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第168話 誤解

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朝、愛翔が目覚めると目の前に桜の寝顔があった。
昨晩の桜の行動には愛翔も驚きを超えていた。それでも桜が愛翔を想っての行動だという事は理解している。それに何よりも
「あはは、なんか気分がスッキリしてる」
桜の行動で、ショック療法のように気分が変わったのだろう。愛翔は半身を起こし
「んん」
両腕を伸ばした。そして、桜の頬にキスを落とし
「桜、ありがとうな」
そう言いながら桜の頬を撫でた。
”カチャリ”
「愛翔、おはよう。玄関に靴あったけど桜先に来て……」
「「あ」」
愛翔と楓の目が合い、意図することなく声が揃う。
「ご、ごめんなさい」
パタンとドアが閉まり。楓の謝罪の声が聞こえた。”ごめんなさい?”愛翔は一瞬何故楓に謝罪されたのか分からず首をひねる。そして視線を下ろし桜の寝顔を見た。
「あ」
どうやら楓は誤解をしたようだと思った愛翔は桜を起こさないようにそっとベッドを抜け出すとリビングに移動し楓を探す。”カチャカチャ”愛翔が見回しているとキッチンから物音がした。
 愛翔がキッチンを覗くと、そこには朝食の準備を始めた楓が居た。しかし、いつもなら流れるように手際よく準備を進める楓の手もとがあやしい。表情も心ここにあらずといった風で動揺しているのが手に取るようにわかる。
 愛翔はふぅっとため息をつき、やっぱり誤解したかと声を掛ける。
「楓」
愛翔の声に楓はビクリと肩を揺らし固まる。そしてまるで弁解するように
「す、すぐに朝ご飯作るからね。桜も起こしてきてね」
そんな楓の反応に愛翔は、楓の肩に手を載せて向きを変え、目を合わせる。目を泳がせる楓にもう一度声を掛ける。
「楓、俺の目を見て」
楓はふぅと息を吐き、あきらめたように顔を向ける。
「ごめんね、覗いちゃって。でもそういう仲になったのなら私にも一言……」
「楓、それは誤解だ」
「でも、一緒のベッドに抱き合って寝てたわよね。さすがに言い訳は苦しいと思うのだけど。それに私も桜とだったら愛翔がそういう関係になっても……」
愛翔の言葉を聞かない楓の態度に愛翔はもう一度言った。
「だから、楓、それは誤解なんだって。たしかに結果的に桜を泊めたけどそういう事はしてない」
「でも、あんな優しい顔で桜のほほを撫でて……」
「いや、それ今に始まったことじゃないだろ。楓にだってしてきてるよね」
「あ、あれ?そういえば愛翔に頭撫でられたり、って普通に。あれ?」
「やっと気づいたか。てんぱりすぎだ」
そこから愛翔は自分の抱える問題を楓に話した。病気からの回復度、トレーニング量の制限、罹患前の状態に戻らないもどかしさ、将来子供が出来ない可能性、それらを抱え落ち込んでいたこと。そこに桜が強引にではあるけれど助けになりたいと言ってくれたこと。そこから桜を泊めるまでのいきさつ。そういったことを話した。
「そっか。桜すごいなあ」
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