まっています。単に私が、スキルツリーの解放を行っていなかっただけで」
「え、そうなの? 紛らわしいなぁ。だけどどうしてスキルツリー解放しなかったの?」
「だって、一気に解放していったほうが、『わぁ、私の〈スーパーコンボ〉強くなったっっっ!!』感が強いじゃないですか! 一個一個こまめにやるのも否定はしませんが、別に『1階→7階』期間ならば、解放済みスキルパネルだけで問題ないわけですしね」
ジェシカさん、重たい溜息。
「キミは、なんというか、変なこだわりを持っているというか…………まぁ『結婚できないバグを直す』とかいう、しょうもない理由で不可能ダンジョンの異名を持つ【覇王魔窟】の最上階を目指そうというのだから──変人はいまに始まったことじゃなかったね」
「もう褒めないでくださいよぉ、ジェシカさん。照れます」
「いや褒めてない。キミのために、あえて厳しく言うけど、変人というのは褒めてない」
「…………じゃ、今日から8階以上への攻略を開始します」
「頑張れ~」
「はい~」
とりあえず7階までは、今の状態で行こう。8階に上がる前に、スキルツリー解放だ。このワクワク感、ジェシカさんには分かるまい。ところが──【覇王魔窟】に入ろうとしたところ、丘から騎馬隊がやって来るのが見えた。
「えー、またですかぁ。もう出ばなをくじかれるとはこのことですよね、ジェシカさん──あれ、ジェシカさん??」
ジェシカさん、退散が早い。もういなくなっている。仕方ないので、私は騎馬隊を待つことにした。はじめはハーバン伯爵の騎馬隊だと思っていた。
実はハーバン伯爵邸には、この強化期間の500日のあいだにも、何度かお邪魔している。というのも、町の公衆浴場が工事のため休館しているときがあったため。そこでミリカさんにお願いして、ハーバン伯爵邸のお風呂を借りていたのだ。というわけで、騎馬隊の人とも顔見知りだったりする。
ところが──いま向かってくる騎馬が翻している紋章旗。ハーバン伯爵とは違うものだ。つまり、別の貴族家がおいでというわけで。
ちなみに【覇王魔窟】周辺は、どこの領土でもない。遠い昔、当時の王が王領として、他の者の立ち入りを禁じた時もあった。歴史書によると、たった数日のことだったらしいが。
というのも王が独占したとたん、王の子供たち、王子王女がバタバタとグロ病で死んでいったので。もちろん【覇王魔窟】が怒ったのである。
それ以来、どこの有力者も【覇王魔窟】は独占していない。だから、私のようなソロプレイヤーも気軽に入れるし、どこの貴族家でも堂々とパーティを送り込んでくることもできるわけだけど。
私が立っていると、騎馬隊が到着した。
「これ、そこの農家の娘よ。いますぐ立ち去れ。これよりルドル卿とそのパーティが、【覇王魔窟】に入るのだ」
「私も、【覇王魔窟】に入るんですけど」
なぜか、大爆笑しだす騎馬隊の皆さん。おかしいなぁ。笑わせること言ったかな? まぁ、みんなが楽しいなら、私も嬉しいです。
騎馬隊、ようは護衛部隊の後方から、一人の男がやってきた。馬上から飛び降りる。銀色の髪が、やたらとサワサワしている。あれは、いいトリートメントを使っているね、うん。さては、この人がルドル卿か。
「小娘。まさか貴様、そのボロい鍬(くわ)で、【覇王魔窟】に挑むつもりか?」
と言って、私の〈スーパーコンボ〉を指さしてくる。
私は〈スーパーコンボ〉を見て、ルドル卿を見た。
「はい、家宝の鍬(くわ)ですから」
すると、また大爆笑の渦が巻き起こる。
よく分からないけど、どうやら皆さんの笑いのツボを押さえているらしい。さすが、私!
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