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第77話 娘を任せるのも

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靴に履き替え帰ろうとする愛翔が見ると校門に4人の人影があった。
「先に帰ってよかったのに」
愛翔の言葉に
「そんな訳にいかないわよ」
「そうそう、結局全部愛翔君にまかせっきりだったんだし。せめてお礼くらいはさせてよね」
理沙と麗奈が申し訳なさそうにこたえる。大人の返事の終わる前に桜と楓はちゃっかりと愛翔の両腕に抱きついていた。
「俺は桜や楓がつらい思いをするのが我慢できないだけですよ。ふたりが笑顔でいてくれるためならこの程度どうということはありません」
言い切る愛翔に理沙も麗奈も目を細める。
「はぁまったく男前に育ったわね」
「ふふ、うちの楓と桜ちゃん、愛翔君はどちらをお嫁さんにしてくれるのかしらね」
「え、えと。さすがに話題にしても早すぎでしょう」
突然のフリに愛翔もうろたえる。
「あら、2人以外を選ぶのかしら?」
「そりゃ、2人以上の女の子の知り合いはいないですけどね。なんというか結婚とかまだ実感がないんですよね。それに俺たちはまだ16歳になったところです。これからいろんな経験をしていろんな考えを学んで成長していくんです。その中で10年後15年後がどうなっているかなんて想像もつきませんから」
「愛翔君、その年でそれだけ考えられるのは凄いよ。今日の話合いだって、あれ全部愛翔君が思ったシナリオ通りに持って行ったんでしょ?」
「そりゃまぁ。向こうには何も知らせてない状態で、向こうの弱みも含めて情報を全部こっちが握って、法律的なことも下調べして、マスコミからSNSから実は理事長も含めて全部味方につけてたので、ある意味やりたいほうだいでしたからね」
そんな話をしながら帰宅路をたどり3人の家の最寄駅を出たところで彼らに手を振る男の子がいた。ショートカットの黒髪をワックスで軽く固め、白Tシャツに黒のデニムの朗らかなイケメン中学生、
「愛翔にぃちゃん。久しぶり。今日はねぇちゃんたちに嫌がらせした奴らを締めてくれたんでしょ」
楓の2つ下の弟、橘柾(たちばなまさ)が声を掛けてきた。
「おう柾、久しぶり。イケメンになったな。まあ、桜や楓にあれやられると、俺には我慢できないからな」
「あはは、愛翔にぃちゃんを敵に回すってどんだけバカって思うよ」
「で、それは良いとして、今日はどうしたんだ?」
「え、聞いてないの?」
そう言うと柾は麗奈を見やった。
「あはは、まだ言ってなかった」
軽い言葉で舌を出す麗奈。
「解決祝いにみんなで晩御飯でもって思って。呼んだのよ。うちの旦那も今日は仕事を早めに切り上げるって言ってたし、桜ちゃんのお父さんもそろそろ来るんじゃないかしら」
そこにまるではかったかのように駅前ロータリーの駐車スペースに止まるシルバーメタリックの大型ワゴン。そしてやや茶色い短髪を無造作にセットし、黒のカラーシャツにカジュアルな麻ジャケット、デニムパンツのちょい悪オヤジが降りてきた。桜の父、華押直樹(かおうなおき)だ。
「おう、愛翔君久しぶり。またメンドウ掛けたみたいだね」
「直樹おじさん久しぶりです。先の土曜日に帰国の挨拶に伺った時は休日出勤でお仕事だったとか。今日は大丈夫なんですか?」
「子供が余計な心配するな。大体こんな日に休まないでいつ休むって話だからな。なあ、慎一郎」
いつの間にか愛翔の後ろに立っていた白のカットソーにネイビーの麻タッチロングカーディガン、グレーの9分丈ストレッチカットパンツをボトムに合わせた爽やか系の男性に直樹が声をかけた。橘慎一郎(たちばなしんいちろう)楓の父親だ。
「まあな。愛翔君にはずっと世話になりっぱなしだからなぁ。」
「あ、慎一郎おじさんもお久しぶりです。相変わらずイケメンですね」

そして解決祝いという名の食事会は、駅近くのちょっと良い焼肉屋の個室で始まった。
「それじゃ、嫌がらせの解決を祝してカンパイ」
直樹の音頭でおのおのグラスを掲げ”カチン、カチン”打ち合わせる。
「って直樹おじさん車でしょ、飲んで良いんですか?」
愛翔が指摘すると
「ああ、大丈夫。あの駐車場24時間なんで、今日は歩いて帰って明日引き取ってくるから」
ほっと胸をなでおろし
「驚かさないでくださいよ」
苦笑する愛翔。
「それで、実際のところどうだったんだ?愛翔君のことだから完全に包囲網敷いて追い込んだんだろ」
慎一郎の言葉に最初の桜へのイジメ、写真のSNS流出、教室にしかけたカメラによる隠し撮りでの特定、そこから興信所を使った調査、記者会見を利用したマスコミへの意図的なリーク、校長からの呼び出しを受けた後で理事長に直接連絡を取り味方に引き込んだ事などの事前準備から話し合い当日のやり取りまで説明をした愛翔。その徹底したやり方に苦笑する保護者4人。それでも苦笑しながらも
「そこまでして守ってくれる愛翔君になら娘を任せるのも吝かじゃないぞ」
直樹の物言いに
「なんですか、さっきは麗奈さん、今度は直樹おじさんですか。てか、直樹おじさん、父親としては定番の”娘は誰にもやらんっ”てのはしないんですか?」
「あはは、流石にね。愛翔君が帰ってくるのをあれだけ楽しみにしていた桜を見て……」
「お父さん、何をばらしてくれてるのかしら」
桜が右てで直樹の口を塞ぎ、左手で耳を引っ張っている。
「いふぁい、いふぁい。むぅいふぁあいあら」
そんな直樹と桜の様子をみながら慎一郎も口をだした。
「おや、桜ちゃんもですか。うちの楓も愛翔君が帰ってくるのを随分と待ち遠しくしてましたよ。僕としても愛翔君が楓をもらってくれるのなら安心なんですがね」
「たく、そろってフライングもいいとこですよ。まだ俺たち16歳になったばかりですからね」
「なんだ、楓が気に入らんとでも言うつもりか」
「だぁ、この酔っ払い気に入る気に入らないじゃなくて、そもそも早すぎるって言ってるだけだろうがぁ」
叫ぶ愛翔の向こうにニヨニヨと笑う楓と嬉しそうではあるけれど微妙に居心地の悪そうな桜が並んでいた。
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