僕が守りたかったけれど

景空

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159話

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「本当にそのまま帰るつもりなの」
アーセルの言葉に僕は答えるしかない。
「僕達は皇帝の勅命として来ただけだからね」
「あたし達の居場所はもう帝国なのよ」
ミーアも同意してくれる。
「もう、あの時みたいなことは無いわよ」
「分かってるさ。僕達の手に入れた力はあんなことをさせないだけのものがある。でもね今となっては僕達は帝国でなら穏やかな生活が出来るようになっているんだ」
「あたしも、早くイングリッドとエルンストの顔を見たいわ」
ミーアが穏やかな笑顔を見せている。
「でもまた今回みたいなことがあったら……」
「大丈夫さ。伝説によれば上位王種の討伐に成功した時は、その後100年王種が現れないそうだ。それに」
「それに、何」
「勇者様も魔法耐性さえきちんと自覚すればもっと成長するさ」
「もう、フェイもミーアも勇者でしょうに」
「僕達は狩人さ。今までも、そしてこれからもね」
そう言って僕は大剣を鞘から抜き掲げて見せる。そこには穏やかな金色の燐光を放つものの王種を討伐した時のような輝きは無かった。
「たまには遊びに来てよね」
アーセルが諦めたようにつぶやいた。
「アーセルも、幼馴染として遊びに来てくれよ」




 「あれから5年か。久しぶりだねアーセル。勇者様も」
ソファに寛ぐアーセルと勇者様。久しぶりの帰国との事で遊びに来てくれたそうだ。
「せめて私的な場では勇者様はやめていただきたい。フェイウェル殿にそう言われるとどう反応したものか困ります」
「ふふふ、ではヘンゲン子爵と呼ばせていただくかな」
「いや、まだそれも早すぎます」
「しかし、そろそろなのでしょう」
「まあ今回の帰国はそのためではありますが。公爵閣下こそ、いよいよ領地を賜るとか」
それを聞いたとたんに僕は頭が重くなる。
「領主などガラではないのですがね」
「まあ、お隣になるようですし、これからもよろしくお願いしますよ」
エルダーアークデーモン討伐から5年、その間に僕は公爵に陞爵し、領地をあたえられることになっている。ヘンゲン子爵領と隣接した穏やかな地だそうだ。
 そして子供たちは
「父上母上、イングリッド、エルンスト只今戻りました」
「お帰り。今回の成果はどうだい」
「はい、地竜3、グラントータス5、スキューレ7です」
わずか12歳にして1級冒険者にのし上がっていた。
「お前たち、無理はするなよ」
「はい、まだ真竜は早いと思われますので出没地域に行かないように気をつけています」
「そ、それと、その」
「稽古か」
「はい、お願いします」
僕は刃を潰した模造刀を手に鍛錬場に向かう。
「イングリッド、あなた女の子なんだからほどほどにね」
ミーアの呆れたような声が聞こえる。
「せめて1本、父上に入れられるようになりたいです」
「あはは、現役を引き衰えたとはいえ、そうそう負けないよ」
エルダーアークデーモンを討伐してから魔獣もおとなしくなり、スタンピードもここ5年も起きていない。やはりスタンピードと王種とは関わり合いがありそうだ。それでも僕はこの穏やかな時間を満喫していた。願わくば、この穏やかで平和な時間が長く続くことを祈って。


-完-

これでフェイとミーアの冒険の物語はとりあえず本編としては完結となります。
159話という長いお話にお付き合いいただきありがとうございました。
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