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9,〈寄生操魔(パペットマスター)〉PART1。
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ダンジョン塔【覇王魔窟】4階の魔物は、またまた〈蠍群魔(スコーピオン)〉さんでした。ただし今回は、数が多い。一気に30体。しかも1階で遭遇したタイプよりも好戦的。
これは戦いかたを間違えると、一気にやられるね。
まず壁を背にするポイントを抑えつつ、《爆打》は使わず、通常攻撃だけでダメージを与えていく。というのも《爆打》は使用したあと数秒ほど身動きが取れなくなるからね。
一体に対して連続攻撃中とかならとくに支障はないけど、複数との同時対決では、その数秒が命取りだったりする。
ここで通常攻撃でもちゃんとダメージを与えられるのは、はじめのころ『武器の打撃力をUPする』パネルを解放しておいて良かった。
さて。冷静に、冷静に。ゆっくりと、着実に。時間をかけつつ、一体ずつ確実に殺していく。
ふう。30体撃破に、2時間はかかってしまった。疲れたけど、おかげで〈スーパーコンボ〉の武装Lv.が7に上がった。スキルポイントは溜めて、次こそ打撃スキルの新たなパネルを解放しよう。
さてと。とにかく疲れたので、ここで一休みしよう。
〈緊急脱出トンカチ〉を使ってもいいけど、いったん外に出ると、また1階からやり直しだしね。まぁ、それならそれで、また魔素集めでレベル上げができるけどさ。ここは、もう少し上の階の様子を見ていきたい。
〈蠍群魔(スコーピオン)〉30体を倒したことで、次の階への結界は解かれている。ただし私が階を移動しない限りは、倒した〈蠍群魔(スコーピオン)〉が復活することもない。
だから、この階でゆっくとり休息をとって、次なる戦いに備えよう。
……
うん? 休んでいたら、知らぬ間に眠っていた。どれくらい寝ていたのかな? 【覇王魔窟】の中にいたら、朝だか夜だか分からない。時計を持ってきても、すぐに狂っちゃうんだって。さすが異次元。あくびしながら、次なる階に行く前に準備運動。
「さぁ、行くよ!!!」
その前に来た。
5階から転がり落ちてきたのは、女剣士さん。まぁ腰に長剣と短剣を差しているので、拳闘士ではないと思うけど。
その女剣士さんは必死の形相で、私のもとに駆けてくる。えーと先行していたということは、ハーバン伯の〈挑戦者〉パーティの一人かな。
「ど、どうしました?」
すると女剣士さんは、発狂でもしたように、全身をかきまわしだす。
「た、助けてくれぇぇ! 体内に、わたしの体内に入り込んで、入り込んだ、寄生する、あいつは寄生するぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
そして女剣士さんは倒れ、激しく身体を痙攣しだした。どうしたものだろう。私は治療の技術はないし、ただ──女剣士さんの体内に、どうやら寄生型魔物が入り込んだらしい。
そして、どうも女剣士さんの右の眼球がおかしい。くるくる回り出したと思ったら、眼窩から浮き上がってきて、ぽこっと飛び出た。
「これは……なんだろう」
右眼球から複数の脚が出てくる。これが寄生型魔物の本体? 違う。〈魔物図鑑:視覚版〉に正式名称が出ない。
仮説1,正式名称のない木っ端魔物。
仮説2,寄生型魔物の一部。
仮説3,寄生型魔物の固有スキルによって、この女剣士さんの眼球が蟲化した。
仮説3の場合、寄生型魔物を放っておくと、女剣士さんの身体全てが蟲化してしまう。その前に、取り出さないと。取り出す。
「お借りしますね」
女剣士さんの腰から短剣を引き抜く。つづいて痙攣する女剣士さんの衣服や下着をはぎとって、裸にする。襲っているのではありません。寄生型魔物を探すためです。
寄生しているのだから、おそらく外からでも分かるはず。
たとえば──そう、これだ。皮膚が盛り上がって、今もじっくりと歩いて動いている。女剣士さんの右乳房の下。
「女剣士さん。もしかすると、これで死んでしまうかもしれません。出血多量とかで。だけど、このまま寄生型魔物に殺されるよりは、いいかと思うんです。私は、そう解釈しましたよっっ!」
短剣の刃で皮膚を裂く、血が噴き出す。それから短剣を捨てて、私は両手を、女剣士さんの体内に突っ込んだ。どこだろう、どこだろう、あ、いた。引きずり出す。
それは肉塊に小人の両足がついたような魔物だった。〈魔物図鑑:視覚版〉によると、〈寄生操魔(パペットマスター)〉。
そして驚愕することに、
「オ前ハ、余計ナコトヲ、シテクレタ、ナ」
「この魔物さん、話せる?」
「我ハ自我ヲ持ツ魔物。ソノ女ノ中ハ居心地ガ良カッタ。シカシ、ココハ別ノ階層、カ──るーるハ死守スルトモ」
そうして〈寄生操魔(パペットマスター)〉は消滅した。ただし、私が殺したわけではないようだ。自主的に死んだ。つまり、自分のテリトリーである階層から移動してしまったので、【覇王魔窟】のルールを守って消滅したわけかぁ。
ふーん。面白いね。人と会話できる魔物、〈寄生操魔(パペットマスター)〉さん。撃破するのが、今から楽しみかも。
あれ。もしかして私、魔物とのバトルを愉しんでいる? カブ畑を耕すのとは異なる快感があるのは事実だよねぇ。
「あ、女剣士さんが!」
ごめんなさい、忘れていました。
女剣士さんを抱きかかえたまま〈緊急脱出トンカチ〉を使おうとして、まてよ、と考える。〈緊急脱出トンカチ〉って、誰かと一緒に空間転移できるものなのかな? ここで私だけ空間転移して女剣士さんを置いていっちゃったら、もう助からないよね。
じゃぁ、女剣士さんだけ〈緊急脱出トンカチ〉で【覇王魔窟】の外まで送って、私は駆け降りる? うーん。ところで戻るときも、下階の魔物って復活しているのかな?
つまり、いったん【覇王魔窟】の外に出てから再チャレンジする場合、1階から魔物が復活しているのは分かった。
では、いまの4階から引き返すとき、3階の〈牙高身魔(トール)〉とかは復活している? そしてまた撃破しないと、下階への結界も解かれないとか? だとしたら、いちいち戦わなきゃならないので、女剣士さんは死んじゃう。
うー、ジェシカさんに『他の人と一緒に空間転移できるのか』聞いておくべきだった。ソロプレイを徹底するつもりだったからなぁ。
あ、まった。あまりに簡単なことだった。
まず女剣士さんに〈緊急脱出トンカチ〉を使う。で、続いて私もまた〈緊急脱出トンカチ〉を使えばいいんだよ。
もう、こんな簡単なことに気づかないなんて、嫌だなぁ。
はい、まずは女剣士さんの頭を軽く軽ーく〈緊急脱出トンカチ〉で叩く。
女剣士さんが消える。【覇王魔窟】の外へ空間転移されたのだ。
つづいて、私も〈緊急脱出トンカチ〉で、自分の頭を叩く。さぁ、【覇王魔窟】前へと空間転移─────されない。何も起こらない。何も。
「…………困った」
これは戦いかたを間違えると、一気にやられるね。
まず壁を背にするポイントを抑えつつ、《爆打》は使わず、通常攻撃だけでダメージを与えていく。というのも《爆打》は使用したあと数秒ほど身動きが取れなくなるからね。
一体に対して連続攻撃中とかならとくに支障はないけど、複数との同時対決では、その数秒が命取りだったりする。
ここで通常攻撃でもちゃんとダメージを与えられるのは、はじめのころ『武器の打撃力をUPする』パネルを解放しておいて良かった。
さて。冷静に、冷静に。ゆっくりと、着実に。時間をかけつつ、一体ずつ確実に殺していく。
ふう。30体撃破に、2時間はかかってしまった。疲れたけど、おかげで〈スーパーコンボ〉の武装Lv.が7に上がった。スキルポイントは溜めて、次こそ打撃スキルの新たなパネルを解放しよう。
さてと。とにかく疲れたので、ここで一休みしよう。
〈緊急脱出トンカチ〉を使ってもいいけど、いったん外に出ると、また1階からやり直しだしね。まぁ、それならそれで、また魔素集めでレベル上げができるけどさ。ここは、もう少し上の階の様子を見ていきたい。
〈蠍群魔(スコーピオン)〉30体を倒したことで、次の階への結界は解かれている。ただし私が階を移動しない限りは、倒した〈蠍群魔(スコーピオン)〉が復活することもない。
だから、この階でゆっくとり休息をとって、次なる戦いに備えよう。
……
うん? 休んでいたら、知らぬ間に眠っていた。どれくらい寝ていたのかな? 【覇王魔窟】の中にいたら、朝だか夜だか分からない。時計を持ってきても、すぐに狂っちゃうんだって。さすが異次元。あくびしながら、次なる階に行く前に準備運動。
「さぁ、行くよ!!!」
その前に来た。
5階から転がり落ちてきたのは、女剣士さん。まぁ腰に長剣と短剣を差しているので、拳闘士ではないと思うけど。
その女剣士さんは必死の形相で、私のもとに駆けてくる。えーと先行していたということは、ハーバン伯の〈挑戦者〉パーティの一人かな。
「ど、どうしました?」
すると女剣士さんは、発狂でもしたように、全身をかきまわしだす。
「た、助けてくれぇぇ! 体内に、わたしの体内に入り込んで、入り込んだ、寄生する、あいつは寄生するぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
そして女剣士さんは倒れ、激しく身体を痙攣しだした。どうしたものだろう。私は治療の技術はないし、ただ──女剣士さんの体内に、どうやら寄生型魔物が入り込んだらしい。
そして、どうも女剣士さんの右の眼球がおかしい。くるくる回り出したと思ったら、眼窩から浮き上がってきて、ぽこっと飛び出た。
「これは……なんだろう」
右眼球から複数の脚が出てくる。これが寄生型魔物の本体? 違う。〈魔物図鑑:視覚版〉に正式名称が出ない。
仮説1,正式名称のない木っ端魔物。
仮説2,寄生型魔物の一部。
仮説3,寄生型魔物の固有スキルによって、この女剣士さんの眼球が蟲化した。
仮説3の場合、寄生型魔物を放っておくと、女剣士さんの身体全てが蟲化してしまう。その前に、取り出さないと。取り出す。
「お借りしますね」
女剣士さんの腰から短剣を引き抜く。つづいて痙攣する女剣士さんの衣服や下着をはぎとって、裸にする。襲っているのではありません。寄生型魔物を探すためです。
寄生しているのだから、おそらく外からでも分かるはず。
たとえば──そう、これだ。皮膚が盛り上がって、今もじっくりと歩いて動いている。女剣士さんの右乳房の下。
「女剣士さん。もしかすると、これで死んでしまうかもしれません。出血多量とかで。だけど、このまま寄生型魔物に殺されるよりは、いいかと思うんです。私は、そう解釈しましたよっっ!」
短剣の刃で皮膚を裂く、血が噴き出す。それから短剣を捨てて、私は両手を、女剣士さんの体内に突っ込んだ。どこだろう、どこだろう、あ、いた。引きずり出す。
それは肉塊に小人の両足がついたような魔物だった。〈魔物図鑑:視覚版〉によると、〈寄生操魔(パペットマスター)〉。
そして驚愕することに、
「オ前ハ、余計ナコトヲ、シテクレタ、ナ」
「この魔物さん、話せる?」
「我ハ自我ヲ持ツ魔物。ソノ女ノ中ハ居心地ガ良カッタ。シカシ、ココハ別ノ階層、カ──るーるハ死守スルトモ」
そうして〈寄生操魔(パペットマスター)〉は消滅した。ただし、私が殺したわけではないようだ。自主的に死んだ。つまり、自分のテリトリーである階層から移動してしまったので、【覇王魔窟】のルールを守って消滅したわけかぁ。
ふーん。面白いね。人と会話できる魔物、〈寄生操魔(パペットマスター)〉さん。撃破するのが、今から楽しみかも。
あれ。もしかして私、魔物とのバトルを愉しんでいる? カブ畑を耕すのとは異なる快感があるのは事実だよねぇ。
「あ、女剣士さんが!」
ごめんなさい、忘れていました。
女剣士さんを抱きかかえたまま〈緊急脱出トンカチ〉を使おうとして、まてよ、と考える。〈緊急脱出トンカチ〉って、誰かと一緒に空間転移できるものなのかな? ここで私だけ空間転移して女剣士さんを置いていっちゃったら、もう助からないよね。
じゃぁ、女剣士さんだけ〈緊急脱出トンカチ〉で【覇王魔窟】の外まで送って、私は駆け降りる? うーん。ところで戻るときも、下階の魔物って復活しているのかな?
つまり、いったん【覇王魔窟】の外に出てから再チャレンジする場合、1階から魔物が復活しているのは分かった。
では、いまの4階から引き返すとき、3階の〈牙高身魔(トール)〉とかは復活している? そしてまた撃破しないと、下階への結界も解かれないとか? だとしたら、いちいち戦わなきゃならないので、女剣士さんは死んじゃう。
うー、ジェシカさんに『他の人と一緒に空間転移できるのか』聞いておくべきだった。ソロプレイを徹底するつもりだったからなぁ。
あ、まった。あまりに簡単なことだった。
まず女剣士さんに〈緊急脱出トンカチ〉を使う。で、続いて私もまた〈緊急脱出トンカチ〉を使えばいいんだよ。
もう、こんな簡単なことに気づかないなんて、嫌だなぁ。
はい、まずは女剣士さんの頭を軽く軽ーく〈緊急脱出トンカチ〉で叩く。
女剣士さんが消える。【覇王魔窟】の外へ空間転移されたのだ。
つづいて、私も〈緊急脱出トンカチ〉で、自分の頭を叩く。さぁ、【覇王魔窟】前へと空間転移─────されない。何も起こらない。何も。
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