4 / 12
4話
しおりを挟む
陸上部に『今日は帰る』ひとこと言伝をして瑠宇のお見舞いに行こうと下校準備をしていると
「天野はどうかしたのか。今日は休んでいるようだけれど」
陸上部顧問の八幡先生に呼び止められた。学校への連絡自体はおばさんがしてあるはずだけれど、詳しい話までは伝わっていないようで、いつも一緒にいる私に聞きにきたらしい。事故の事を話し、今からお見舞いに行くと伝えて下校した。
家で着替えて病院に行く。面会の手続きをしようとするとICUには家族以外は中々入れてもらえないらしく少し揉めてしまった。おばさんが来てくれて家族みたいなものと言って入れてもらえてほっとした。専用のガウンや帽子マスクを着用してICUに入る。すぐに瑠宇のベッドに行ったけれどまだ意識は戻っていなかった。面会時間の間ずっと瑠宇の手を握って話しかけていた。瑠宇からの返事が無いのが切なかったけれどきっと届いていると信じて話しかけた。
それからまっすぐ学校から帰ってお見舞いに行く毎日。4日目に瑠宇は一般病室に移ったので横に居る時間を長く出来た。ICUから出て付けられている管や機械は減ったけれど瑠宇はまだ目を覚まさない。
そして事故から1週間目。私は母親に頼まれた買い物を済ませて家に向かっていた。『もう、こんな時くらいお母さんが買い物行ってくれてもいいのに』そんなことを思いながら荷物を積んだ自転車を走らせているとスマホが鳴った。これは通話の呼び出し音。母さんからだった。道路の隅に自転車を止めて通話ボタンをタップする。
「瑠宇ちゃんの意識が戻ったそうよ。早く帰ってきなさい」
私は喜びで叫びだしそうになりながら、家路を急いだ。荷物を置いてまたすぐに自転車に飛び乗る。途中の赤信号がもどかしい。病院につき、走りそうになりながら瑠宇の病室に飛び込む。
「瑠宇」
そっと呼びかけると
「祥子ねぇ。怪我はなかった?あと悪いけど顔の向きも変えられないんだわ、正面に来てもらって良い?」
自分の方が大怪我してるのに最初に私のことを気遣ってくれる大切な幼馴染の声に泣きそうになりながら、正面に回って
「あたしは大丈夫。どこも怪我してないよ。それより瑠宇、あたしを庇ったせいで、こんなに。ごめんね」
嬉しい。瑠宇が目を覚ました。混乱するかもって言われていた記憶もちゃんとしているみたいだ。しかも瑠宇は私のことを全然責めない。出られなくなったジュニアオリンピックさえ私の方が大事なように言ってくれる。復帰のサポートをと頼ってくれる。こんなの泣くなって方が無理。私は瑠宇の手を両手で包み込むように掴み
「うん、うん。一緒に頑張ろう」
涙を流しながら答えた。瑠宇の怪我がほとんど選手生命を絶っていることを分っていても。ううん、きっと瑠宇自身も分っている。でも瑠宇は諦めない。それなら私が諦めてどうする。絶対に瑠宇をもう一度あの眩しいトラックに送り出すんだ。
「天野はどうかしたのか。今日は休んでいるようだけれど」
陸上部顧問の八幡先生に呼び止められた。学校への連絡自体はおばさんがしてあるはずだけれど、詳しい話までは伝わっていないようで、いつも一緒にいる私に聞きにきたらしい。事故の事を話し、今からお見舞いに行くと伝えて下校した。
家で着替えて病院に行く。面会の手続きをしようとするとICUには家族以外は中々入れてもらえないらしく少し揉めてしまった。おばさんが来てくれて家族みたいなものと言って入れてもらえてほっとした。専用のガウンや帽子マスクを着用してICUに入る。すぐに瑠宇のベッドに行ったけれどまだ意識は戻っていなかった。面会時間の間ずっと瑠宇の手を握って話しかけていた。瑠宇からの返事が無いのが切なかったけれどきっと届いていると信じて話しかけた。
それからまっすぐ学校から帰ってお見舞いに行く毎日。4日目に瑠宇は一般病室に移ったので横に居る時間を長く出来た。ICUから出て付けられている管や機械は減ったけれど瑠宇はまだ目を覚まさない。
そして事故から1週間目。私は母親に頼まれた買い物を済ませて家に向かっていた。『もう、こんな時くらいお母さんが買い物行ってくれてもいいのに』そんなことを思いながら荷物を積んだ自転車を走らせているとスマホが鳴った。これは通話の呼び出し音。母さんからだった。道路の隅に自転車を止めて通話ボタンをタップする。
「瑠宇ちゃんの意識が戻ったそうよ。早く帰ってきなさい」
私は喜びで叫びだしそうになりながら、家路を急いだ。荷物を置いてまたすぐに自転車に飛び乗る。途中の赤信号がもどかしい。病院につき、走りそうになりながら瑠宇の病室に飛び込む。
「瑠宇」
そっと呼びかけると
「祥子ねぇ。怪我はなかった?あと悪いけど顔の向きも変えられないんだわ、正面に来てもらって良い?」
自分の方が大怪我してるのに最初に私のことを気遣ってくれる大切な幼馴染の声に泣きそうになりながら、正面に回って
「あたしは大丈夫。どこも怪我してないよ。それより瑠宇、あたしを庇ったせいで、こんなに。ごめんね」
嬉しい。瑠宇が目を覚ました。混乱するかもって言われていた記憶もちゃんとしているみたいだ。しかも瑠宇は私のことを全然責めない。出られなくなったジュニアオリンピックさえ私の方が大事なように言ってくれる。復帰のサポートをと頼ってくれる。こんなの泣くなって方が無理。私は瑠宇の手を両手で包み込むように掴み
「うん、うん。一緒に頑張ろう」
涙を流しながら答えた。瑠宇の怪我がほとんど選手生命を絶っていることを分っていても。ううん、きっと瑠宇自身も分っている。でも瑠宇は諦めない。それなら私が諦めてどうする。絶対に瑠宇をもう一度あの眩しいトラックに送り出すんだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる