幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

第184話 母の料理

「少しだけ愛翔に私の作った料理を食べてもらいたいと思ったの」
その言葉に桜も楓もそっと目を見合わせうなずいた。愛翔が一度も母親の手料理を食べたことが無い事を２人は知っている。
「あの、私達もお相伴にあずかっても？」
楓がそっとたずねると、よし子はぱあっとまるで少女のような笑顔を見せた。
「ええ、ええ、もちろん。愛翔の将来のお嫁さんでしょう。私の方からお願いしたいくらいよ」
よし子の直接的な表現に桜も楓も少し場からほほを染め、それでも嬉しそうにしている。


「ここでオリーブオイルをほんの少しだけ垂らすの。そうするとお味噌汁にコクがでるのよ」
「それは、思いつきませんでしたね」
よし子の料理に桜と楓が手伝いながら興味深々で聞いている。
「私の料理を食べたことの無い愛翔にとっては母親の味ではないでしょうけど、少しでも感じてもらえたらと思って」
そんな事を言いながらいくつかの料理を作っていく。先に作った味噌汁の他に、焼きナスのおひたし、ほうれん草と高野豆腐をとじた目玉焼き、タラに辛子明太子をあわせた焼き魚、そして
「卵が重なってしまうのだけれど」
と言いながらチーズの香るだし巻き卵を皿にのせた。
「そしてご飯にはこれね」
よそわれた白飯の上に大根葉とシラスのしょうがふりかけが掛けてあった。
「さ、温かいうちに食べてちょうだい」
そこからは４人で和やかな朝食風景だった。
「すごい、たったあれだけのオリーブオイルがお味噌汁をこんなに変えるんだ」
「このタラちょっとピリ辛で美味しい」
「だし巻き卵も出汁とチーズのバランスが……」

朝食後よし子は、また来ると言い置いて帰っていった。
「姉さんが料理に手を出さなかった理由はこれかな？」
「多分」
「ありそうね」
愛翔は何度か丘と弁当のおかず交換をしていたのである程度は予想していたけれど。
「予想以上にうまかったからなぁ」
出来立てのよし子の料理は愛翔たちの予想を上回っていた。
「またお料理を教えてくれるって言ってくれたのは嬉しいわね」