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第226話 引退しても

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成果は個人のものでは無くチームのもの。そう言い切った愛翔に何かを言おうとし、そして結局何も言えず椛山が立ち尽くす。
「それに、芸能界ってのはスポーツの世界以上に博打だろう。実力や才能だけでうまくいくとは限らない。元々その世界を望み夢破れたのならそれはそれで納得もいくだろうけどな。うまくいかなかった元芸能人ってのはどうなる?残念だったねと言うだけであなた達は何もしないだろう。俺たちはうまく行ってもうまくいかなくても一緒に生きていく覚悟でいるんだ、部外者が勝手なことを言わないでくれ」
「そうですか、そこまでの覚悟で……」
言い切った愛翔の態度に椛山は大きく溜息を吐くと立ち去っていった。
その後、数人のスカウトが楓のもとに来たものの楓はその全てを即断で断っていく。
楓以外の”春”のメンバーにも声を掛けてきたスカウトも居たようだったけれど、難関大を目指す彼女たちも僅かな逡巡こそ見せたものの全て断っていた。
「でゃわ、かえりましゅよ」
相変わらず嚙み嚙みの田口が先導して移動を始める”春”のメンバーとそれに同行する愛翔と桜。わずかに弛緩した空気と達成感を漂わせ駅へと進んでいった。


「そういえば、あの椛山さんだっけ。すごいアタックだったねぇ」
新幹線の座席に腰を落ち着けたところで不意に市野が口にした。
「まあ、こっちの想い関係なしだったから勘弁してほしいって感じだったけどね」
思い出して楓が顔を顰める。
「まあ、あたし達は楓ちゃんたちのことずっと見てきたからわかるけど、あの人もスカウトとして楓ちゃんが真剣に欲しかったんだろうなっては思うよ」
”あれは行きすぎだとは思うけどね”と横で大家が薄く笑った。
「みんなのところにも何人かスカウト来てたみたいじゃない。全部お断りしてたみたいだけど良かったの?」
「いいのいいの、私は音楽はあくまでも趣味の範囲だから。将来は大手企業の企画部でバリバリやるんだから」
長嶺は軽く流し
「あー、あたしも音楽は大好きだけど仕事としては勘弁してほしいかなあ」
市野が腕を頭の後ろに回しあははと笑う。その横で大家も軽く頷いていた。
「ま、なんにしても、最後に”春”としての華が咲かせられて嬉しいよ」
長嶺がポツリと呟いた。
「そっか、もうこれで部活は引退だものね。これが最後かあ」
少し寂しそうな市野の呟きに、楓が背中を叩き
「なーに言ってるのよ。光野高校軽音楽部”春”としての公式活動は最後でも、まだ文化祭もあるし、なんなら高校卒業してからだって”春”として続けようよ」
「う、うん、そうね。別にやめる必要はないものね。でも……」
”きっと楓ちゃんたちとは一緒に居られないんじゃないかな”市野は楓とその向こうにいる愛翔と桜を見ながらそっと呟いた。
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