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7,マイペースが大事。
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翌日。ダンジョン塔【覇王魔窟】の前は、複数の人で賑わっていた。
「なにごとでしょう?」
あと【覇王魔窟】から30メートルほど離れた茂み、ちょうどいま私が立っている近くの茂みでは、ジェシカさんが隠れている。お尻を突き出しているので、文字通り『頭隠して尻隠さず』を体現していた。
「これがジェシカさんの、生き様!」
「バカなこと言ってないでキミも隠れなさい」
「はい──なぜ、隠れているんですか??」
「あのさぁ。エルフ族がどうして絶滅したものだと思っていたのかな? そこには、この大国アーテルと、われわれエルフ族との聞くも涙話すも涙な物語りがあるのだよ」
「うううう、そんな酷いことが! アーテル国によってエルフさんたちは虐殺されたんですね! だから今は身を隠しているんですね! うう、酷い!!」
「あ、そこまで重くない。ま、こんど話してあげるからさ。とりあえず今は、ハンカチ貸してあげるから、涙を拭きなさい」
「はい、どうもです。はなもかんでいいですか?」
「……いいけど、返さなくていいよ」
「え、返しますよ。もらっちゃ悪いですし」
「鼻水つきのハンカチを返すなボケ!!」
「ごめんなさいっ!」
とにかく茂みに隠れて、【覇王魔窟】の様子を眺める。先日まで、あれほど人が寄りついていなかったのに。武装した人たちは、【覇王魔窟】に臨む〈挑戦者〉だろうけど、それ以外の人たちはなんだろう。おや、記者さんたちもいる様子。
「あれは七大貴族家がひとつハーバン伯のところのお抱え〈挑戦者〉パーティだねぇ。どうして分かるのかって? 旗の紋章を見れば、どこの貴族家か一発で分かるのさ。逆に、なぜにキミは分からないのかな?」
「これまでの人生、セシリアちゃんとカブのことしか興味がなかったもので。ところで、貴族さんのお抱えとは?」
「うん。【覇王魔窟】というのは、何も完全攻略だけが目的じゃないんだよ。キミは興味ないだろうけど、上層階に行くとお宝が隠されていたりする。下層階は取り尽くされたけど、上層階はまだ誰も到達していなかったら、手つかずなのさ。ある意味では、〈挑戦者〉の目的とは、そっちが強い。お宝ゲットがね。」
「最上階まで行けば、夢が叶うのに? 『結婚できないバグ』を直せるのに?」
「現実問題、最上階まで行けると思っている連中は、少数派。あとさ、ずーーーーーっと思っていたけど、最上階まで行けば何でも願いが叶うのに、それでいいのか、キミは? 『結婚できないバグ』を直す、で。だいたいさ、セシリアという子は、キミのことが好きなの? つまり女子も恋愛対象なの? 百合さんなの?」
「さぁ」
「さぁって。ならいっそ『セシリアちゃんに愛してもらって、彼女と二人で末永く暮らせる王国をください』くらい叶えてもらえば? 【覇王魔窟】ならば、それくらい叶えてくれるよ。もちろん最上階まで行ければ、だけど」
「あ。私、そこまで高望みしないんです。それにセシリアちゃんの自由意志を奪うのは、愛ではないですからね。バグが直ったら、あとは自力でセシリアちゃんのハートを射止めます。射止められなかったら、カブを喉につまらせて自殺するので、問題なしですっ!」
「…………サバサバした性格なのか、病んでいるのか。分からない。キミは深い、深いぞアリア!」
「ありがとうございますっっっ!」
さて。【覇王魔窟】のほうで動きがあった。ハーバン伯のお抱え〈挑戦者〉パーティが、【覇王魔窟】へと入っていくところ。自信に満ちた足取りで。きっと今の私では想像もつかない上層階まで行った経験があるのだろうなぁ。
「記者さんたちは、なんでいるんですかね?」
「領民向けの宣伝でしょ」
「ちょっと分からないことがあるんですけど。貴族さんも、国王に忠誠を誓っているんですよね? じゃあ、【覇王魔窟】で何かお宝というものをゲットしても、国王陛下に献上しなきゃなのでは?」
「七大貴族家や大手ギルドならば、【覇王魔窟】で得た宝物を我が物にしても、国王は文句を言えないよ。へたに徴収でもしようとしたら、内紛となりかねないし。そう、いまのアーテルでは国王の力はそこまで絶大ではない。はぁ。とにかく、キミはそんなことは気にしなくていいから、自分のペースで行ってきなさい」
「はいっ!」
ハーバン伯のお抱え〈挑戦者〉パーティが出立したところで、見送った人たちはお開きとなった。ジェシカさんいわく上層階を目指したのならば、帰還するのは何日も先になるそうだ。
しばし待っていたら、またひと気のない【覇王魔窟】となった。ではでは、私は私のペースで行かせてもらいましょう。上層階にあるお宝さんと違って、【覇王魔窟】最上階が叶えてくれる願いに回数制限はないそうだし。
競争ではないので、マイペースでいこう。ということで、【覇王魔窟】入り。
1階、〈蠍群魔〉が13体。さくさくクリア。
2階、〈鮟鱇魔〉が1体。疑似餌にも騙されることなく、〈スーパーコンボ〉の《爆打》で殺しますね。
ちなみに魔物名は、ジェシカさんからもらった〈魔物図鑑:視覚版〉で判明した。
〈魔物図鑑:視覚版〉の効果は二つ。まず初めて見た魔物の正式名称が分かる。さらに撃破に成功した場合、その魔物の固有スキルなどの情報もインプットされるとか。便利さんですねぇ♪
さ。このまま3階に上がってみよう。
「なにごとでしょう?」
あと【覇王魔窟】から30メートルほど離れた茂み、ちょうどいま私が立っている近くの茂みでは、ジェシカさんが隠れている。お尻を突き出しているので、文字通り『頭隠して尻隠さず』を体現していた。
「これがジェシカさんの、生き様!」
「バカなこと言ってないでキミも隠れなさい」
「はい──なぜ、隠れているんですか??」
「あのさぁ。エルフ族がどうして絶滅したものだと思っていたのかな? そこには、この大国アーテルと、われわれエルフ族との聞くも涙話すも涙な物語りがあるのだよ」
「うううう、そんな酷いことが! アーテル国によってエルフさんたちは虐殺されたんですね! だから今は身を隠しているんですね! うう、酷い!!」
「あ、そこまで重くない。ま、こんど話してあげるからさ。とりあえず今は、ハンカチ貸してあげるから、涙を拭きなさい」
「はい、どうもです。はなもかんでいいですか?」
「……いいけど、返さなくていいよ」
「え、返しますよ。もらっちゃ悪いですし」
「鼻水つきのハンカチを返すなボケ!!」
「ごめんなさいっ!」
とにかく茂みに隠れて、【覇王魔窟】の様子を眺める。先日まで、あれほど人が寄りついていなかったのに。武装した人たちは、【覇王魔窟】に臨む〈挑戦者〉だろうけど、それ以外の人たちはなんだろう。おや、記者さんたちもいる様子。
「あれは七大貴族家がひとつハーバン伯のところのお抱え〈挑戦者〉パーティだねぇ。どうして分かるのかって? 旗の紋章を見れば、どこの貴族家か一発で分かるのさ。逆に、なぜにキミは分からないのかな?」
「これまでの人生、セシリアちゃんとカブのことしか興味がなかったもので。ところで、貴族さんのお抱えとは?」
「うん。【覇王魔窟】というのは、何も完全攻略だけが目的じゃないんだよ。キミは興味ないだろうけど、上層階に行くとお宝が隠されていたりする。下層階は取り尽くされたけど、上層階はまだ誰も到達していなかったら、手つかずなのさ。ある意味では、〈挑戦者〉の目的とは、そっちが強い。お宝ゲットがね。」
「最上階まで行けば、夢が叶うのに? 『結婚できないバグ』を直せるのに?」
「現実問題、最上階まで行けると思っている連中は、少数派。あとさ、ずーーーーーっと思っていたけど、最上階まで行けば何でも願いが叶うのに、それでいいのか、キミは? 『結婚できないバグ』を直す、で。だいたいさ、セシリアという子は、キミのことが好きなの? つまり女子も恋愛対象なの? 百合さんなの?」
「さぁ」
「さぁって。ならいっそ『セシリアちゃんに愛してもらって、彼女と二人で末永く暮らせる王国をください』くらい叶えてもらえば? 【覇王魔窟】ならば、それくらい叶えてくれるよ。もちろん最上階まで行ければ、だけど」
「あ。私、そこまで高望みしないんです。それにセシリアちゃんの自由意志を奪うのは、愛ではないですからね。バグが直ったら、あとは自力でセシリアちゃんのハートを射止めます。射止められなかったら、カブを喉につまらせて自殺するので、問題なしですっ!」
「…………サバサバした性格なのか、病んでいるのか。分からない。キミは深い、深いぞアリア!」
「ありがとうございますっっっ!」
さて。【覇王魔窟】のほうで動きがあった。ハーバン伯のお抱え〈挑戦者〉パーティが、【覇王魔窟】へと入っていくところ。自信に満ちた足取りで。きっと今の私では想像もつかない上層階まで行った経験があるのだろうなぁ。
「記者さんたちは、なんでいるんですかね?」
「領民向けの宣伝でしょ」
「ちょっと分からないことがあるんですけど。貴族さんも、国王に忠誠を誓っているんですよね? じゃあ、【覇王魔窟】で何かお宝というものをゲットしても、国王陛下に献上しなきゃなのでは?」
「七大貴族家や大手ギルドならば、【覇王魔窟】で得た宝物を我が物にしても、国王は文句を言えないよ。へたに徴収でもしようとしたら、内紛となりかねないし。そう、いまのアーテルでは国王の力はそこまで絶大ではない。はぁ。とにかく、キミはそんなことは気にしなくていいから、自分のペースで行ってきなさい」
「はいっ!」
ハーバン伯のお抱え〈挑戦者〉パーティが出立したところで、見送った人たちはお開きとなった。ジェシカさんいわく上層階を目指したのならば、帰還するのは何日も先になるそうだ。
しばし待っていたら、またひと気のない【覇王魔窟】となった。ではでは、私は私のペースで行かせてもらいましょう。上層階にあるお宝さんと違って、【覇王魔窟】最上階が叶えてくれる願いに回数制限はないそうだし。
競争ではないので、マイペースでいこう。ということで、【覇王魔窟】入り。
1階、〈蠍群魔〉が13体。さくさくクリア。
2階、〈鮟鱇魔〉が1体。疑似餌にも騙されることなく、〈スーパーコンボ〉の《爆打》で殺しますね。
ちなみに魔物名は、ジェシカさんからもらった〈魔物図鑑:視覚版〉で判明した。
〈魔物図鑑:視覚版〉の効果は二つ。まず初めて見た魔物の正式名称が分かる。さらに撃破に成功した場合、その魔物の固有スキルなどの情報もインプットされるとか。便利さんですねぇ♪
さ。このまま3階に上がってみよう。
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