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第162話 おかえり。おめでとう。

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愛翔は懐かしい公式戦の雰囲気に心を昂らせた。頬を撫でる風さえ違うように感じる。同じ試合でもクラブ内の紅白戦とはまるで違う緊張感。相手からのまるで射殺そうとするかのような視線。サポーターの縋るような声援。すべてが懐かしかった。愛翔の感覚ではまだ100%には戻していない。それでも前後半80分を過ぎた時点から10分だけなら、そう思いピッチを駆ける。
ステラスターFCボールでの左コーナーからのコーナーキック。以前の愛翔なら逆サイドやや引いた位置で待ち受け広く受けたシチュエーション。しかし、今回愛翔は中央やや引いた位置で構える。
キッカーは本田光男(ほんだ みつお)ステラスターFCチームのレフトウィングだ。本田はチラリと愛翔とアイコンタクトを交わしゴール前にハイボールを放りこんだ。ダイランFCの屈強なディフェンダーが頭を合わせボールを支配下に置いたと見えた次の瞬間、スルリと愛翔が身体をボールとディフェンダーの間に割り込ませた。変形のマルセイユルーレット。多少の無理はあったけれどディフェンダーの横を抜ける。しかし、その時ディフェンダーが強引に身体を寄せてきた。本来の愛翔のスピードであればそんな場所には既にいない。しかし、鍛えた体幹とストレッチで磨いたボディバランスでぬるりと抜ける。
”あと2人”
ボディフェイント、シザースフェイント、からの股抜き……
”ラスト”
エラシコ、ファルカンフェイント、愛翔が身に着けたフェイントを確かめるように惜しみなく繰り出す。そしてゴールキーパーと1対1。キーパーが前に出て距離を潰してくる。愛翔が右へズレながら切り込みキーパーが距離を潰しきる前に愛翔の右足、膝から下が小さく閃く。極小のモーションからのループシュート。ボールはキーパーの頭上を手の届かない高さをふわりと超えゴールマウスに転がった。
”ピー”
ホイッスルが響き一瞬の静寂の後
”うわぁぁぁぁぁぁぁ”
サポーター席、ステラスターFCサイドだけでなくダイランFCサイドのサポーター席からも歓声が上がる。拍手が湧く。愛翔が両の拳を天に向け突き上げ、次の瞬間うずくまる。
ハッと慌てて集まる両チーム。双方のメンバーが見たものは、両掌で顔を覆い涙を流す愛翔。
「戻ってきた。俺は戻ってきたぞー」
立ち上がり両手を振り上げ叫ぶ愛翔。そしてそんな愛翔に敵味方関わりなく愛翔に抱きついていく。
「おかえり。おめでとう」
そしてゲームはその愛翔のゴールが決勝点となり1対0でステラスターFCU18の勝利で幕を閉じた。
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