17 / 155
異世界へ
第17話 森を抜ける
しおりを挟む
転移から今日で23日。あたしと影井さんは今日も川に沿って歩いているのだけど未だ文明どころか知的生命体の痕跡も見つけられていないの。
そしてこの23日の間に分かったこと。
ひとつ、どうやらこの世界の1日はおおよそ24時間。これは転移後に揺さんが腕時計で確認してたからほぼ間違いないわ。それにしても手巻きの機械式腕時計を持ってるって揺さんってこういうところもマニアックよね。ふたつ、この地域は季節は無さそう。これは倒れた木を見て揺さんが年輪が無いから季節は多分ないって言ってたのよね。みっつ、水は煮沸して飲みさえすれば害は無さそう。20日以上飲んできたから少なくとも短期的に健康に被害は無いわね。ただし、今のところ生水を飲む勇気はないわ。よっつ、嬉しいのは動物の肉も食べて平気だったの。これはとっても助かる。成長期のあたしに肉は絶対に必要だもの。ただそう言ったら揺さんに可哀そうなものを見る目で見られてしまったのよね。解せぬ。
そうそう、最近あたし達はお互いの呼び方を変えたの。これからいつまでかわからない間バディとして過ごすなら、もっとお互いの距離を縮めたほうがいいからってあたしが提案したの。だから今あたしは影井さんの事を揺さんって呼ぶし、瑶さんには、あたしのことを朝未って呼んでもらっているのよね。やっぱり呼び方が変わるとぐっと親近感が増したから、これは成功だったと思うの。
そしてそしてなんと今あたしの手には弓矢があるの。あたしが近接戦闘をしなくていいようにって、これも揺さんが木を切って削って作ってくれたのよね。弦はどうするのかしらって思ったのだけど、木の皮を叩いてほぐして作ってくれたわ。矢も細い木と落ちていた鳥の羽で作ってくれたのよね。練習用に10本。狩り用に20本。あたしの力だとあまり遠くまで飛ばなかったけど、どのみちそんな遠くの目標には当たらないものいいわ。矢筒も竹と木の皮で作ってくれたのよね。まあ、慣れてきたからか段々遠くまで飛ばせるようになってきたのだけど。今は飛ばすだけなら50メートルは飛ぶわね。当たらないけれど。クスン。
それにしても揺さんて本当に現代人かしら。サバイバル適性が高すぎるわよね。あたしはそれで助かっているので文句は全くないし、むしろ感謝しているのだけど。
そして今、揺さんは木に登っているのよね。この先の地形を少しでも確認しているって言ってたわ。その間あたしは暇になるので弓の練習中よ。毎日練習しているから10メートルくらいの距離においた直径50センチくらいの止まった的なら半分くらい当たるようになったのよ。昨日の狩りでは先制攻撃で1発当てたんだから。
「朝未、大分上手になったね」
ビクッとして狙ったところからかなりズレたところに矢が飛んで行ってしまったわ。向こうのほうでカツンと硬い音がして木か何かに当たったの分かるわね。
「か、瑶さん。驚かさないでくださいよ」
あたしが頬を膨らませて抗議すると揺さんはなんとなく目を泳がせて右手で頭の裏をかいているわね。
「いやあ、すまなかった。まさかそこまで集中しているとは思わず。でも実戦では周りの様子にも気を配らないといけないからね」
くっ、ど正論に反論ができないじゃないの。となれば話をそらすしかないわね。
「それで、上から見てどうでした?」
何か気付いたみたいだけど良いわよね。
「あと2、3日で平野に出られると思う。向こうに山の影がなくなったからね。あとは今まで通り川に沿って川下に向かおう。この川なら近くに文明があれば何かあると思うから」
「早く、この世界の文明を確認したいですよね。あ、あたし向こうに飛ばしてしまった矢を回収してきます」
「ああ、私も荷物をまとめておくよ」
的をそれた矢は少し離れたところの木に突き刺さっていたわ。最初の頃に比べるとあたしの弓の力も随分と強くなったのね。最初は木に刺さるなんてこと無かったもの。やっぱりコツをつかむと違うのね。
あたしは矢をどうにか木から引き抜いて回収すると瑶さんが荷物をまとめている場所に戻った。
そしてあたし達は、また川沿いを下っていく。
川幅が広くなり既に両側の河川敷まで含めるなら500メートルにせまる大きさとなった川面を見ながら瑶さんは期待を口にしたわ。実際文明が無かったなら、あたし達は2人きりで見知らぬ世界で生きていかないといけないのよね。瑶さんの事は信頼しているし一緒にいることは苦にならないけど、2人きりというのはさすがに色々な意味で辛いわ。年齢差を考えたら最後の数十年を1人で生きないといけなくなってしまうもの。そんなことになったらあたしきっと気が狂ってしまうわ。そこまで考えてフッと気づいたのは瑶さんは男性であたしは女性ということ。そうね、もし文明が無ければきっと……。想像して、うん不思議と嫌悪感なくて嫌ではないわ。でも今はまだそういう時期じゃないわね。それに瑶さんも今のところあたしを女性としては見ていないように思えるもの。
そしてその4日後、あたし達は森を抜けた。
そしてこの23日の間に分かったこと。
ひとつ、どうやらこの世界の1日はおおよそ24時間。これは転移後に揺さんが腕時計で確認してたからほぼ間違いないわ。それにしても手巻きの機械式腕時計を持ってるって揺さんってこういうところもマニアックよね。ふたつ、この地域は季節は無さそう。これは倒れた木を見て揺さんが年輪が無いから季節は多分ないって言ってたのよね。みっつ、水は煮沸して飲みさえすれば害は無さそう。20日以上飲んできたから少なくとも短期的に健康に被害は無いわね。ただし、今のところ生水を飲む勇気はないわ。よっつ、嬉しいのは動物の肉も食べて平気だったの。これはとっても助かる。成長期のあたしに肉は絶対に必要だもの。ただそう言ったら揺さんに可哀そうなものを見る目で見られてしまったのよね。解せぬ。
そうそう、最近あたし達はお互いの呼び方を変えたの。これからいつまでかわからない間バディとして過ごすなら、もっとお互いの距離を縮めたほうがいいからってあたしが提案したの。だから今あたしは影井さんの事を揺さんって呼ぶし、瑶さんには、あたしのことを朝未って呼んでもらっているのよね。やっぱり呼び方が変わるとぐっと親近感が増したから、これは成功だったと思うの。
そしてそしてなんと今あたしの手には弓矢があるの。あたしが近接戦闘をしなくていいようにって、これも揺さんが木を切って削って作ってくれたのよね。弦はどうするのかしらって思ったのだけど、木の皮を叩いてほぐして作ってくれたわ。矢も細い木と落ちていた鳥の羽で作ってくれたのよね。練習用に10本。狩り用に20本。あたしの力だとあまり遠くまで飛ばなかったけど、どのみちそんな遠くの目標には当たらないものいいわ。矢筒も竹と木の皮で作ってくれたのよね。まあ、慣れてきたからか段々遠くまで飛ばせるようになってきたのだけど。今は飛ばすだけなら50メートルは飛ぶわね。当たらないけれど。クスン。
それにしても揺さんて本当に現代人かしら。サバイバル適性が高すぎるわよね。あたしはそれで助かっているので文句は全くないし、むしろ感謝しているのだけど。
そして今、揺さんは木に登っているのよね。この先の地形を少しでも確認しているって言ってたわ。その間あたしは暇になるので弓の練習中よ。毎日練習しているから10メートルくらいの距離においた直径50センチくらいの止まった的なら半分くらい当たるようになったのよ。昨日の狩りでは先制攻撃で1発当てたんだから。
「朝未、大分上手になったね」
ビクッとして狙ったところからかなりズレたところに矢が飛んで行ってしまったわ。向こうのほうでカツンと硬い音がして木か何かに当たったの分かるわね。
「か、瑶さん。驚かさないでくださいよ」
あたしが頬を膨らませて抗議すると揺さんはなんとなく目を泳がせて右手で頭の裏をかいているわね。
「いやあ、すまなかった。まさかそこまで集中しているとは思わず。でも実戦では周りの様子にも気を配らないといけないからね」
くっ、ど正論に反論ができないじゃないの。となれば話をそらすしかないわね。
「それで、上から見てどうでした?」
何か気付いたみたいだけど良いわよね。
「あと2、3日で平野に出られると思う。向こうに山の影がなくなったからね。あとは今まで通り川に沿って川下に向かおう。この川なら近くに文明があれば何かあると思うから」
「早く、この世界の文明を確認したいですよね。あ、あたし向こうに飛ばしてしまった矢を回収してきます」
「ああ、私も荷物をまとめておくよ」
的をそれた矢は少し離れたところの木に突き刺さっていたわ。最初の頃に比べるとあたしの弓の力も随分と強くなったのね。最初は木に刺さるなんてこと無かったもの。やっぱりコツをつかむと違うのね。
あたしは矢をどうにか木から引き抜いて回収すると瑶さんが荷物をまとめている場所に戻った。
そしてあたし達は、また川沿いを下っていく。
川幅が広くなり既に両側の河川敷まで含めるなら500メートルにせまる大きさとなった川面を見ながら瑶さんは期待を口にしたわ。実際文明が無かったなら、あたし達は2人きりで見知らぬ世界で生きていかないといけないのよね。瑶さんの事は信頼しているし一緒にいることは苦にならないけど、2人きりというのはさすがに色々な意味で辛いわ。年齢差を考えたら最後の数十年を1人で生きないといけなくなってしまうもの。そんなことになったらあたしきっと気が狂ってしまうわ。そこまで考えてフッと気づいたのは瑶さんは男性であたしは女性ということ。そうね、もし文明が無ければきっと……。想像して、うん不思議と嫌悪感なくて嫌ではないわ。でも今はまだそういう時期じゃないわね。それに瑶さんも今のところあたしを女性としては見ていないように思えるもの。
そしてその4日後、あたし達は森を抜けた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる