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第143話 特別

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「あーいとー、おつかれー」
「お疲れ様愛翔。大活躍だったわね」
試合後の選手とサポーターの交流会。いつもと同じように愛翔に飛びつき抱きつく桜と楓。ほとんどのサポーターは”ああ、いつもの”という目で見ているけれど、こういう場では愛翔たちの関係を知らないサポーターもいる。
「何あの子達、住吉君にあんな馴れ馴れしくくっついて」
そして忌々し気な視線を桜と楓にむける女性2人。
「あなた達、住吉君に馴れ馴れしすぎるわ。離れなさい」
突然の指摘であったけれど、その声に最初に反応したのはやはり愛翔だった。にこやかにそれでいて徹底的に冷めた視線を2人に向け。
「彼女たちは俺の大切な人です。言いがかりはやめていただきたい」
「ひっ」
2人は愛翔の威嚇に言葉を失った。
「おいおい、いくら大事な女の子に絡んだからって威嚇はほどほどにしとけよ。一応サポーター様なんだから」
様子を見ていた時枝が苦笑しつつ愛翔に声を掛けてきた。
「ふん、そんなこと知るかよ。俺にとっては、そんな似非サポーターより桜と楓の方が何万倍も大事なんだ。時枝だって知っているだろう」
「わかったわかった。知ってるから。お前がすべてを失っても守ろうとする子たちだって分かってるから。でもそれと同時にその子たちがお前の事を大事に思っていることも忘れるなよ」
愛翔はふっと表情をやわらげる。
「もちろん、自分の事も大切にするさ」
そう言うと愛翔は桜と楓を両腕にぶら下げたまま和気あいあいと交流をしているサポーターたちの集団に入っていった。
「住吉君、今日もすごい活躍だったね」
愛翔は自分の親ほども年の離れたサポーターの相手をしている。
「ありがとうございます。みなさんの応援が力になりました」
笑顔で返す愛翔。桜や楓に返す笑顔はおろかチームメンバーに返す笑顔よりもさらによそよそしいけれど、それでも作り笑顔で対応をしている。
「そちらの2人が例の幼馴染さんかしら?可愛らしいわね」
「ありがとうございます。ただ、2人は一般人ですので接触は控えてくださいね」
愛翔の作り笑顔がひきつる。
「住吉君、写真いいかな?」
「はい、かまいませんよ。ちょっと桜と楓は離れていてくれ」
「ああ、出来れば彼女たちも一緒に……」
「すみません、彼女たちは一般人ですのでご遠慮ください」
愛翔の笑顔が消えた。


「人気者はつらいな」
含み笑いをしながら時枝が愛翔に声を掛けてきた。
「いくらサポーターっていってもな」
愛翔は溜め息をつく。
「ま、あの人たちはお前たちの関係を知らないからな。でどっちと暮らしてるんだ?」
時枝は声を潜めて愛翔に尋ねる。
「は、何のことだ?」
「あの時の合いカギは、そういうことなんだろ?」
「ちげーよ。あいつらそうでもしないと夜に家の前で待ってるんだ」
「は?」
「なんでもない」
愛翔はシマッタと口を閉じる。
そして仕方ないと
「ま、桜と楓は俺にとって特別ってことだよ」
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