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第64話 下部チーム

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「おはよう華押さん。今日は随分とご機嫌だね」
「ちょっと良い事あったからね」
月曜日の朝、剣崎の言葉に桜が軽く返す。明らかに日曜日に比べて明るくなっている。
「良い事って?あ、ひょっとして剣崎君と先に進んだとか?」
横で聞いていた理子が余計な口を挟んだ。とたんに落ち込んだのは剣崎。
「あ。あれ?剣崎君が落ち込んじゃった。じゃぁどうして?」
理子の追撃に
「ナ・イ・ショ」
桜は右手の人差し指を唇にあて笑顔でこたえた。

教室に桜が入っていくと
「おはよう楓」
「あ、桜おはよう」
先週の落ち込んだ桜から比べると随分と明るくなっている様子をみて
「桜、何か良い事あったわね」
楓もここで聞く。
「うん」
そこで溜息をつき苦笑を浮かべる楓。
「愛翔がもう動いたかな」
「え?なんで?」
「そりゃ桜をいきなり笑顔に出来るのは他にいないでしょ?」
「う、うん。『俺はもうここにいる。それが何を意味するかは桜なら分かるだろ』って言ってくれたから」
「さすがは愛翔ね。言葉一つで桜を立ち直らせるんだもの」
「それより愛翔は?楓が一緒に登校してるんでしょ?」
そこに”ガラガラ”っと入口を開け教室に入ってくる愛翔。
「お、桜おはよう」
「おはよう愛翔」
明らかに先週末とは距離感が違う。そこに楓が愛翔に左側から抱きついていく。
「さすが愛翔。動きが早いわね」
囁くように声を掛ける楓。
「まだまだだよ。あれで目安はつけたけど根本的なのが足りない」
そんな話をしながら桜に近寄っていく。
桜は、抱きつきたいけど抱きつけない、そんな葛藤を抱えてモジモジとしていた。
そんな桜に愛翔は自然に手を差し伸べ頭を撫でる。
撫でられた桜はホッとしたように表情を緩めふにゃりと笑った。

「愛翔、それで結局どこのクラブにするの?」
楓はとても気になるようで尋ねる。
「ん~地元のステラスターと、少し離れるけどエスゲイルから声掛けてもらって迷ってる。それにしても今週中に決めるよ」
「え、どっちもJ1チームじゃない。まさかいきなりプロ?」
「まさか、どっちも下部チームのユースU18での育成枠で呼んでくれてるんだよ」
「そっかそれでも凄いじゃない。どっちのクラブでもきちんと実力をつけて実績を作ればJ1プレイヤーも夢じゃないって事でしょ」
「ま、まぁそこまで単純じゃないけどね」
さすがに楓のポジティブすぎる意見に苦笑する愛翔。そして声を潜め
「詳しい話は家に帰ってからにするけど、ここからが……」
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