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第167話 無理しやがって

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「ね、愛翔。愛翔の目はさ、遠くが見えすぎるのよ」
桜は言葉を重ね愛翔に囁く。
「しかも、その遠くは確定していない未来なの。そして愛翔の背中には大きな翼があるの。でも、いまその翼は傷ついていて、だから不安が大きくなるの。だから、ね、今は近くを見て。あたしを見て。あたしを感じて。あたしはここにいるの。あたしは愛翔の事を愛してる。今まではずっと愛翔に守られてばかりだった。でもね、あたしにも愛翔を守らせて、愛翔を支えさせて」
そう言うと桜は再び愛翔に目線を合わせる。そしてそっと唇をあわせた。ついばむように囁くように、そして徐々に深いキスに。そのまま愛翔をベッドに押し倒す桜。
「お、おい桜」
慌てた愛翔が今更ながら桜の肩を掴み押し返す。そしてハッとした顔になる。愛翔の視線の先の桜の頬は涙で濡れていた。
「愛翔。愛翔があたし達を大切にしてくれているのは分かってる。あたし達を傷つけないように凄く大切にしてくれている。でもね、優しさは時に毒になるの。だからいっそあたしに傷を残して。どんなになっても愛翔との絆になる傷を」
「しかし……」
桜の心からの叫びにそれでも愛翔は戸惑っていた。
「分かってる。今愛翔の気持ちは楓に寄っているわよね。それはそれで良いの。でも、だからこそ、今ここではあたしだけを見て欲しいの。あたしに寄りかかって欲しいの。それだからと言ってあたしを選べなんて言わない。だから今だけは……」
そう言うと桜は肩から愛翔の手を外し身体を寄せ愛翔の胸に手を置きシャツのボタンをひとつひとつ外していく。その手は少し震えていて
「桜、そんな無理をしないでくれ」
愛翔は、桜の手を掴み首を振る。
「ひょっとしたら、桜を抱いたら一時的に救われるのかもしれない。そういう話は聞いたことあるからね。でもそれじゃ、きっと俺は後悔する。だから……」
そこまで言うと愛翔はそっと桜を抱き寄せた。
「でも、ありがとう。桜のその気持ちだけでも俺は凄く救われた気がする」
そして唇を寄せ桜に優しくキスを落とした。
「……。わかった。でも今日はこのまま……」
それだけ言った桜は、愛翔の胸で静かに寝息を立てていた。
それを見た愛翔は、桜の頭をそっと撫でると、愛おしそうに髪にキスをし
「ったく、本当に無理しやがって」
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