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第65話 決別
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「桜、これから部活か?」
「うん、ちょっと最近スランプ気味だから頑張らないと……」
6限目の授業が終わり部活に行こうとする桜に愛翔が声を掛けた。
「そっかがんばれ。それと今日は桜の誕生日だよな。これプレゼント」
愛翔がスクールバッグから取り出したのは桜色のラッピングに鮮やかな赤と金のストライプのリボンを掛けた小箱。
「わ、覚えててくれたんだ。嬉しい。開けていい?」
「いいよ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
「財布と、これはキーケース?」
入っていたのは海外ブランドのシンプルで上品なデザインの財布とキーケースのセットだった。
「素敵。でも良いの、高かったんじゃない?」
「気にしなくていいよ、例のMLSスポット参戦で結構いいお金もらったから」
「あ、ひょっとして楓が誕生日のあと嬉しそうに持ってたクラッチバッグ……」
「おい、ここでそれを口にするのはないだろ」
「ふふ、ありがとう。愛翔ってこういうのセンスいいわよね。大事にするね」
「おう、気に入ってくれてよかった。じゃ部活頑張ってな。俺はこれで帰るから」
女子バスケ部の練習が終わり雑談の花が咲いていた。
「ナイス華押さん。最近調子落としてたから心配したけどスランプ脱出かしら?」
溌溂としたプレイを見せた桜に先輩部員から声が掛かり
「ええ、かなり心配事が減りましたし、嬉しい事があったので」
桜もニコニコと返事をする。
「あら、噂の彼と良い事でもあった?」
「いえ、そちらは……」
桜は思いを込めるように一度目を閉じ、そして強い瞳で前を向いた。そして誰にも聞こえない声でそっと呟く。
「あたしもきちんとしなきゃ」
「華押さん、帰ろう」
「うん」
剣崎の誘いに、桜は身をひるがえし校門に向けて歩き始めた。
駅までの帰り道を並んで歩くふたりの距離は相変わらずで、つなごうと伸ばす剣崎の手を桜がするりと躱すのを繰り返す。そして、
「華押さん、ちょっと寄り道いいかな?」
剣崎は道路横のちょっとした公園を指さす。
「うん、いいよ」
「日曜日はごめんね。俺なんか焦っちゃってさ」
「そっか」
桜は以前のオドオドした感じではなくしっかりとした目で剣崎を見ていた。
その視線に気付いたのか気付かないのか、剣崎は言葉を続ける。
「それで、今日華押さんの誕生日だよね」
そう言うと剣崎はスクールバッグから小さな包みを取り出した。
「誕生日プレゼント受け取ってもらえるかな」
「開けても?」
「うん、気に入ってもらえると良いんだけど」
桜は、包みを丁寧に開き、箱のフタを開けた。
「どうかな、似合うと思うんだけど」
剣崎の言葉に
「ごめんなさい。これは受け取れないわ」
桜は悲し気な、それでも強い瞳で言葉を紡ぐ。
箱に入っていたのは銀色のネックレス。
「で、でも付き合ってる彼女への誕生日プレゼントに……」
「あたしも、これをプレゼントされる意味、受け取る意味は知ってる」
「それなら」
「そうじゃないの。だからこそ受け取るわけにはいかないの」
剣崎の言葉に桜はスッと顔を上げ空を見上げた。そして言葉を続ける。
「剣崎君が今日この公園に寄ろうって誘ってくれたけど、剣崎君が言わなければあたしが言ってた。剣崎君に、お話が、言わないといけないことがあるから」
「話って……」
話の内容を想像した剣崎は唇を噛んだ。それでも自分からは言えず、桜の言葉を待つ。
「剣崎君、別れてください。やっぱり剣崎君とお付き合いするのは無理です」
「で、でも、それじゃまた嫌がらせが……」
「そうね、でも大丈夫。愛翔がいるから」
「やっぱり住吉か。じゃぁ住吉と付き合うから大丈夫だって言うのか」
「違うわ」
きっぱりと強い語調で否定する桜。そして言葉を続ける。
「今のあたしには愛翔と付き合う資格ないもの。愛翔が帰ってきて校門で声を掛けてくれた時、あたしは死にたいくらい後悔した。なんであそこで少しだけ我慢できなかったんだろうって。それに愛翔は、付き合う付き合わないと関係なく守ってくれる。そもそも、嫌がらせから逃げるためお試しでとはいえ剣崎君と付き合ってしまった事実、あたしが愛翔を裏切った事実は消えないもの。この状態じゃ愛翔があたしと付き合ってくれるかどうかなんてわからないわ。それにたとえあたしが剣崎君と本気で付き合っていたとしても愛翔は嫌がらせに対して立ちふさがってくれるわ。でも剣崎君は違うわよね。剣崎君にとってあたしの気持ちは関係なくって、剣崎君があたしと付き合いたい。それだけでしょう」
「そんなことない。俺だって華押さんの事を守りたくて」
「なら、なぜ最初に嫌がらせをどうにかしようと思ってくれなかったの?嫌がらせを先に解決してそれから付き合おうって言ってくれたらもう少しは剣崎君にも好意を持てたかもしれない。でも剣崎君は嫌がらせをむしろ利用してお試しとはいえ付き合う事を優先したわよね。あの時はあたしも弱っちゃってたから考えることもできず受け入れちゃったけど。でもダメ。剣崎君と一緒に居ても楽しくないし、幸せな感じしないの。むしろ心が汚れていく、死んでいくそんな感覚だったわ。だから……」
「もういい!もうやめてくれ」
剣崎が耐えられないとばかりに叫んだ。
「わかってた。わかってたさ。オレじゃ住吉に何一つかなわない。あのハイスペックに対抗するなんて出来ないって。でも仕方ないじゃないか。好きになってしまったんだから。諦められなかったんだから」
その声に対して桜が否定する。
「分かってない。剣崎君は分かってないわ。あたしがいじめのターゲットになったのは今回が初めてじゃないの。小学4年生の時、理由の分からないいじめにあったわ。そのせいであたしは不登校になりそうになっていたの。その時に愛翔は立ち向かってくれた、助けてくれた、寄り添ってくれた。小学4年生じゃいくら愛翔でもできることなんてしれていた。それでも必死になってくれた。大人にだって向かって行ってくれた。それが愛翔よ。今のハイスペックだなんだって言われているのは本質じゃないわ」
「俺は、俺はそれでも……」
「さようなら。グループも抜けるわ。これからは普通の同級生としての関わり合いだけになるから」
そう言うと桜は俯く剣崎に背中を向けて立ち去った。
「うん、ちょっと最近スランプ気味だから頑張らないと……」
6限目の授業が終わり部活に行こうとする桜に愛翔が声を掛けた。
「そっかがんばれ。それと今日は桜の誕生日だよな。これプレゼント」
愛翔がスクールバッグから取り出したのは桜色のラッピングに鮮やかな赤と金のストライプのリボンを掛けた小箱。
「わ、覚えててくれたんだ。嬉しい。開けていい?」
「いいよ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
「財布と、これはキーケース?」
入っていたのは海外ブランドのシンプルで上品なデザインの財布とキーケースのセットだった。
「素敵。でも良いの、高かったんじゃない?」
「気にしなくていいよ、例のMLSスポット参戦で結構いいお金もらったから」
「あ、ひょっとして楓が誕生日のあと嬉しそうに持ってたクラッチバッグ……」
「おい、ここでそれを口にするのはないだろ」
「ふふ、ありがとう。愛翔ってこういうのセンスいいわよね。大事にするね」
「おう、気に入ってくれてよかった。じゃ部活頑張ってな。俺はこれで帰るから」
女子バスケ部の練習が終わり雑談の花が咲いていた。
「ナイス華押さん。最近調子落としてたから心配したけどスランプ脱出かしら?」
溌溂としたプレイを見せた桜に先輩部員から声が掛かり
「ええ、かなり心配事が減りましたし、嬉しい事があったので」
桜もニコニコと返事をする。
「あら、噂の彼と良い事でもあった?」
「いえ、そちらは……」
桜は思いを込めるように一度目を閉じ、そして強い瞳で前を向いた。そして誰にも聞こえない声でそっと呟く。
「あたしもきちんとしなきゃ」
「華押さん、帰ろう」
「うん」
剣崎の誘いに、桜は身をひるがえし校門に向けて歩き始めた。
駅までの帰り道を並んで歩くふたりの距離は相変わらずで、つなごうと伸ばす剣崎の手を桜がするりと躱すのを繰り返す。そして、
「華押さん、ちょっと寄り道いいかな?」
剣崎は道路横のちょっとした公園を指さす。
「うん、いいよ」
「日曜日はごめんね。俺なんか焦っちゃってさ」
「そっか」
桜は以前のオドオドした感じではなくしっかりとした目で剣崎を見ていた。
その視線に気付いたのか気付かないのか、剣崎は言葉を続ける。
「それで、今日華押さんの誕生日だよね」
そう言うと剣崎はスクールバッグから小さな包みを取り出した。
「誕生日プレゼント受け取ってもらえるかな」
「開けても?」
「うん、気に入ってもらえると良いんだけど」
桜は、包みを丁寧に開き、箱のフタを開けた。
「どうかな、似合うと思うんだけど」
剣崎の言葉に
「ごめんなさい。これは受け取れないわ」
桜は悲し気な、それでも強い瞳で言葉を紡ぐ。
箱に入っていたのは銀色のネックレス。
「で、でも付き合ってる彼女への誕生日プレゼントに……」
「あたしも、これをプレゼントされる意味、受け取る意味は知ってる」
「それなら」
「そうじゃないの。だからこそ受け取るわけにはいかないの」
剣崎の言葉に桜はスッと顔を上げ空を見上げた。そして言葉を続ける。
「剣崎君が今日この公園に寄ろうって誘ってくれたけど、剣崎君が言わなければあたしが言ってた。剣崎君に、お話が、言わないといけないことがあるから」
「話って……」
話の内容を想像した剣崎は唇を噛んだ。それでも自分からは言えず、桜の言葉を待つ。
「剣崎君、別れてください。やっぱり剣崎君とお付き合いするのは無理です」
「で、でも、それじゃまた嫌がらせが……」
「そうね、でも大丈夫。愛翔がいるから」
「やっぱり住吉か。じゃぁ住吉と付き合うから大丈夫だって言うのか」
「違うわ」
きっぱりと強い語調で否定する桜。そして言葉を続ける。
「今のあたしには愛翔と付き合う資格ないもの。愛翔が帰ってきて校門で声を掛けてくれた時、あたしは死にたいくらい後悔した。なんであそこで少しだけ我慢できなかったんだろうって。それに愛翔は、付き合う付き合わないと関係なく守ってくれる。そもそも、嫌がらせから逃げるためお試しでとはいえ剣崎君と付き合ってしまった事実、あたしが愛翔を裏切った事実は消えないもの。この状態じゃ愛翔があたしと付き合ってくれるかどうかなんてわからないわ。それにたとえあたしが剣崎君と本気で付き合っていたとしても愛翔は嫌がらせに対して立ちふさがってくれるわ。でも剣崎君は違うわよね。剣崎君にとってあたしの気持ちは関係なくって、剣崎君があたしと付き合いたい。それだけでしょう」
「そんなことない。俺だって華押さんの事を守りたくて」
「なら、なぜ最初に嫌がらせをどうにかしようと思ってくれなかったの?嫌がらせを先に解決してそれから付き合おうって言ってくれたらもう少しは剣崎君にも好意を持てたかもしれない。でも剣崎君は嫌がらせをむしろ利用してお試しとはいえ付き合う事を優先したわよね。あの時はあたしも弱っちゃってたから考えることもできず受け入れちゃったけど。でもダメ。剣崎君と一緒に居ても楽しくないし、幸せな感じしないの。むしろ心が汚れていく、死んでいくそんな感覚だったわ。だから……」
「もういい!もうやめてくれ」
剣崎が耐えられないとばかりに叫んだ。
「わかってた。わかってたさ。オレじゃ住吉に何一つかなわない。あのハイスペックに対抗するなんて出来ないって。でも仕方ないじゃないか。好きになってしまったんだから。諦められなかったんだから」
その声に対して桜が否定する。
「分かってない。剣崎君は分かってないわ。あたしがいじめのターゲットになったのは今回が初めてじゃないの。小学4年生の時、理由の分からないいじめにあったわ。そのせいであたしは不登校になりそうになっていたの。その時に愛翔は立ち向かってくれた、助けてくれた、寄り添ってくれた。小学4年生じゃいくら愛翔でもできることなんてしれていた。それでも必死になってくれた。大人にだって向かって行ってくれた。それが愛翔よ。今のハイスペックだなんだって言われているのは本質じゃないわ」
「俺は、俺はそれでも……」
「さようなら。グループも抜けるわ。これからは普通の同級生としての関わり合いだけになるから」
そう言うと桜は俯く剣崎に背中を向けて立ち去った。
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