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第92話 公式戦
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「あぁ、愛翔君ベンチスタートかぁ。さすがに公式戦だといきなりってわけにはいかないのね」
ステラスポーツセンター第一グラウンドの観客席でセミロングの茶色い髪をポニーテールにした女の子が残念そうにつぶやいた。
シャイン杯 ステラスターFCU18 VS エスゲイルFCU18。
前半37分、0対3。ステラスターFCU18チームは立ち上がりに1失点し、その後も攻守がかみ合わず失点を重ねてしまっていた。誰かが調子を落としているわけでもない、ゴールポストにボールが当たる僅かな角度の違いで相手のシュートは決まり、ステラスターFCのシュートは外れた。
「住吉アップしておけ。後半行くぞ」
ステラスターFCU18監督、織部が愛翔に声を掛けた。
「はい」
短く答えた愛翔はピッチ横で身体を動かし身体各部の状態を確認していく。少しずつ動きを上げ動的ストレッチ、ダッシュとアップをすすめる。うっすらと汗がにじむ程度にアップを済ませハーフタイムのブリーフィングに向かう。
「今日のエスゲイルは守りが硬い。後半はライトウィングに住吉を投入する。住吉、スピードと運動量でエスゲイルディフェンダー陣を崩せ」
織部の言葉に愛翔が頷くとチームメンバーが
「頼むぞ住吉」
愛翔の背中をパンパンと叩きながらピッチに向かった。愛翔は深呼吸を1回、そして両掌で頬をパンと叩いて気合をいれチームメイトの後ろを追った。
ピッチ脇に出るとチームの司令塔時枝が声を掛けてきた。
「住吉、最初から走れよ」
そう言うと拳を掲げてくる。
愛翔もその拳に自らの拳をぶつけ、
「おう、まかせてくれ」
選手たちがピッチに姿をあらわすと歓声とともに選手個々人への声援もあがる。その中でも多いのが時枝と、記者会見までしてステラスターFCに加入した愛翔へのもの。
「時枝さーん。応援してますぅ」
「住吉君ー、がんばってねぇ」
そこにひとり呼び名が違う声援が混じる。
「愛翔くーん、公式戦初出場がんばってぇ」
その声に気づいた愛翔は観客席に向かい頬を緩め手を振った。
「キャーッ、わたしに住吉君が手を振ってくれたわ」
「あたしによ」
「…………。」
観客席のちょっとした混乱に愛翔は苦笑し
「ちょっと失敗したかな」
ぽつりとこぼした。そこに時枝が寄ってきた。
「よう、住吉。ファンサービス満点じゃないか」
「ちょっと知り合いがいたものだからつい」
愛翔の反応に時枝が少しばかりシリアスな顔になった。
「女か?」
「あ、ああ。中学時代からの友人だ」
「気をつけろよ。ファンの間はいいけど、それを偶に乗り越えてくるヤバい奴がいるからな」
愛翔は現段階でそこまでとは思っておらず少しばかり驚いたが
「わかった気を付ける」
そう答えた。
ゲームはステラスターボールでのキックオフで後半が始まった。
愛翔はやはりいつも通りにライン際を上がる。まだボールを持っていないうちからマークがついき愛翔が既に警戒されているのが分かった。
そこに逆サイドから大きくパスが飛んだ。かなり敵陣奥だ。愛翔の足でもギリギリ間に合うかという位置。
「まったく楽をさせてくれないチームだ」
愛翔がうすら笑いを浮かべトップスピードでボールを確保する。そのスピードについていたはずのマークは既に後方に置き去りになっていた。
それでもボールをキープする僅かな動きの間に相手ディフェンダーが2人距離を詰めてきていた。
「やっぱりレベルが違う。サッカーはこうでなきゃ」
嬉しそうに笑う愛翔。しかも後ろから2人分の足音が聞こえる。1人は愛翔をフォローするステラスターのメンバーだろう。もう1人は置き去りにしたマーカーか。
愛翔はディフェンダーに近接しボールを左足の足裏でボールを止め、さらにボールを引き寄せながらボールとディフェンダーの間に身体を半回転させながらねじ込んだ。そこからさらに右足でボールを引き寄せ身体を再度半回転させボールを蹴りだしながらディフェンダーの横を抜ける。愛翔が愛用するテクニック、マルセイユルーレット。あっという間に2人を抜きさり更に前線にドリブルで切り込む。
後ろからは、焦ったような雰囲気でディフェンダーが追いかけてくるのを感じ、愛翔はふっと視界を広くとり周囲を見回すとボールをセンターに戻す。そのパスは前線でフリーになっていたセンターフォワード芦原譲(あしはらゆずる)に通った。すぐさまシュートを放つ芦原。フリーで打ったシュートはゴール右隅に吸い込まれゴールネットを揺らした。
「ナイスシュート芦原」
愛翔が芦原に声を掛ける。
「住吉こそナイスアシストだ」
ハイタッチを交わす2人。
そこから更に愛翔が1アシスト1得点をたたき出し、終了のホイッスルが鳴った。3対3ドロー。ステラスターFCU18チームはかろうじて黒星を回避することができた。
ステラスポーツセンター第一グラウンドの観客席でセミロングの茶色い髪をポニーテールにした女の子が残念そうにつぶやいた。
シャイン杯 ステラスターFCU18 VS エスゲイルFCU18。
前半37分、0対3。ステラスターFCU18チームは立ち上がりに1失点し、その後も攻守がかみ合わず失点を重ねてしまっていた。誰かが調子を落としているわけでもない、ゴールポストにボールが当たる僅かな角度の違いで相手のシュートは決まり、ステラスターFCのシュートは外れた。
「住吉アップしておけ。後半行くぞ」
ステラスターFCU18監督、織部が愛翔に声を掛けた。
「はい」
短く答えた愛翔はピッチ横で身体を動かし身体各部の状態を確認していく。少しずつ動きを上げ動的ストレッチ、ダッシュとアップをすすめる。うっすらと汗がにじむ程度にアップを済ませハーフタイムのブリーフィングに向かう。
「今日のエスゲイルは守りが硬い。後半はライトウィングに住吉を投入する。住吉、スピードと運動量でエスゲイルディフェンダー陣を崩せ」
織部の言葉に愛翔が頷くとチームメンバーが
「頼むぞ住吉」
愛翔の背中をパンパンと叩きながらピッチに向かった。愛翔は深呼吸を1回、そして両掌で頬をパンと叩いて気合をいれチームメイトの後ろを追った。
ピッチ脇に出るとチームの司令塔時枝が声を掛けてきた。
「住吉、最初から走れよ」
そう言うと拳を掲げてくる。
愛翔もその拳に自らの拳をぶつけ、
「おう、まかせてくれ」
選手たちがピッチに姿をあらわすと歓声とともに選手個々人への声援もあがる。その中でも多いのが時枝と、記者会見までしてステラスターFCに加入した愛翔へのもの。
「時枝さーん。応援してますぅ」
「住吉君ー、がんばってねぇ」
そこにひとり呼び名が違う声援が混じる。
「愛翔くーん、公式戦初出場がんばってぇ」
その声に気づいた愛翔は観客席に向かい頬を緩め手を振った。
「キャーッ、わたしに住吉君が手を振ってくれたわ」
「あたしによ」
「…………。」
観客席のちょっとした混乱に愛翔は苦笑し
「ちょっと失敗したかな」
ぽつりとこぼした。そこに時枝が寄ってきた。
「よう、住吉。ファンサービス満点じゃないか」
「ちょっと知り合いがいたものだからつい」
愛翔の反応に時枝が少しばかりシリアスな顔になった。
「女か?」
「あ、ああ。中学時代からの友人だ」
「気をつけろよ。ファンの間はいいけど、それを偶に乗り越えてくるヤバい奴がいるからな」
愛翔は現段階でそこまでとは思っておらず少しばかり驚いたが
「わかった気を付ける」
そう答えた。
ゲームはステラスターボールでのキックオフで後半が始まった。
愛翔はやはりいつも通りにライン際を上がる。まだボールを持っていないうちからマークがついき愛翔が既に警戒されているのが分かった。
そこに逆サイドから大きくパスが飛んだ。かなり敵陣奥だ。愛翔の足でもギリギリ間に合うかという位置。
「まったく楽をさせてくれないチームだ」
愛翔がうすら笑いを浮かべトップスピードでボールを確保する。そのスピードについていたはずのマークは既に後方に置き去りになっていた。
それでもボールをキープする僅かな動きの間に相手ディフェンダーが2人距離を詰めてきていた。
「やっぱりレベルが違う。サッカーはこうでなきゃ」
嬉しそうに笑う愛翔。しかも後ろから2人分の足音が聞こえる。1人は愛翔をフォローするステラスターのメンバーだろう。もう1人は置き去りにしたマーカーか。
愛翔はディフェンダーに近接しボールを左足の足裏でボールを止め、さらにボールを引き寄せながらボールとディフェンダーの間に身体を半回転させながらねじ込んだ。そこからさらに右足でボールを引き寄せ身体を再度半回転させボールを蹴りだしながらディフェンダーの横を抜ける。愛翔が愛用するテクニック、マルセイユルーレット。あっという間に2人を抜きさり更に前線にドリブルで切り込む。
後ろからは、焦ったような雰囲気でディフェンダーが追いかけてくるのを感じ、愛翔はふっと視界を広くとり周囲を見回すとボールをセンターに戻す。そのパスは前線でフリーになっていたセンターフォワード芦原譲(あしはらゆずる)に通った。すぐさまシュートを放つ芦原。フリーで打ったシュートはゴール右隅に吸い込まれゴールネットを揺らした。
「ナイスシュート芦原」
愛翔が芦原に声を掛ける。
「住吉こそナイスアシストだ」
ハイタッチを交わす2人。
そこから更に愛翔が1アシスト1得点をたたき出し、終了のホイッスルが鳴った。3対3ドロー。ステラスターFCU18チームはかろうじて黒星を回避することができた。
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