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第18話 「待ってる」「待ってて」

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「あ、おじさん、おはようございます」
「おぉ桜ちゃんおはよう。今日は見送りに来てくれたのかな」
「はい、楓もそろそろ来ると思います。今日は空港まで、お見送りにいくつもりです」
「そうか、ありがとうね。おーい、愛翔、もう桜ちゃん来てるぞ」
呼ばれて出てくる愛翔は、大型のスーツケースと小さな旅行鞄を抱えている。
「おはよう桜。早いな」
「おはよう愛翔。だってもう3年も会えなくなるのよ。少しだけでも長く一緒にいたいもの」
そう言うといつも通り愛翔の左腕に抱きつく。
「そっか、ありがとう」
愛翔もやさしく桜の頭を撫でる。桜はへにゃりとした笑顔を見せ愛翔の胸に顔を擦り付けるように甘えている。
「おはようございます。愛翔もおはよう。あ、桜もう来てたのね、おはよう」
そう言いながら玄関先に入ってきたのは腰までの黒髪を風になびかせた綺麗系の美少女楓。当然のように楓も愛翔の腕に抱きつく。
「愛翔に抱きつくのも今日でしばらくお預けかぁ」
楓の何気ない一言に桜も顔を曇らせた。
「おいおい、しばらく会えないんだからさ。沈んだ顔じゃなく笑顔見せてよ」
愛翔が軽い言葉で流し、ふたりの頬にキスを落とす。桜と楓も笑顔になり左右から愛翔の頬にキスを返した。
「えへへ、おかえしぃ」

「へぇ、それじゃ愛翔は向こうの中学?でいいのかな、の2年生に編入するの?」
「ミドルスクールって言うらしいんだけどね、日本でいう小学校が5年生までとところと6年生までのところがあって、5年生で卒業して通うようになるんだって。そこの2年目に編入する予定。アメリカだと小学校とか中学校高校の何年生って言わずにグレード何々って言うらしいんだけど、それのグレード7。で自分で取る授業を選ぶんだと。俺は初年度はとにかく英語の勉強のつもりでそっち系を特に頑張る。で2年目3年目で他の授業を目いっぱい取って追いつく感じにすると思う」
「へぇ中学、あミドルスクールだっけ。からまるで大学みたいね」
「そ、だからこっちにいる間から選択する科目選びをしてるんだぜ。まあ色々あって面白いけどね」
そんな雑談をしながら空港までの時間を過ごす3人組とそれを微笑ましく見守る浩之。
「それじゃ、愛翔、航空会社のチェックインカウンターに行くぞ。桜ちゃんも楓ちゃんもはぐれないようにね」
チェックインカウンターで航空券やパスポートの確認をし荷物を預けた一行。
「少し時間があるからレストランで軽く何か食べようか」
浩之が誘い空港内のレストランにはいる。
「やっぱり寂しくなるな」
楓がぽつりとつぶやき桜も
「ねぇ、どうしても行かなきゃいけないの?」
「何度も話しただろう。そこは仕方ないんだよ」
そこから誰も口を開かず、沈んだ雰囲気の食事となってしまった。
それでも時間は過ぎるもので
「そろそろ時間だよ。ゲートに向かおう」
浩之の言葉におずおずと立ち上がる3人。
出国ゲート前でも口を開けず向かい合う3人に浩之は”これも青春だなぁ”と微笑ましい思いを持ち見守っている。ギリギリの時間まで待っていた浩之だったけれど、
「さ、もうゲートに入らないといけないから。愛翔、ちゃんと行ってきますを言わないと後悔するよ。桜ちゃんも楓ちゃんも笑って行ってらっしゃいと言ってやってくれると嬉しいな」
その言葉に動き出す3人。
「愛翔、元気でね」
「桜、俺がいないからって人見知りでやられ放題になるなよ」
そう言いながら、桜を抱きしめる愛翔。
「うんうん、あたしも頑張る」
桜を離し楓に向かい合う愛翔。
「楓、色々暴走した時に止めてくれてありがとう。これからは桜を守ってやってな」
そう言いやはり楓を抱き寄せる
「うん、まかせて。愛翔も向こうで頑張ってね」
楓を離し、愛翔は二人と向き合う。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい。元気でね」
ふたりに背を向ける愛翔に桜が手を伸ばしかけ途中で止まる。それを見て楓は溜息を吐き、桜の背中を押す。
「え?」
突然の楓の行動に戸惑う桜に
「ちゃんと言葉と行動にしないと、向こうの金髪美人にとられるよ」
「う、うん。ありがとう楓」
ゲートに向かう愛翔を追って駆け出す桜。
「愛翔」
声を掛けられて、驚いたように振り向く愛翔に抱きつき言葉を絞り出す桜。
「愛翔、好き。幼馴染としてじゃなく男の子としてあたしは愛翔の事が好き」
桜の突然の告白に戸惑いながらも
「桜。俺の事を好きって言ってくれてありがとう。でも、俺は……」
愛翔の言葉をさえぎり桜が言葉を挟む
「わかってる。愛翔はまだ女の子と付き合うとか、好きになるって事が分からない。そう言ってたものね」
「うん」
「だからね、3年の間に答えを決めてきて。あたしは待ってるから」
「桜。わかった。3年できっと決めてくる。待ってて」
そう言って離れようとする愛翔を最後とばかりに抱き寄せ唇を奪う桜。
「えへ、今のは幼馴染へのキスじゃないからね。大好きな愛翔へのキスだから」
「桜……」
「ほら、飛行機乗り遅れちゃうよ」
そう言って愛翔の背中を押す桜に。
「わかった。行ってきます」
愛翔はどうにか笑顔を向け、ゲートを抜ける。
最後に振り向き手を振る愛翔に桜と楓も手を振り見送った。

愛翔の乗った飛行機が滑走路から飛び立つ。それをしんみりと眺める桜と楓。
「行っちゃった」
「うん、行っちゃったね」
「明日から愛翔いないんだ」
寂し気につぶやく桜に
「でも桜、ちゃんと言えたじゃない」
楓が桜の気分を上げようと囁く。
「うん、ありがとう。でも楓はよかったの?本当は楓だって」
「ふふ、大丈夫よ。私は愛翔と一緒。お付き合いするとか、男の子のことが好きとかよくわからないの。愛翔の事もそう、愛翔の事は好きだけど、今の私にとって愛翔はとても仲の良い幼馴染の男の子だもの。でも桜が油断してたらどうなるか分からないからね」
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