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第149話 heaven helps those who help themselves

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「愛翔、桜、お待たせ」
「いや、大丈夫だ。行こう」
大晦日深夜、全国的にも有名な神社に2年参りに愛翔は幼馴染2人を誘った。
桜と楓の家は旧住吉家を挟んでマンションの両隣のため愛翔が迎えに行けばどちらも一緒のようなもの。そして今日は楓の家で待ち合わせをしていた。
橘家の家族とリビングで談笑していた愛翔と桜が立ち上がる。
「っと」
愛翔がわずかにふらつく。
「愛翔大丈夫?」
横にいた桜が支えるまでもなく立ち上がった愛翔に心配顔を向ける桜。
「大丈夫、ちょっと立ちくらみしただけだ」
笑顔を見せる愛翔に桜もホッとした顔になる。
「じゃあ行ってきます」
「はい、娘をよろしくね」
愛翔の挨拶に笑顔で応える麗奈。多少ニマニマとした笑顔なのはクリスマスパーティーについて楓から聞いているからだろう。
外に出れば年末の夜の空気が肌を刺す。その中3人は僅かに身を縮める。
「う、さぶ」
愛翔はラフに首に掛けていたマフラーをしっかりと巻き直す。そしていつもの通り左右の腕にに桜と楓がぶら下がるように抱きつき歩き出す。
「大晦日は終電が無いんだな」
「そ、全国から沢山の人がお参りに来るからJRも私鉄もフル稼働ね」
いくつかの路線を乗り継ぎ、目的の神社の最寄り駅で降りる。既にかなりの人出で道が埋め尽くされていた。その様子を報道のテレビカメラが狙いレポーターの芸能人が何かを話している。
「すごいな」
「私たちも、2年参りは去年初めてで、驚いたわね」
「そうそう、はぐれないように一生懸命手をつないでたものね」
人込みに驚く愛翔に楓と桜が思い出を語る。
「でも、結局楓とははぐれなかったけど、うっかりお母さんやお父さんと手をつなぎ忘れてて。ね」
桜が照れくさそうに頬を染める。
「あの時は流石に焦ったわね」
楓のこういった話は珍しい。そのため、愛翔も好奇心が疼いてしまう。
「で、結局どうしたんだ?去年っていうとスマホも持ってなかったんだろ」
「えと、桜と2人でお参りをして、授与所でお守りを授かったわね」
「それから、屋台を少し回ったわね」
「社務所で呼び出しをしてもらおうとは思わなかったのか?」
愛翔が少しばかりあきれ顔で尋ねると
「うん、一応はぐれた時に落ち合う場所は決めてあったから」
ペロリと舌を出す桜に愛翔は更に苦笑する。
「ま、今日ははぐれる心配はないな」
優しく微笑む愛翔に桜も楓も心を委ね切った笑顔を向けた。
「屋台も多いな」
「うん、お参りに来てるのか、屋台を回りに来ているのか分からないくらいね」
楓がクスクスと笑う。
「でも、これだけの待ち行列だもの、このくらい無いと手持ち無沙汰じゃない?」
桜はこういうところポジティブな考えのよう。
「それもそうだな、何か買っていくか?」
3人は端によって正門をくぐり行列の流れに従って参拝所に向かった。
「まだかかりそうだなぁ」
並び始めて1時間、愛翔が軽くぼやく。
「まあ、仕方ないよ。はい、あーん」
両腕を桜と楓に抱え込まれている。つまりサッカープレー中でもないのに両手を使えない愛翔の口に桜がたこ焼きを持っていく。
「ハフハフ。ありがとう桜」
次はこっちだとばかりに次は楓が味噌で煮込んだ肉を愛翔の口に持っていく。
「うんぐぅ。結構濃い味だけど旨いな。ありがとう楓」
「だけどさ、食べる時は自分で食べたいんだが」
愛翔が少し控えめに言葉にするけれど
「愛翔の手を離してる間にはぐれたら嫌だもの」
2人とも愛翔の腕を離すつもりはない。
仕方ないと愛翔は諦め、桜と楓に時折あーんされながら進む。
しばらくはゆっくりと歩き愛翔たちの順番となった。さすがにここでは桜も楓も一度愛翔を離しお参りをする。お賽銭を投げ入れ、2礼2拍手1礼の作法にのっとりお参りをした3人。すぐに桜と楓は再び愛翔の腕をとり嬉しそうに歩く。
順路に従って進むと順路脇に授与所があり、各種お守りや、お札、おみくじが並んでいた。
「あたしおみくじ欲しい」
桜の一言で3人は授与所により、おみくじを手にする。
「恋愛、周囲の理解が必要?」
桜が最初に見たのは恋愛運。
「確かに私たちの恋愛は少しばかり難しいから一般には受け入れにくい面もあるかもねぇ」
楓がケラケラと笑う。
「もう楓はどうなのよ」
桜の声に楓が見せると
「まったく一緒ってどうなのかしらね」
桜が苦笑交じりに呟く。
「愛翔は?」
桜の声に愛翔も手元のおみくじに目を落とす。
「恋愛?”自らの決断次第。覚悟を決めよ”だって」
楓が愛翔の手元を覗き込む。
「あら?待ち人が”既に近くにいる”だって誰かしらね」
誰も見なかった愛翔の引いたおみくじの健康:甚だ危うし、注意すべし。
それぞれがおみくじをポケットにしまい再度移動をはじめた。
少しばかり歩いき愛翔が目をやった先に座れる場所を見つけた。
「少し休んでいこうか」
そう言うと並べられた椅子に桜と楓を座らせ、愛翔は屋台に向かう。
「はい、ふたりとも熱いよ」
愛翔が持ってきたのは紙コップに入った甘酒。ほんのり生姜が香り寒い中身体が温まる。
「ね、愛翔は何をお願いしたの?」
楓がそっと尋ねた。
「ん?U18世代別代表になってみせるから見守ってくださいってね」
愛翔の答えに桜も楓も笑顔を見せる。
「もう、なんというか愛翔よね」
桜がつぶやき
「そうよね。普通は代表になれますようにってお祈りするものだと思うのだけど」
楓も苦笑交じりに笑う。それに対して愛翔がそっと呟いた
「Heaven helps those who help themselvesさ」
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