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第55話 イジメ

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「おはよぉ楓」
「おはよう。桜」
夏休み明け初日。今日から2学期が始まる。
「愛翔から連絡あった?」
「私のところには来てないわね。桜のところに……って、そう聞くってことは来てないのね」
「これで丁度3年ね」
「まぁ、愛翔のお父さんの仕事の都合もあるでしょうし、ぴったりとは行かないのは分かるけど。どうなのかしらね」
そんな話をしながら学校までの道を歩くふたり。
談笑しながらクラスの教室に入ると。なにやら雰囲気がおかしい事に気付く。
「何か雰囲気が変ね」
楓が口にする。
「何かあったのかしら?でも、この雰囲気小学校時代のあれに似ていて嫌な感じだわ」
桜もおかしな雰囲気を感じ顔を顰めた。あれというのは桜の身に降りかかった理不尽。いわれのないいじめだった。そして、
「な、なんで」
自分の席に向かった桜は、真っ青になり床にへたり込んでしまった。
それに気づいた楓が桜のそばに来て、気づき真っ青になり、ついで怒りに真っ赤になる。
「なに、これ」
桜の机には無数の落書き。
”ちょっと顔が良いからって良い気になるな”
”花火大会デートまでしておいて振るとかふざけんな”
”死ね”
”くそ女学校に来るな”
そして牛乳瓶に1輪さされた白い菊の花。
「!!」
怒鳴りだそうとして、そこであの時の愛翔の言葉を思い出す。
『怒ったら負けだ。冷静に証拠を残して使えるものは何でも使って桜を守るんだ』
そこで楓は深呼吸をして冷静さを取り戻すと
「理子、ちょっと来て」
丁度登校してきた理子を呼んだ。
「なに楓、どうしたの。桜うずくまっちゃってるし。って何この机」
「悪いんだけど、この机の状態を写真で保存してくれないかしら。私が出来ればいいのだけれど、ほらまだスマホ買ってもらえてないので」
「う、うん。いいよ」
そう言ってポケットからスマホを取り出す理子。
「ごめんね。それでいろんな角度から撮って欲しいの」
その楓の指示にしたがって様々な角度から写真を撮る理子。
「ありがとう。これから職員室に行くけど、その写真をもって一緒に行ってもらえるかしら」
「もちろんよ」
「じゃぁ、念のため理子の荷物も全部持って職員室に行きましょう」
「あたしの荷物まで?」
「ええ、言っては悪いけれど、こういうことをする下劣な人間は被害者を助けようとする人にも危害を加える傾向があるの。だから桜だけじゃなく私たちの荷物も持って職員室に行ったほうが安全なの」
さっそく荷物をまとめて職員室に向かう3人。最初に口を開いたのは理子だった。
「ねぇ、こういうことやったほうが良いのはわかるけど、楓、ちょっと手際が良すぎない?」
そこで、楓は桜の顔を見て少しばかり迷ったものの桜が頷いたのを見て口を開いた。
「ふぅ、そうね。なんで私がこんなに手際が良いか話しておくわ。それは私たちがまだ小学生だった頃よ、桜は今と比べて人見知りが激しくてね。いじめのターゲットにされたの。私と愛翔で一生懸命守ったし教師にも訴えたのだけど。口先ばかりだったわ。そこで愛翔が始めたのが証拠の確保と自衛方法ね。それで愛翔はいじめグループを徹底的につぶしたの。主犯格の何人かは転校していったわ。その時に愛翔が教えてくれた。そして愛翔が実行してくれたのがこれらのやりかたよ」
朝の職員室は騒然としていたけれど、その中で楓は担任の篠原周平と生活指導担当の鈴木哲也を捕まえ事情を説明した。その際に理子の撮った写真を見せ
「これは明らかなイジメです。即対処をしてください」
渋い顔の篠原・鈴木両教諭。それでも何も言わないわけにはいかないため
「わかった、犯人自体は不明だから個人への注意・警告は出来ないからクラスへの注意という形にせざるを得ないがそれで良いか」
篠原教諭の言葉に楓は顔を顰めながら
「そうですね、現時点ではそれしかしかたないでしょう」
さらに鈴木教諭が写真について言い及んだ
「その写真だが、こちらに渡したうえで削除して欲しい」
その言葉に楓はピクリと反応しそっとため息をつき
「なぜです。削除する必要性を感じませんが」
「いや、うっかり流出して騒ぎになってもいけないから、念のためだ」
「わかりました、現時点ではお渡しできるメディアがありませんので後日お持ちします。それではこれで失礼しますね」
職員室を辞し廊下に出た3人。
「あれは有耶無耶にする気マンマンね」
楓が毒を吐く。
「え?でも今の時点ではクラスに注意以上は出来ないのは確かなんじゃ?」
理子が疑問を口にするけれど
「それなら理子のスマホのデータを削除させる必要は無いわ」
「じゃぁなんで」
「あれって手書きの字なの。筆跡とかね。なので私たちが持っていて勝手に特定するのを避けたかったって事ね」
「じゃぁ削除しないほうがいいのね」
「いえ、理子のスマホ内のデータは削除しましょう。教師の指示に従わなかった事実を作るのも危険なので」
そう言った後で
「桜、今の先生たちとの会話は?」
楓が桜に確認を取ると、桜が小さな筒状の機器を差し出しニッコリとほほ笑んだ。
「ばっちり」
3人が教室に戻ると数人の女生徒が桜の机を磨いていた。
「何をしているのかしら?」
楓が何気ない風を装い尋ねると
「あ、あまりに酷い落書きだったから消そうと思って」
「ふうん、ありがとう」
楓がニッコリと笑顔を向けた。
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