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第29話 アイトとカイル

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「アイト、今日はもう終わりだろう。やっていかないか」
帰宅準備中の愛翔に声を掛けたのは、愛翔のハイスクールの同級生で、ややくすんだ金髪を短く刈り込んだ身長180センチほどの長身にがっちりした筋肉質のカイル・レイ・モリーナ。
「OKカイル。いつものところだね」
ふたりが向かったのは街角のバスケットコート。
「今日は、まだ誰もいないのか」
愛翔のつぶやきに
「ま、良いだろ。ワンオンワンやろうぜ」
カイルが応え、手にしたコインを見せる。カイルはコインをはじき左手の甲に受け右手の平で抑えた。
「表」
愛翔が慣れた様子で選ぶ。
「なら俺は裏だな」
カイルが右手をどけると、コインには自由の女神像が描かれていた。
「よし、俺がオフェンスだ。今日こそ勝ち越してやるからな」
上着を脱ぎコート脇においた愛翔がゴールを背に構えると、カイルが愛翔にパスを出す。それを愛翔がワンバウンドで返してスタート。

素早いフェイントから右サイドにドリブルでカットインしようとするカイル。カイルの重心の動きからフェイントに掛からずガードに入る愛翔。カイルがカットインを諦めた瞬間に愛翔がするりと手を伸ばす。カイルも簡単にボールは渡さないと愛翔の手と反対にターン。そちらからドリブルで切り込みをかけようとしたところに既に愛翔が待ち構えている。
「チィ」
舌打ちをしながらも一瞬愛翔に向かい、そこから斜め後ろにジャンプしながらシュートをうつカイル。愛翔のガードを潜り抜けるもボールはゴールリングに当たりゴールはならない。
 次は攻守交替、愛翔がオフェンス。一瞬左サイドに振り、右にターンすると見せながらむしろカイルに正面から向かう。直前でターンしつつカイルの足の間にボールを通す。
「しまった」
とっさに振り返りボールを追うカイル。しかし、もともと前を向いている愛翔が速い。そのままレイアップシュートを決める愛翔。
 愛翔はゴールしたボールを拾いカイルに投げ渡す。ボールを受け取りながらカイルがぼやく。
「まったく俺の股を抜くなんてアイトくらいだぞ。どういうボディコントロールしてんだよ」
「ボヤくなボヤくな。そんなことでボヤいていると、俺の連勝記録がまた伸びるだけだぞ」
「くそ、今日こそ止めてやる」
そのまましばらくワンオンワンを楽しむふたり。
「くそぉ、今日も負けかぁ。これで5連敗。12勝18敗かよ」
「悪いなカイル、ワンオンワンだと小回りの利く俺の方が有利だからな」
「それにしてもだ、俺はこれでもこの辺りじゃ上位チームのセンターなんだぞ」
「ま、相性だよ」
そう言いながら上着を拾い肩に掛ける。
「じゃ、そろそろ時間だから、オレは帰るな。またやろうぜ」
声を掛け帰ろうとする愛翔に
「アイト、今週末に試合があるんだ。来てくれないか。アイトならみんな歓迎するぞ」
カイルが呼びかけるけれど
「悪いな、週末は遠征なんだ。また誘ってくれ」
「遠征って先週末も遠征じゃなかったか」
「先週はU17。いいところ見せられたからU18に上がれたんだよ」
「たく、アイトには叶わないな。頑張って来い」
「おう、ありがとう」
拳をぶつけあいふたりは分かれて帰宅した。
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