上 下
128 / 155
力をつけるために

第128話 姐御

しおりを挟む
「そこまで。勝者アサミ様」

今回はさすがにクレームはつかなかったわね。ふと見るとマルティナさんがケヴィンさんに詰め寄っているわね。

「すぐにレアルにポーションを飲ませなさい。あなた達なら1本や2本は持っているでしょう」
「はあ?たかが木剣での模擬戦で、しかもあのアサミってのはレアルの防具の上からしか打ってないじゃないか……」

あ、やっぱりあるのねポーション。怪我は自分で治してたし、病気もしなかったから使う機会はなかったけど、気にはなってたのよね。ぼんやりとそんなことを考えているあたしの横でレアルさんが

「げほっ」

血を吐いた。

「ちょっ。大丈夫……じゃないわよね」

どうしよう。魔法を使えば治せるけど、ポーションで済むのならそっちがいいのよね。

「ほら、急いで。命にかかわりますよ」

マルティナさんの言葉にケヴィンさんが首を横に振っている。

「無いんだ」
「え?」
「今日の狩りで使い切ったんだ」
「ならすぐに買ってきなさい。ギルドの……」
「無いんだよ。ギルドにも。最近の騒ぎでクリフでのポーションの消費が多くなっててギルドでも手配が間に合ってないんだ。だから今日の狩りを最後にポーションが手に入るまでしばらく休むつもりだったんだ」
「ポーションの手持ちも無いのに喧嘩売ったの?」
「いや、レアルならもし怪我をしたとしてもそんなひどいことになるとは思ってなかったから……」

マルティナさんが、縋るような目つきであたしを見てる。あたしは瑶さんと目を合わせた。瑶さんは仕方ないと頷いてくれたわ。

「みなさん、今日のことを絶対に秘密にできますか?」
「秘密に?まさか殺すつもりじゃ……」
「そんなわけないでしょう。アサミ様、お願いできますか?」

あたしの言葉に騒ごうとした辺境の英雄たちのメンバーを一喝してマルティナさんがあたしに聞いてきた。

「放置するのは後味悪いので、秘密にすると誓ってくれるなら。いえ、なかったことにしてくれるのなら、ですね。あと質問は無しで」
「ほら、あなた達次第よ。どうするの?」

マルティナさんが辺境の英雄たちのメンバーに決断を迫っている。感じとしてあまり時間がなさそうなんだけど。

「本当になんとか出来るんだな?」
「方法はある、とだけ言っておきます」

お互いに視線を交わす辺境の英雄たちのメンバー。そして揃って頭を下げて口を開いた。

「頼む。一切口外しないと誓う。いや忘れる、なかったことにする。あと一切質問はしない」
「わかりました」

早速あたしはレアルさんの様子を確認する。当然だけれど欠損はない。呼吸が浅くて速い。顔色も青白いわ。時折えずいては血を吐いている。基本的に打撃による腹部の負傷だけ。この程度なら多分ハイヒールで十分ね。

レアルさんのお腹に手を当てる。あたしは離れたところからでも回復魔法を掛けられるけど、掌を当てた方が効果が高いし効率もいい。

「ハイヒール」

回復魔法が発動し、うっすらとした青白い光がレアルさんの全身を覆う。
呼吸が安定し、顔色も赤味がさした。

「これでもう大丈夫だと思います」
「あ、ああ。ありがとう。それにしても……。いや聞かない、なかったことにする約束だったな」

そう言うと、辺境の英雄たちのメンバー達はレアルさんを抱えて帰っていった。

「アサミ様、魔法使いでありながら、前衛の5級ハンターを寄せ付けない剣技お見事でした」
「マルティナさん、今のあたしの剣は技術の伴わない力と速さでのゴリ押しだって知ってるじゃないですか。実際のところ技術ではレアルさんの方が明らかに上でしたよね」
「それを含めての実力です。それにアサミ様は、その力に驕ることなく鍛錬をされているではありませんか。その上達の速さからして技術的にレアルを超えるのもそれほど遠くはないと断言いたします」
「そんなもの……でいいのかしら」

つぶやきつつ、手に持ったままだった木剣をギルドのラックに掛けると、2つに折れてコロンと落ちた。





翌日、あたし達は、いつも通りに北の森の探索をすすめ、昼過ぎに清算のためギルドを訪れている。

「あ、姐御。昨日は申し訳ありませんでした」

レアルさんがあたしに向かって深々と頭を下げてきた。何事?姐御って何?いきなり態度変わりすぎでしょ。

「レアルさん、謝罪は受け入れますけど、誤解を招きそうな言い方をしないでください」
「誤解とは、寂しいじゃないですか姐御」
「大体なんで急に、そんな言い方するんですか」
「姐御の、強さと慈悲深さに惚れました」
「ほ、惚れたって、ちょろすぎるでしょう。それに大体レアルさん、あたしよりだいぶ年上じゃないですか」
「年なんか関係ないです。姐御は姐御です。それにそこまで言うほど年も離れていないんじゃないですか。オレ26ですよ」
「十分離れてるわよ。10歳も違うじゃないですか」

この世界の年齢はいわゆる数え年だから、この世界ではあたし15歳か16歳のはずなのよね。

「え?20歳くらいかと思って……。あ、高ランクのハンターは一番良い年代に身体が成長したり若返ったりするって言われてるから、そのせい?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...