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第214話 リハーサル①

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”春”の面々はリハーサルのためにコンテスト会場に来ている。ホテル近くの市民会館の大ホールが会場だった。
「結構大きなホールね」
大家の声がまだ人気のないホールに消える。
「私たちの演奏順は6番目ね。まだ最初のグループも始めてないから慌てる必要は無いけど、そろそろ準備していましょうか」
長嶺が立ち止まっているメンバーたちに促す。
「この順番って後になるほど有力って聞いたことがあるのだけど……」
そんな中で市野が気になっていたことを口にした。
「そういう噂は常にあるわね。そして、それが事実であるように取りを飾ったグループの最優秀賞率は高いわ」
珍しく楓が傲然と言える態度で言い放った。そして続ける
「でも、早い出番で最優秀賞を攫ったグループも少数だけれどあるわね。恐らく前評判とか実績で有力グループを後ろにしてるのでしょうね。でも、実績がなくても力があればきちんと見てくれるってことだと思うわ」
なるほどと納得したメンバーたちに
「だから、リハーサルの演奏を出来るだけ見ていきましょう。特に最後の5グループくらいは最有力なはずだから実力と最近の流行りを確認するの。どう?」
楓は長嶺を見て、そのまま顧問の田口に視線を向けた。
「にゃ?橘さん、長嶺しゃん、グループとしてにょ行動は、羽目をはずさなけれびゃ自由でいいわよ」
相変わらずカミカミで田口が自由行動を許した。なら、と長嶺が口を開く。
「まずは、リハーサルが始まるまでに準備をしてしまいましょう。で、準備ができた順に観客席で待機して他グループのリハーサルを見学。お昼も交代で食事に出て全部のグループの見学をするわよ。特に最後のグループは全員で見学できるように調整すること」
そう言ってメンバーを見回すと、全員が神妙な顔で頷いた。
準備とは言っても、リハーサルでは衣装を着るわけでもないため全員があっという間に終え、揃って観客席に陣取る。
しばらく待つとリハーサルが始まった。1番、2番、3番と進む。
「5番手までは、うちの方が上ね」
何気ない素振りで大家が呟いた。
「さ、そろそろ袖に入るわよ」
長嶺が促し、メンバーが立ち上がる。そのタイミングで楓は田口に声を掛けた。
「じゃあ、私たちはステージに向かいますのでビデオカメラをお願いします」
見れば”春”だけでなく、多くのグループが見学という名の偵察なのかコンテストの記録なのかは不明だけれど、各々カメラをセットして撮影している。
「はーい、では次、光野高校軽音部”春”のみなさんお願いします」
春の順番が来てそれぞれの機材をセットしていく。アンプ、エフェクター、マイク。それぞれの立ち位置を確認し、ひと通り演奏をした。こんなものかと視線を交わし頷いた”春”のメンバーは
「ありがとうございました」
リーダーの長嶺の挨拶で機材を片付けステージからはけた。
そのまま、撮影しつつ場所を確保している田口の周りに集まった”春”のメンバー。ステージの印象を口々に話す。
「思ったより広かったわね」
「そうね。特に奥行きがあってちょっと戸惑っちゃった」
「横幅もあるから、あまりくっついているとステージ映えしないんじゃないかしら」
そんな話をしつつも次々と行われるリハーサルから目を離さない。
「やっぱり全体に派手なアレンジが多いわね」
リハーサルが半分ほど進んだところで長嶺が感想を口にした。そして周囲のメンバーも首を縦に振り同意を示す。
「じゃ、今のうちに交代で食事にいきましょう。楓ちゃんと紫穂っち。先に食事してらっしゃい。ただしあまりゆっくりしている時間はないわよ」
楓は頷くと市野を伴い演奏の合間にホールの外に出た。
「食事ってどうする?」
市野が楓に尋ねるが、楓はスマホをいじっている。
「うん、こっち」
楓が先導し細い路地を抜ける。
「ここにしましょう」
楓が入り口のドアを開けて入り、市野は慌ててついていった。
そこはパスタ専門店で、パスタのいい匂いが漂っている。
楓が出迎えた店員に2名と告げると、4人掛けのテーブル席に案内された。
「楓ちゃん、この店知ってたの?」
「ふふふ、事前調査は大事よ。会場近くのレストラン関係調べてマップにマークしておいたのよ。ここはリーズナブルで女子高校生に人気のお店なの。楽しみだわ」
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