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第307話 お前たちの人生だ

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「麗奈と理沙も泊っていく、で良いのか?」
「そのつもりだけど、ベッドが足りないなら今からでもホテル探すけど?」
浩之の問いかけへの麗奈の言葉に愛翔も浩之も溜息をついた。
「この街は比較的治安もいいですけど、麗奈さんも理沙さんも海外は久しぶりでしょう。父さん部屋は前のまま?」
「ああ、ただ、その」
浩之の戸惑いに察した愛翔は、ここでも溜息をつく。
「桜、楓、ちょっと手伝ってくれ。客間の掃除をする。下手をするとゴミ部屋になってるかもしれない」
「お、おい愛翔。桜ちゃんや楓ちゃんとは言え、客に掃除させるってのはちょっと……」
「父さん気持ちは分かるけど、そういう事は自分で掃除をするようになってから言ってくれ」
そう言いおいて愛翔はリビングに隣接した客間のドアを開け、天を仰いだ。
「まったくリビングが片付いているのが不思議だったんだけど、こういう事か」
そんな愛翔の肩越しに部屋を覗き込んだ女性4人は揃って浩之にじっとりとした視線を向けた。
「いや、普段使わないものをそっちの部屋に置いてるだけで……」
浩之の言葉は語尾が小さくなり最後は誰にも聞こえない。そこでハッと気づいた愛翔は、アメリカ在住時に自室にしていた部屋のドアを開けて覗き込む。”あれ?”
「この部屋にはゴミは入れてないんだ」
掃除こそされていないようだけれど、特に荒れた様子の無い部屋に意外だなと愛翔が感想を漏らす。
「そ、そりゃさすがに息子の部屋をにゴ、普段使わないものをつっこんだりしないぞ」
「掃除まではしてないみたいだけどね」
そこまで聞いていた麗奈と理沙が後ろでこそこそと打ち合わせをし、麗奈が口を挟んできた。
「あのこの状態の部屋を使えるようにするのはちょっと大変そうなので私と理沙さんは近くのホテルに部屋をとります。この時期なら空もあるでしょう?」
観光のハイシーズンではないので大丈夫だろうとの判断のようだ。
「愛翔は3年間この部屋ですごしたのね」
桜が感慨深そうに見回し、次いで楓が愛翔に向かって口を開いた。
「ねえ、この部屋って壁厚い?」
愛翔は首を傾げつつ
「んー、多分普通じゃないか。隣の部屋で話してる内容は聞こえないけど、誰かが話してるのはなんとなく分かる感じかな」
結局愛翔たち3人もホテルに部屋をとる事になった。
宿泊場所の手配が終わり、ひと段落したところで愛翔が真剣な顔で浩之の前に立った。
浩之も愛翔の真剣な雰囲気に姿勢を正して聞く態勢をつくる。
「父さん、前に電話でちょっとだけ話したの覚えているかな。桜と楓とのこと」
「ああ、2人ともと付き合うって言ってたあれか?」
「付き合う?いや、ニュアンスが違って伝わってるかな。俺たちは3人でこれからの人生を一緒に生きるつもりだ」
「ふむ、その言い方だと許可しろってことでは無さそうだな」
「ああ、普通とは違うのは理解している。普通の人からは理解されないことも分かっている。だからこれはケジメとして父さんに報告?宣言かな。そういう感じだよ」
愛翔の言葉に浩之は少しの間目を瞑り深く呼吸を整えた。
「親として思うところはある。けど、お前たちの人生だ。悔いを残さないように生きなさい」
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