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第304話 アン

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愛翔達一行は空港から車で移動していた。
「どうする。とりあえず、父さんの家に荷物を置きに行くか?」
「そうね、私たちは浩之君とお話をしたいから家に落としてくれるかしら」
麗華の言葉に親3人が頷いている。
「愛翔たちはこの車使って良いから、街を見て回るといい」

親3人を降ろした後、愛翔たち3人は麗華の言葉通り街を見て回っている。
「ここが、俺の通ったミドルスクールだよ」
「確かミドルスクールっていうと日本の中学に近いのよね」
敷地内の駐車場に車を停め、愛翔が説明すると、桜も楓も興味深そうに見回し、楓が口を開いた。
「そうだな、年代的にはだいたい日本の小学6年生から中学2年までかな」
「日本の中学校と違ってグラウンドって無いのね」
「ここはな。学校によってはあるらしいけど。色々みたいだ」
「愛翔はスキップしたって聞いてるけど、ここにはどのくらいいたの?」
「1年くらいだな、最初の半年こそ思うようにいかなかったけど、その後は割と順調だったから」
「じゃあ、あまりたくさんの思い出は無い感じかしら」
「そうだなあ、その頃は学校自体よりサッカーとストリートバスケかな」
「そう言えばストリートバスケでカイル君と知り合ったって言ってたわね」
「ああ、カイルと知り合えたのはラッキーだったよ。随分と世話になった」
そんな雑談をしながら当時の愛翔の通学路を歩く。
「そう、ここ。このコートで知り合ったんだよ」
そこは公園の中に仕切られた屋外バスケットコート。今もゲームやワンオンワンを何人もの人が楽しんでいる。
「へえ、結構にぎわっているのね」
「ああ、ここに来れば大体誰かが……」
「あれ、ひょっとしてアイトじゃないか?」
1人が声を掛けてきた。
「え?」
愛翔がふりかえった先にいたのは。190センチはあるだろう長身にデニムのボトム、2月だというのに半袖Tシャツを着た金髪の男だった。
「あ、やっぱりアイトだ。でかくなったな」
「え……。ひょっとしてアンか?」
「おう、覚えていてくれたか。久しぶり3年、いや4年ぶりくらいか」
「しかし、でかくなったのはアンのほうだろう。あの頃は俺より小さいくらいだったのが今じゃ190以上ありそうじゃないか。ここにいるってことはバスケットボールは続けてるのか」
「おいおい、続けてるって言い方ってことは見てくれてないのかよ。今じゃNBAテキサス・スペイサーズのスモールフォワードだからな。アイトこそどうなんだ?あの頃はバスケットボールとサッカーと両方やってたけど」
「ねえねえ、愛翔。そろそろ紹介してくれるかしら?なんとなくテレビで見たような気がするんだけど」
桜が我慢できずに口を挟んできた。
「ああ、桜はバスケ好きだもんな。NBAも見てるか。紹介するよ。俺がこっちにいた頃、一緒にストリートバスケやってたアン・デ・ガーナー。テキサス・スペイサーズでスモールフォワードやってるんだと」
そして愛翔はアンに向き直り
「こっちが桜、日本の高校女子バスケットボール全国16位のポイントガードだ。こっちが楓、日本の高校軽音楽全国コンクールの受賞バンドのギター兼ボーカル。2人とも俺の幼馴染で嫁さん。そして今は日本一の大学の学生でもある」
「まてまてまてまて、突っ込みどころだらけなんだが」
アンが混乱しつつ大声を上げた。
「ん?」
「ん?」
「なに?」
愛翔たち3人が揃って首を傾げた。
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