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第28話 それだけ?

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「アメリカに、それでか」
多賀は呆けたようにつぶやく。そして
「それで住吉は、帰ってくるんだろうな」
「帰ってくるよ。約束したもの」
桜が小さく答えた。


「それにしてもさぁ」
藤島が呆れたように声を掛ける。
「俺みたいに可愛い彼女がいるわけでもないのに、学内でも有名な美女ふたりに声掛けて、聞くのが男の事かよ」
言われた多賀が、焦るように
「な、仕方ないだろうが。2年半も空振りだったんだぞ」
それを聞いた楓がやや意地悪そうな表情。
「クスクス。まるで愛翔に恋しているみたいね」
そこでハッとしたように理子が楓に詰め寄る。
「ね、ねぇ。その住吉君て人の写真とか無いの?」
その理子の勢いに珍しくタジタジとなる楓を見た桜がクスクスと笑いながら
「楓の慌てたとこなんて久しぶりに見るなぁ。でも理子さぁ、彼氏の目の前で別の男の子の写真をねだるってどうなのかなぁ」
指摘された理子は、はっと気づき、あわあわと慌てて否定の言葉を紡ぐ。
「そ、そういうのじゃなくって、ね藤島君、違うからね。あたしは単に多賀君とその桜と楓の幼馴染さんをカップリング……」
そこまで言うとはっと気づき両手で顔を覆うと俯いてしまった。その耳は真っ赤に染まっていて羞恥の極にいることが容易に判別できる。
そこに楓が優しく声を掛ける。
「そっか、理子はそういう趣味があったんだ。大丈夫よ。他人に迷惑さえ掛けなければ非難されるようなものではないわ」
しかし、その言葉は更に理子を追い詰めるセリフだったようで
「そういう事じゃないの、そういうことじゃあぁ」
はぁとため息をついて楓は理子の背中をポンと押す。その反動で理子は藤島の腕の中にすっぽりと抱えられてしまった。
「藤島君、あなたの出番よ。気にしないって言ってあげなさい」
楓の行動から腕の中に理子を抱きしめる結果になった藤島は、それだけで顔を朱に染め、おどおどしつつそれでも
「理子、だ、大丈夫。そりゃ最初は別の男に興味?って驚いたけど。そういうのじゃないなら、お、俺は気にしないから」
藤島がなだめていると、理子も少しずつ落ち着いてきた。そこに桜が不思議そうに声を掛ける。
「それだけ?」
「それだけって何がだ」
藤島は、それでもすでにいっぱいいっぱいのようで答えもぶっきらぼうだ。
「だって、大好きな彼女を抱きしめてなだめているのでしょ。キスくらいするのかと思ったのに」
桜のその言葉に桜と楓以外の3人は固まってしまった。
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