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第260話 報告

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「で、愛翔。どこで興信所の人と会うの?」
楓が、愛翔の耳に口を寄せてそっと尋ねた。端から見れば愛を囁いているようにもみえただろう。
「まあ、内容が内容だからな。こればかりは個室を準備したよ」
愛翔が桜と楓を連れて行ったのは、新幹線駅近くの和食どころ。愛翔が名前を告げると個室に案内される。
「お連れ様は、先にお部屋にいらっしゃいます。ご注文が、お決まりになりましたらお呼びください」
そう言って店員が下がる。
「お待たせしました」
愛翔が挨拶しつつ部屋に入ると。先に来ていた男は既に飲み物を口にしていた。
「いや、約束の時間にまだ10分もありますから」
桜と楓も軽く会釈をしつつ部屋に入る。
「ほう、そちらのお2人が。そりゃあいつらも嫉妬もするというものでしょう」
桜と楓がキッと男をにらむが、その男は気したようすもなく飄々としたようすだ。
「俺の嫁たちを揶揄うのはやめてくれるか。深澤さん」
「よ、嫁」
「嫁って愛翔」
たしなめるような愛翔の言葉だったけれど、その効果はむしろ桜と楓に向かって2人を照れさせた。
「ん?俺はそのつもりでいるんだけど」
そういうと愛翔は2人の頭をなでる。
頬を染めた2人を見やりながら深澤はフッと笑い。
「いや、すまん。あまりの可愛らしさについ、な」
軽く謝罪をしつつ自己紹介を始める。
「K探偵事務所の深澤明希(ふかざわ あき)と言います。よろしく」
「橘楓です」
「あ、華押桜です」
突然態度を変えた深澤に戸惑いながら自己紹介をする桜と楓。
「そ、それで深澤さんが興信所の方だってことは、調査結果を……」
楓がそこまで言ったところで愛翔が止める。
「そういうのは人が来なくなってから。な」
”え?”と疑問を浮かべる桜と楓に愛翔はメニューをさしだす。

オーダーした料理がテーブルに揃ったところで愛翔が切りだした。
「で、深澤さん。調査結果はどうでしたか?」
愛翔の言葉に深澤は横に置いてあったバッグから封筒を取り出す。それを愛翔に渡しながら呆れたように説明を始めた。
「盗撮の実行犯は高木実(たかぎ みのる)光野高校の3年生ですが、ドロップアウト組ですね。同じく光野高校のドロップアウト組の2人、鈴木純一(すずき じゅんいち)、加藤直美(かとう なおみ)とつるんで悪さをしているようです。普段から光野高校の部室棟の空き部屋を占有して悪だくみをしていますね。詳細は報告書に記載していますが、表には出ていないようですが過去にも他の生徒を陥れるなどかなりの悪さをしてきているようです。ただ器用に立ち回り自分たちに咎が回ってこないようにしてきていたようです。詳細は報告書を読んでください。過去の事件に関してはこの短期間では中々証拠までは掴めませんでしたが、分かった範囲で参考資料としてつけてあります」
愛翔は渡された資料を封筒から取り出す。
「多いな」
「ええ、一般人への隠蔽はしてきていたようですが、我々からすればざるでしたから」
そんな深澤の言葉を聞き流しながら愛翔は資料を確認していく。時々顔を顰めながら一通り資料を愛翔が確認したところで深澤が声を掛けた。
「で、どうします?まだ調査を続けますか?調べれば調べるほど出てきますから、調べる価値はあるかと思いますが」
愛翔はわずかに逡巡したうえでこたえる。
「いや、当面はこれで十分です。追加が欲しい状況になったらまたお願いします」
打ち合わせを終え家に戻った3人は受け取った資料を再確認し
「酷いな」
「ひどすぎるわね」
「最低ね」
顔を顰めた。
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