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第213話 愛してる

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楓が部屋に戻ると市野が2つあるベッドのひとつに横になってスマホを弄っていた。
「紫穂はゲーム?」
「ん。今日はイベントガチャの初日だから」
感情の見えない顔でそういうと市野はまたスマホに視線を戻し、何やら操作を再開した。
「ほどほどにしないと、おこずかいもあっという間になくなるわよ」
呆れ交じりの苦笑で言いながら楓はベッドサイドの時計で時間を確認すると自分もスマホを取り出す。画面をタップしてアプリを立ち上げ、少し待つとその画面に現れたのは
「よ、楓。1日お疲れ様。一緒に行ってやれなくてごめんな」
穏やかに微笑む愛翔の顔だった。楓はそれを見てふにゃりと表情を緩める。
「ううん、大丈夫よ。ありがとう」
「それにしても、離れていても顔を見ながら話せるってのは良いな」
「うん、ちょっと不思議な感じだけど。中学時代にもスマホ持ってたらって今更ながら思うわ」
「そうだなあ。アメリカに居た頃にこうして楓や桜と話せてたら寂しさもだいぶマシだっただろうなって思う」
「ふふ、アメリカでも友達は大勢いたでしょうに。愛翔が帰ってくる少し前のテレビの特集で大勢の人たちの真ん中にいる愛翔が映っていたわよ」
「まあ、仲良くしていた連中がいたのは確かだけど、楓と桜は特別だから」
愛翔の不意の言葉に楓が頬を染める。表情はとても嬉しそうに蕩けている。
「愛翔の特別」
「そうさ、他の友人達もいい奴らだし、大切な友人だと言える。でも楓と桜は、そんな友人達全部を合わせたより大切で特別なんだ。そんな2人と会う事も声を聴くことも出来なかった3年間はやっぱり寂しかったよ」
「も、もう、そんな事言われたら……。私にとっても愛翔は特別なんだもの」
楓は瞳を潤ませ言葉を詰まらせる。
しばし愛翔と楓は画面を通し見つめ合っていた。
「で、うまくいってるか?」
愛翔が話題を変える。照れくさかったのだろう楓もその話題転換に乗っかる。
「順調とは言い切れないけれど、なんとかするわ」
楓としては曲に関して愛翔に具体的な話をするわけにはいかないためこんな言い方になってしまった。そんな様子を愛翔は気付いているけれども、ここは手を出すところではないと穏やかに笑いながら囁いた。
「そうか、頑張れ。楓たちなら出来ると信じてるよ」
「うん、頑張る。応援しててね」
「もちろん、愛する楓のことだからね。当日も応援に行くよ」
「あう、愛翔いきなりは反則よ。でも私も愛してる」
楓は耳まで赤く染めながら通話を終えた。
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