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ダンジョンで全裸にされた男女、いろいろがんばる(主に男が)
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ダンジョン内。とあるフロアの隅っこで、俺は身を縮こまらせていた。
「どうしよう……マジでどうしよう……」
どこからか吹いてくる冷たい風に身を震わせる。心細さが増してきた。
フロアの中央にはでっかい花が特徴的な植物系のモンスターがいた。触手らしきものをうねうね動かして威嚇でもしているように見えるが、隅っこで震えている俺に興味を示していなかった。
だからってあのモンスターが安全ってわけじゃない。むしろ、とんでもなく危険だってことを俺は知っていた。
「あのモンスターに消化液みたいなもんをかけられたせいで……防具どころか服まで消えてしまった!」
それが何を意味するのか? それが一番重要で、できれば言いたくないことであった。
まあ、つまり……、今の俺は全裸なのだ。
もう言い訳の仕様がないほどの真っ裸。ダンジョンで全裸とか、どうしようもないほどの痴漢である。
幸いだったのは、人体に影響のない消化液だったことか。……いや、全然幸いじゃない! 裸で無一文にされた俺をどうしてくれる!
さすがに裸のままダンジョン内を歩く勇気は俺にはなかった。だって他にも冒険者が探索しているのだ。見つかったら恥ずかしいし、下手をすれば新種のモンスターに間違われて攻撃されるかもしれない。……それはないか。
とにかく! 今の俺は待機するしかない。善良な冒険者がこのフロアを訪れたら、布の一枚でもいいので貸してもらおうと思っている。もうそれしかねえ……っ!
なんてことを考えていたら、誰かがこのフロアに足を踏み入れた。
「だ、誰だ?」
できれば知り合いの冒険者であってくれ。そう願いつつ、どんな人物が来たのかと目を凝らす。
俺と同じソロなのか、たった一人、仲間がいるようには見えなかった。
その人物は冒険者らしく、剣と盾を持っているのが見えた。鎧も身につけているが、全身を覆っているタイプではなく、肌が視認できる程度には軽装だった。
「あれ、女じゃね?」
見える部分からでも女性らしい身体のラインがはっきりしていた。とても珍しいが、女一人でダンジョンに潜っているらしい。
「さすがに女の前で裸をさらすのはなぁ……」
せめて男がいるパーティーなら声もかけやすかっただろう。女一人の場面で、全裸の俺が声をかけたら言い逃れができない状況に陥ってしまう気がした。
俺が助けを求めるかどうか悩んでいる間に、その女冒険者はフロアの中央にいる植物系モンスターに近づいていく。
「何このモンスター? あまり見ないけれど……新種なのかしら?」
好奇心が勝ったのだろう。触手をうねうねさせているが、一向に攻撃してこないモンスターを観察しようと女冒険者がさらに距離を詰める。
「あっ、ダメだ! そのモンスターに近づいちゃいけないっ!!」
「え?」
気づいた俺が声を上げた時だった。
植物系モンスターの触手が急に女冒険者を襲ったのだ。目的もなくうねうねさせる動きしかしなかったのに、数を生かして彼女の身体をからめとった。
「きゃああああああぁぁぁぁぁっ!?」
絹を裂いたような叫び声がフロアに響き渡った。
それもそうだろう。怪しげなモンスターの触手に拘束されてしまったのだ。身動きが許さない状況に叫ばずにはいられない。……俺もついさっき同じ目に遭ったし。
モンスターの攻撃はこれだけでは終わらない。
「きゃっ!? な、何!? 身体がねばねばする……っ」
ブシュッ! と音を立てて触手の先から粘性のある液体が放たれる。白く濁った色をしたその液体は、女冒険者の身体をまんべんなく染めた。
「ああ……もうダメだ……」
俺は絶望した。あの液体を浴びては、この先の結末を逃れられないと知っているからだ。
「え……? と、溶けてる? 嫌っ、嫌ぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
白濁色の液体が染み込んでいく。触手で捕らわれた女冒険者の装備品を溶かしていった。
剣や盾。鎧どころか下着まで溶かしてしまう。俺も最初にあの液体を浴びた時に同じ反応をしたものだ。このまま自分も溶かされてしまうのだと恐怖した。
まあ、今俺が無事でいるように、あの液体は装備品を溶かすだけで人体にはまったく影響がなさそうなんだけどな。
「そこの君。落ち着くんだ。モンスターをあまり刺激するんじゃない」
「嫌ぁっ! 嫌だぁーーっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
「ダメだ。全然聞こえてない……」
女冒険者はじたばたしながら叫び続けている。完全にパニックになっているようだ。
あの植物系モンスターが何を考えているかはわからない。だけど、俺を襲った時は装備品を全部溶かした後は解放してくれた。刺激さえしなければ無害なモンスターかもしれない。いや、貴重な装備品を溶かされた時点で大損害だよ。
ブシャアァッ! と、また音がした。
それは触手の先から液体が発射された音ではなかった。女冒険者が暴れたことにより、溶けかけた剣の刃先が触手を傷つけた音だった。
切れ味がいいのか、触手から勢い良く白濁液が飛び散った。痛みでも感じているみたいにモンスターが悶える。
「な、何!? 今度は何っ!?」
女冒険者が目を剥いて驚きを見せる。
モンスターが花粉を撒き散らしたのだ。毒々しいピンク色の花粉が、女冒険者を包み込む。
咄嗟に吸ってはならないものだと判断し、俺は距離を取った。
けれど、触手で拘束されている女冒険者に逃げる術はなかった。明らかに人体に悪そうな色をした花粉を吸い込んでしまう。
「うっ……まぶたが重くなって……意識が……」
うつらうつらしたかと思えば、カクンと、女冒険者の頭が垂れる。
「おい! だ、大丈夫か!?」
声をかけるが、女冒険者に反応はなかった。まさか毒だったのか?
「すやすや……」
「ん?」
微かに聞こえてくるのは可愛らしい寝息だった。どうやら女冒険者は眠らされただけだったようだ。
抵抗がなくなったのをいいことに、モンスターは白濁の粘液をぶちまけて女冒険者を汚していく。植物なのになんだか気分良さそうに見えてしまう。どういう欲求であんなことをしているのだろうか?
「あーっと……結局やられてしまったか……」
すべての装備品を溶かされてしまった女冒険者は裸で床に転がされた。まだ粘液が付着しており、とても卑猥だ……。
満足したのか、植物系モンスターはフロアの中央で、何事もなかったかのように触手をうねうねさせる状態に戻った。冒険者を全裸にさせるモンスターってなんなんだよ!?
※ ※ ※
「すやすや……」
俺の目の前には、裸の女が無防備に眠っていた。
冒険者にしては目鼻立ちが整っている。髪の艶が良いし、綺麗な肌をしていた。どちらかと言えば、貴族と言われる方が信じられるくらいだ。
だが、ダンジョンでこのフロアに来られるとなると、それなりには実力者なんだろう。しかもソロでだ。外見通りの女とは考えない方がいいだろう。
「でも、今は冒険者だろうが貴族だろうが大した問題じゃないか……」
「すやすや……」
女冒険者が起きる気配はない。
全裸で眠っている女。モンスターに襲われる心配もあるけど、他の冒険者に見つかるのも心配だった。
「こんな状態だと、飢えた男の冒険者に襲ってくれって言っているようなもんだよな……」
別に顔見知りってわけじゃない。でも、放っておけないと思った。
「でも、俺も裸なんだよな……」
助けを求めに行くだけでも大変なのに、彼女を放置していたら誰に見つかるかわかったもんじゃない。こうなると人もモンスターも、危険度は同じのように思えた。
「ぐっ、どうする?」
裸の男女。場所はダンジョン下層。近くに冒険者の気配はない。
俺が植物系モンスターに全裸にされてから、かなりの時間が経っていた。これまでにこのフロアを訪れた冒険者はこの眠っている女冒険者だけだった。
「待っていても仕方がない、か」
たとえ冒険者がこのフロアに辿り着いたとしても、それが善良な人だとは限らない。冒険者にはやばい連中がいるってのを、俺はよく知っていた。
だから、俺はソロで冒険者をやっているんだからな。
「よし決めた! 引っぱたかれるくらいは覚悟するから、大目に見てくれよ」
俺は眠っている女冒険者に手を伸ばす。
「うっ……これが女の肌か……。なんか俺と全然違うな……」
初めて触れる女の肌に、なんというか……興奮してしまった。
いや待てこれは俺が悪いんじゃないっ! 男として正常な反応なのだ! それにいかがわしいことをしようってわけじゃないんだ……本当だ信じてくれ!
脳内で早口で言い訳を並べ立てる。余計に頭に血が上ってきてクラクラした。
「ええいっ! 男は度胸だ!」
覚悟を決めて、目をカッと見開く。視界に男の欲求を強く揺さぶるほどに美しい女体が広がった。
「とりゃっ!」
勢い良く、俺は女冒険者を抱きしめた。
※ ※ ※
「違うんだ……わざとじゃないんだぁ……」
ぺたぺたとダンジョンを歩く。裸足で歩いてみると意外と歩きやすかった。
現在、俺は女冒険者をおんぶしてダンジョンを脱出しようと行動していた。
最初に女冒険者をおんぶしようとして、俺は勢い余って彼女を抱きしめてしまったのだ。思った以上に興奮しすぎて、自分でも何をしたのか理解するのに時間がかかった。
肌と肌の密着。正面からの幸せな感触に、理性が吹っ飛びそうになったのは俺だけの秘密だ。
「まあ、背中で感じてはいるんだけどな」
眠っている相手だから、彼女の全体重が俺の背中にかけられている。胸の膨らみどころか、その柔らかさや突起の感触まで、しっかりと感じ取っていた。
「こんなところ誰かに見つかったら……絶対に俺が悪者になるよなぁ……」
全裸の男が全裸の女をおんぶしてどこかへと行こうとしている。変態が美女をさらっている図にしか見えなかった。
しかも、お恥ずかしながら……アソコが臨戦態勢に入っちゃっている。生理現象とはいえ、言い訳ができる状況じゃなかった。
「モンスターは……いないみたいだな」
いつもより何十倍も辺りを警戒しながら先を行く。
モンスターに見つからないのはもちろんのこととして、その辺の冒険者にも見つかるわけにはいかなかった。
「一番は話のわかる冒険者に会うことだけど……。こればっかりは運だよな」
残念ながら、俺に知り合いと呼べる冒険者はそう多くなかった。ソロ冒険者の弊害である。
慎重にゆっくり進む。背中に広がる幸せな感触……。いやいや何堪能してんだっ。急いでダンジョンを脱出しなければ!
「うおっ!? なんでお前裸なんだよ!?」
「うわあっ!? ち、違うんです!」
背中に伝わる感触に気を取られた一瞬の隙だった。……いやごめん、一瞬じゃなかったかもしれない。
冒険者パーティーに遭遇してしまった。見知らぬ連中で、状況を説明して協力してくれるかどうかはわからなかった。
「なんだなんだ? モンスターじゃねえのか?」
「オイ、こいつ裸の女を連れてるぞ」
「へへっ。兄ちゃんこれから何をしようってんだ? いけねえなぁ」
色欲に染まった数々の目。あまり良い感情ではなさそうだ。
「違うんだ。これはモンスターに襲われて装備品が全部溶かされてしまったんだ。この娘は眠らされているから助けなきゃならない。よければ布一枚だけでもいいからくれないか? ダンジョンから出られたら礼はする」
ダメかもしれない。そう思いつつも事情を説明する。
「そんなこと言って、アソコをおッ立てて説得力ないぜ」
男たちがゲラゲラと笑い声を上げる。羞恥心が刺激されて顔が熱くなった。
くっ、状況を考えると説得力がないのは否定できない。反論しようにも、あのモンスターを知らなければ信じてはもらえないだろう。
「兄ちゃんがヤる気がないってんならよ。その女、俺たちに渡せよ。楽しんだ後にちゃんと布一枚くらいなら恵んでやるぜ?」
「いいねえ人助けだ」
「見たところ上玉だしな。俺たちのパーティーに入れてやってもいいぞ」
「まあ冒険者としてじゃなくて、肉奴隷としてだけどな」
ゲハハハハッと汚らしい笑い声がダンジョンに木霊した。こいつらただの犯罪者じゃねえか。冒険者ギルドに戻ったら討伐依頼をしておこうと心に留めた。
「さあ、女を渡しな。そうすりゃ女を裸にして連れ去ろうとしていたってのを黙っていてやるからよ」
ごつい手がこっちに向かって伸ばされる。
俺が変態って言われるのは別にいい。結局、助けが来なかったら自力で脱出して、変態扱いされることになっていただろうしな。
でも、冒険者として人助けを放棄することはできない。だって俺が憧れた冒険者なら困っている人を必ず助けるからだ。
「触んな糞野郎っ!」
「あ?」
男のごつい手がピタリと止まる。代わりに俺に向けられていた目が厳しいものへと変わった。
他の男たちも危険な雰囲気をかもし出す。武器どころか防具もない俺に勝ち目はないだろう。
よし、逃げよう!
「炎の精霊よ、我が身を守る盾となりたまえ! ──ファイアウォール!」
「うあっち!?」
先に攻撃されたら逃げる確率も下がってしまう。男たちが動く前に、俺は魔法で炎の壁を作った。
男たちと距離を取る。ボウボウと燃える炎の壁のおかげで男たちが飛びかかってくる様子はない。怒号だけが俺を責めてくる。
「くっ、貴重な魔法を使わせやがって!」
身体を反転して別の通路を走った。みるみる距離が離れ、男たちの怒号も聞こえなくなった。
武器も道具もない以上、頼れるのは魔法だけだ。
魔法だって無限に使えるわけじゃない。ダンジョンを脱出するために温存しなければならなかった。
「すやすや……」
「呑気だなぁ、もうっ」
耳元で女冒険者の寝息が聞こえる。彼女にとっては貞操の危機だったってのに呑気なもんだ。
「本当に危ないんだからな。男はみんな獣なんだからな」
「すやすや……」
「俺だって、男なんだからな……」
「すやすや……」
「……はぁ~」
男の象徴を元気にさせているってのに、こうも穏やかに眠っているのを見るとバカバカしくなる。
「まったく、しょうがねえな」
俺は無防備すぎる女冒険者を背負い直し、ダンジョンを走った。スベスベモチモチの幸せを伝えてくる感触は、駄賃代わりと思って存分に楽しませてもらうことにした。
※ ※ ※
ダンジョンの出口が見えてきた。
「や、やっとここまで来た……」
走りすぎて息が切れている。遭遇したモンスターを追い払うために魔法をたくさん使ってしまった。そろそろ魔力が空っぽだ。
幸か不幸か、あれから他の冒険者には会わなかった。おかげで全裸という状況は変わっていない。
「だ、大丈夫かな? こんな格好だけどわかってくれるよな?」
出口が近づくにつれて、裸でいることに恥ずかしさを覚える。せっかくマヒしてきたってのに、全裸で人前に出るということに足がすくむ。
「ええい! ここまで来てひよってんじゃねえっ!」
俺は勢い良くダッシュしてダンジョンを飛び出した。
「きゃあああっ! ダンジョンから裸の男の人が出てきたぁーーっ!?」
「すいませえええぇぇぇぇぇぇんんっ!!」
ダンジョンの出入り口を管理していたギルド職員に叫び声を上げられた。なんでこんな日に限って女性職員なんですかね……。
※ ※ ※
新種のモンスターに全裸にされた女冒険者は無事に保護された。
いや、俺が彼女を全裸にしたわけじゃないんだ。そう言ったのに疑われてばかりだった。悲しい……。
「タイミング悪いよなぁ……」
しかも俺が事情を説明している最中に女冒険者が目を覚ましたもんだから、さらに混沌とした状況に陥ってしまった。
あの時のことを思い出すと涙が出てくる。
俺たちを全裸にした問題のモンスター。こいつを説明するのに時間がかかった。みんなが俺を汚物を見るような目をしていたせいでなかなか聞いてもらえている気がしなかった。
なんとか納得してもらえて、解放された時には俺の精神はボロボロになっていた。
ダンジョンで遭遇した冒険者の件もあり、俺に因縁をつけてくる連中もいた。もうここで冒険者として活動するのはしんどかった。
荷物をまとめる。次の拠点では裸で人助けなんかしないと決意した。……あんな状況、もうないだろうけどな。
「待って!」
振り返ると、裸で助けた女冒険者がいた。当たり前だけど今日はちゃんと服を着ている。
「えっと……」
どうしよう気まずい……。今更何をしにきたんだ?
「あの時、助けてくれてありがとうございます! ……危険なところを身体を張って助けてくれたのに、私お礼も言えてなかったから」
「君が無事なら何よりだよ。それじゃあ俺は行くから。次からは気をつけるんだぞ」
「あ」
女冒険者に背を向ける。最後にお礼を言ってもらえた。それだけで良かったなと思えた。男なんて綺麗な女性に礼を言われただけで舞い上がってしまう生き物なのだ。
「ま、待って!」
もう一度呼び止められた。今度は服の裾を掴まれる。
「あ、あのっ」
見れば女冒険者の顔が赤くなっていた。ダンジョン内を全裸でいたから風邪でも引いてしまったのだろうか?
「私を襲おうとした男たちからも助けてくれたと聞いたわ。あなただってあのモンスターに、その……苦しめられていたのに」
「まあ、お互いあのモンスターにやられて災難だったね」
「私、パーティーに所属していた時に仲間と思っていた人に襲われたことがあるの。それからはパーティーに入れなくなって……。ずっとソロで活動していたわ」
「そうなんだ」
彼女がソロでいるのは理由があったようだ。まあ俺も似たような理由だったのでわからなくもない。
「でも、一人では本当に危険な目に遭ったらどうしようもないわ。それを身をもってわからされた……」
女冒険者がキッと鋭い視線を俺に向ける。あれ、睨まれてる?
「あ、あなたなら信頼できる! お願い、私とパーティーを組んで!」
女冒険者の目が鋭いはずなのに、キラキラするほど潤んでいる。その目が綺麗で、少し見惚れてしまった。
「でも」
「無理は承知よ! 私からお願いしていることだから、パーティーを組んでくれるならなんでもするわ!」
「なんでも?」
思わず前のめりになる。いや、別に深い意味はないですよ?
「え、ええ。雑用でもなんでもよ。私のお金であなたの装備品を整えてもいいわ」
それってヒモだよなぁ。そう思っていると、彼女が俺に近づく。唇が触れるんじゃないかってくらい近かった。
「裸であなたの要求に応えてもいい……。だって、あなたには私の恥ずかしいところ、全部見られているんだもの……っ。裸になっても助けてくれる人なんて、他にはいないでしょうし……」
「……」
ダンジョンで助けた女冒険者。俺はとんでもない人を助けてしまったのかもしれない。
「ま、まあ……俺も仲間が欲しかったところだし? 君とパーティーを組んでもいいよ」
「ありがとう!」
花が咲いたような笑顔だった。やっぱり、冒険者らしくないな。可愛すぎてだけど。
裸の付き合いがあったからこそ、彼女の信頼を得られたようだ。恥ずかしかったけど、自分の心に従って良かったと思えた。
こうして、俺と彼女の冒険者生活が始まったのであった。
彼女とはこれからも裸の付き合いをすることになるのだが、この時の俺はそんなことを考えもしないくらいには健全だったのだ。……本当ですよ?
「どうしよう……マジでどうしよう……」
どこからか吹いてくる冷たい風に身を震わせる。心細さが増してきた。
フロアの中央にはでっかい花が特徴的な植物系のモンスターがいた。触手らしきものをうねうね動かして威嚇でもしているように見えるが、隅っこで震えている俺に興味を示していなかった。
だからってあのモンスターが安全ってわけじゃない。むしろ、とんでもなく危険だってことを俺は知っていた。
「あのモンスターに消化液みたいなもんをかけられたせいで……防具どころか服まで消えてしまった!」
それが何を意味するのか? それが一番重要で、できれば言いたくないことであった。
まあ、つまり……、今の俺は全裸なのだ。
もう言い訳の仕様がないほどの真っ裸。ダンジョンで全裸とか、どうしようもないほどの痴漢である。
幸いだったのは、人体に影響のない消化液だったことか。……いや、全然幸いじゃない! 裸で無一文にされた俺をどうしてくれる!
さすがに裸のままダンジョン内を歩く勇気は俺にはなかった。だって他にも冒険者が探索しているのだ。見つかったら恥ずかしいし、下手をすれば新種のモンスターに間違われて攻撃されるかもしれない。……それはないか。
とにかく! 今の俺は待機するしかない。善良な冒険者がこのフロアを訪れたら、布の一枚でもいいので貸してもらおうと思っている。もうそれしかねえ……っ!
なんてことを考えていたら、誰かがこのフロアに足を踏み入れた。
「だ、誰だ?」
できれば知り合いの冒険者であってくれ。そう願いつつ、どんな人物が来たのかと目を凝らす。
俺と同じソロなのか、たった一人、仲間がいるようには見えなかった。
その人物は冒険者らしく、剣と盾を持っているのが見えた。鎧も身につけているが、全身を覆っているタイプではなく、肌が視認できる程度には軽装だった。
「あれ、女じゃね?」
見える部分からでも女性らしい身体のラインがはっきりしていた。とても珍しいが、女一人でダンジョンに潜っているらしい。
「さすがに女の前で裸をさらすのはなぁ……」
せめて男がいるパーティーなら声もかけやすかっただろう。女一人の場面で、全裸の俺が声をかけたら言い逃れができない状況に陥ってしまう気がした。
俺が助けを求めるかどうか悩んでいる間に、その女冒険者はフロアの中央にいる植物系モンスターに近づいていく。
「何このモンスター? あまり見ないけれど……新種なのかしら?」
好奇心が勝ったのだろう。触手をうねうねさせているが、一向に攻撃してこないモンスターを観察しようと女冒険者がさらに距離を詰める。
「あっ、ダメだ! そのモンスターに近づいちゃいけないっ!!」
「え?」
気づいた俺が声を上げた時だった。
植物系モンスターの触手が急に女冒険者を襲ったのだ。目的もなくうねうねさせる動きしかしなかったのに、数を生かして彼女の身体をからめとった。
「きゃああああああぁぁぁぁぁっ!?」
絹を裂いたような叫び声がフロアに響き渡った。
それもそうだろう。怪しげなモンスターの触手に拘束されてしまったのだ。身動きが許さない状況に叫ばずにはいられない。……俺もついさっき同じ目に遭ったし。
モンスターの攻撃はこれだけでは終わらない。
「きゃっ!? な、何!? 身体がねばねばする……っ」
ブシュッ! と音を立てて触手の先から粘性のある液体が放たれる。白く濁った色をしたその液体は、女冒険者の身体をまんべんなく染めた。
「ああ……もうダメだ……」
俺は絶望した。あの液体を浴びては、この先の結末を逃れられないと知っているからだ。
「え……? と、溶けてる? 嫌っ、嫌ぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
白濁色の液体が染み込んでいく。触手で捕らわれた女冒険者の装備品を溶かしていった。
剣や盾。鎧どころか下着まで溶かしてしまう。俺も最初にあの液体を浴びた時に同じ反応をしたものだ。このまま自分も溶かされてしまうのだと恐怖した。
まあ、今俺が無事でいるように、あの液体は装備品を溶かすだけで人体にはまったく影響がなさそうなんだけどな。
「そこの君。落ち着くんだ。モンスターをあまり刺激するんじゃない」
「嫌ぁっ! 嫌だぁーーっ! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
「ダメだ。全然聞こえてない……」
女冒険者はじたばたしながら叫び続けている。完全にパニックになっているようだ。
あの植物系モンスターが何を考えているかはわからない。だけど、俺を襲った時は装備品を全部溶かした後は解放してくれた。刺激さえしなければ無害なモンスターかもしれない。いや、貴重な装備品を溶かされた時点で大損害だよ。
ブシャアァッ! と、また音がした。
それは触手の先から液体が発射された音ではなかった。女冒険者が暴れたことにより、溶けかけた剣の刃先が触手を傷つけた音だった。
切れ味がいいのか、触手から勢い良く白濁液が飛び散った。痛みでも感じているみたいにモンスターが悶える。
「な、何!? 今度は何っ!?」
女冒険者が目を剥いて驚きを見せる。
モンスターが花粉を撒き散らしたのだ。毒々しいピンク色の花粉が、女冒険者を包み込む。
咄嗟に吸ってはならないものだと判断し、俺は距離を取った。
けれど、触手で拘束されている女冒険者に逃げる術はなかった。明らかに人体に悪そうな色をした花粉を吸い込んでしまう。
「うっ……まぶたが重くなって……意識が……」
うつらうつらしたかと思えば、カクンと、女冒険者の頭が垂れる。
「おい! だ、大丈夫か!?」
声をかけるが、女冒険者に反応はなかった。まさか毒だったのか?
「すやすや……」
「ん?」
微かに聞こえてくるのは可愛らしい寝息だった。どうやら女冒険者は眠らされただけだったようだ。
抵抗がなくなったのをいいことに、モンスターは白濁の粘液をぶちまけて女冒険者を汚していく。植物なのになんだか気分良さそうに見えてしまう。どういう欲求であんなことをしているのだろうか?
「あーっと……結局やられてしまったか……」
すべての装備品を溶かされてしまった女冒険者は裸で床に転がされた。まだ粘液が付着しており、とても卑猥だ……。
満足したのか、植物系モンスターはフロアの中央で、何事もなかったかのように触手をうねうねさせる状態に戻った。冒険者を全裸にさせるモンスターってなんなんだよ!?
※ ※ ※
「すやすや……」
俺の目の前には、裸の女が無防備に眠っていた。
冒険者にしては目鼻立ちが整っている。髪の艶が良いし、綺麗な肌をしていた。どちらかと言えば、貴族と言われる方が信じられるくらいだ。
だが、ダンジョンでこのフロアに来られるとなると、それなりには実力者なんだろう。しかもソロでだ。外見通りの女とは考えない方がいいだろう。
「でも、今は冒険者だろうが貴族だろうが大した問題じゃないか……」
「すやすや……」
女冒険者が起きる気配はない。
全裸で眠っている女。モンスターに襲われる心配もあるけど、他の冒険者に見つかるのも心配だった。
「こんな状態だと、飢えた男の冒険者に襲ってくれって言っているようなもんだよな……」
別に顔見知りってわけじゃない。でも、放っておけないと思った。
「でも、俺も裸なんだよな……」
助けを求めに行くだけでも大変なのに、彼女を放置していたら誰に見つかるかわかったもんじゃない。こうなると人もモンスターも、危険度は同じのように思えた。
「ぐっ、どうする?」
裸の男女。場所はダンジョン下層。近くに冒険者の気配はない。
俺が植物系モンスターに全裸にされてから、かなりの時間が経っていた。これまでにこのフロアを訪れた冒険者はこの眠っている女冒険者だけだった。
「待っていても仕方がない、か」
たとえ冒険者がこのフロアに辿り着いたとしても、それが善良な人だとは限らない。冒険者にはやばい連中がいるってのを、俺はよく知っていた。
だから、俺はソロで冒険者をやっているんだからな。
「よし決めた! 引っぱたかれるくらいは覚悟するから、大目に見てくれよ」
俺は眠っている女冒険者に手を伸ばす。
「うっ……これが女の肌か……。なんか俺と全然違うな……」
初めて触れる女の肌に、なんというか……興奮してしまった。
いや待てこれは俺が悪いんじゃないっ! 男として正常な反応なのだ! それにいかがわしいことをしようってわけじゃないんだ……本当だ信じてくれ!
脳内で早口で言い訳を並べ立てる。余計に頭に血が上ってきてクラクラした。
「ええいっ! 男は度胸だ!」
覚悟を決めて、目をカッと見開く。視界に男の欲求を強く揺さぶるほどに美しい女体が広がった。
「とりゃっ!」
勢い良く、俺は女冒険者を抱きしめた。
※ ※ ※
「違うんだ……わざとじゃないんだぁ……」
ぺたぺたとダンジョンを歩く。裸足で歩いてみると意外と歩きやすかった。
現在、俺は女冒険者をおんぶしてダンジョンを脱出しようと行動していた。
最初に女冒険者をおんぶしようとして、俺は勢い余って彼女を抱きしめてしまったのだ。思った以上に興奮しすぎて、自分でも何をしたのか理解するのに時間がかかった。
肌と肌の密着。正面からの幸せな感触に、理性が吹っ飛びそうになったのは俺だけの秘密だ。
「まあ、背中で感じてはいるんだけどな」
眠っている相手だから、彼女の全体重が俺の背中にかけられている。胸の膨らみどころか、その柔らかさや突起の感触まで、しっかりと感じ取っていた。
「こんなところ誰かに見つかったら……絶対に俺が悪者になるよなぁ……」
全裸の男が全裸の女をおんぶしてどこかへと行こうとしている。変態が美女をさらっている図にしか見えなかった。
しかも、お恥ずかしながら……アソコが臨戦態勢に入っちゃっている。生理現象とはいえ、言い訳ができる状況じゃなかった。
「モンスターは……いないみたいだな」
いつもより何十倍も辺りを警戒しながら先を行く。
モンスターに見つからないのはもちろんのこととして、その辺の冒険者にも見つかるわけにはいかなかった。
「一番は話のわかる冒険者に会うことだけど……。こればっかりは運だよな」
残念ながら、俺に知り合いと呼べる冒険者はそう多くなかった。ソロ冒険者の弊害である。
慎重にゆっくり進む。背中に広がる幸せな感触……。いやいや何堪能してんだっ。急いでダンジョンを脱出しなければ!
「うおっ!? なんでお前裸なんだよ!?」
「うわあっ!? ち、違うんです!」
背中に伝わる感触に気を取られた一瞬の隙だった。……いやごめん、一瞬じゃなかったかもしれない。
冒険者パーティーに遭遇してしまった。見知らぬ連中で、状況を説明して協力してくれるかどうかはわからなかった。
「なんだなんだ? モンスターじゃねえのか?」
「オイ、こいつ裸の女を連れてるぞ」
「へへっ。兄ちゃんこれから何をしようってんだ? いけねえなぁ」
色欲に染まった数々の目。あまり良い感情ではなさそうだ。
「違うんだ。これはモンスターに襲われて装備品が全部溶かされてしまったんだ。この娘は眠らされているから助けなきゃならない。よければ布一枚だけでもいいからくれないか? ダンジョンから出られたら礼はする」
ダメかもしれない。そう思いつつも事情を説明する。
「そんなこと言って、アソコをおッ立てて説得力ないぜ」
男たちがゲラゲラと笑い声を上げる。羞恥心が刺激されて顔が熱くなった。
くっ、状況を考えると説得力がないのは否定できない。反論しようにも、あのモンスターを知らなければ信じてはもらえないだろう。
「兄ちゃんがヤる気がないってんならよ。その女、俺たちに渡せよ。楽しんだ後にちゃんと布一枚くらいなら恵んでやるぜ?」
「いいねえ人助けだ」
「見たところ上玉だしな。俺たちのパーティーに入れてやってもいいぞ」
「まあ冒険者としてじゃなくて、肉奴隷としてだけどな」
ゲハハハハッと汚らしい笑い声がダンジョンに木霊した。こいつらただの犯罪者じゃねえか。冒険者ギルドに戻ったら討伐依頼をしておこうと心に留めた。
「さあ、女を渡しな。そうすりゃ女を裸にして連れ去ろうとしていたってのを黙っていてやるからよ」
ごつい手がこっちに向かって伸ばされる。
俺が変態って言われるのは別にいい。結局、助けが来なかったら自力で脱出して、変態扱いされることになっていただろうしな。
でも、冒険者として人助けを放棄することはできない。だって俺が憧れた冒険者なら困っている人を必ず助けるからだ。
「触んな糞野郎っ!」
「あ?」
男のごつい手がピタリと止まる。代わりに俺に向けられていた目が厳しいものへと変わった。
他の男たちも危険な雰囲気をかもし出す。武器どころか防具もない俺に勝ち目はないだろう。
よし、逃げよう!
「炎の精霊よ、我が身を守る盾となりたまえ! ──ファイアウォール!」
「うあっち!?」
先に攻撃されたら逃げる確率も下がってしまう。男たちが動く前に、俺は魔法で炎の壁を作った。
男たちと距離を取る。ボウボウと燃える炎の壁のおかげで男たちが飛びかかってくる様子はない。怒号だけが俺を責めてくる。
「くっ、貴重な魔法を使わせやがって!」
身体を反転して別の通路を走った。みるみる距離が離れ、男たちの怒号も聞こえなくなった。
武器も道具もない以上、頼れるのは魔法だけだ。
魔法だって無限に使えるわけじゃない。ダンジョンを脱出するために温存しなければならなかった。
「すやすや……」
「呑気だなぁ、もうっ」
耳元で女冒険者の寝息が聞こえる。彼女にとっては貞操の危機だったってのに呑気なもんだ。
「本当に危ないんだからな。男はみんな獣なんだからな」
「すやすや……」
「俺だって、男なんだからな……」
「すやすや……」
「……はぁ~」
男の象徴を元気にさせているってのに、こうも穏やかに眠っているのを見るとバカバカしくなる。
「まったく、しょうがねえな」
俺は無防備すぎる女冒険者を背負い直し、ダンジョンを走った。スベスベモチモチの幸せを伝えてくる感触は、駄賃代わりと思って存分に楽しませてもらうことにした。
※ ※ ※
ダンジョンの出口が見えてきた。
「や、やっとここまで来た……」
走りすぎて息が切れている。遭遇したモンスターを追い払うために魔法をたくさん使ってしまった。そろそろ魔力が空っぽだ。
幸か不幸か、あれから他の冒険者には会わなかった。おかげで全裸という状況は変わっていない。
「だ、大丈夫かな? こんな格好だけどわかってくれるよな?」
出口が近づくにつれて、裸でいることに恥ずかしさを覚える。せっかくマヒしてきたってのに、全裸で人前に出るということに足がすくむ。
「ええい! ここまで来てひよってんじゃねえっ!」
俺は勢い良くダッシュしてダンジョンを飛び出した。
「きゃあああっ! ダンジョンから裸の男の人が出てきたぁーーっ!?」
「すいませえええぇぇぇぇぇぇんんっ!!」
ダンジョンの出入り口を管理していたギルド職員に叫び声を上げられた。なんでこんな日に限って女性職員なんですかね……。
※ ※ ※
新種のモンスターに全裸にされた女冒険者は無事に保護された。
いや、俺が彼女を全裸にしたわけじゃないんだ。そう言ったのに疑われてばかりだった。悲しい……。
「タイミング悪いよなぁ……」
しかも俺が事情を説明している最中に女冒険者が目を覚ましたもんだから、さらに混沌とした状況に陥ってしまった。
あの時のことを思い出すと涙が出てくる。
俺たちを全裸にした問題のモンスター。こいつを説明するのに時間がかかった。みんなが俺を汚物を見るような目をしていたせいでなかなか聞いてもらえている気がしなかった。
なんとか納得してもらえて、解放された時には俺の精神はボロボロになっていた。
ダンジョンで遭遇した冒険者の件もあり、俺に因縁をつけてくる連中もいた。もうここで冒険者として活動するのはしんどかった。
荷物をまとめる。次の拠点では裸で人助けなんかしないと決意した。……あんな状況、もうないだろうけどな。
「待って!」
振り返ると、裸で助けた女冒険者がいた。当たり前だけど今日はちゃんと服を着ている。
「えっと……」
どうしよう気まずい……。今更何をしにきたんだ?
「あの時、助けてくれてありがとうございます! ……危険なところを身体を張って助けてくれたのに、私お礼も言えてなかったから」
「君が無事なら何よりだよ。それじゃあ俺は行くから。次からは気をつけるんだぞ」
「あ」
女冒険者に背を向ける。最後にお礼を言ってもらえた。それだけで良かったなと思えた。男なんて綺麗な女性に礼を言われただけで舞い上がってしまう生き物なのだ。
「ま、待って!」
もう一度呼び止められた。今度は服の裾を掴まれる。
「あ、あのっ」
見れば女冒険者の顔が赤くなっていた。ダンジョン内を全裸でいたから風邪でも引いてしまったのだろうか?
「私を襲おうとした男たちからも助けてくれたと聞いたわ。あなただってあのモンスターに、その……苦しめられていたのに」
「まあ、お互いあのモンスターにやられて災難だったね」
「私、パーティーに所属していた時に仲間と思っていた人に襲われたことがあるの。それからはパーティーに入れなくなって……。ずっとソロで活動していたわ」
「そうなんだ」
彼女がソロでいるのは理由があったようだ。まあ俺も似たような理由だったのでわからなくもない。
「でも、一人では本当に危険な目に遭ったらどうしようもないわ。それを身をもってわからされた……」
女冒険者がキッと鋭い視線を俺に向ける。あれ、睨まれてる?
「あ、あなたなら信頼できる! お願い、私とパーティーを組んで!」
女冒険者の目が鋭いはずなのに、キラキラするほど潤んでいる。その目が綺麗で、少し見惚れてしまった。
「でも」
「無理は承知よ! 私からお願いしていることだから、パーティーを組んでくれるならなんでもするわ!」
「なんでも?」
思わず前のめりになる。いや、別に深い意味はないですよ?
「え、ええ。雑用でもなんでもよ。私のお金であなたの装備品を整えてもいいわ」
それってヒモだよなぁ。そう思っていると、彼女が俺に近づく。唇が触れるんじゃないかってくらい近かった。
「裸であなたの要求に応えてもいい……。だって、あなたには私の恥ずかしいところ、全部見られているんだもの……っ。裸になっても助けてくれる人なんて、他にはいないでしょうし……」
「……」
ダンジョンで助けた女冒険者。俺はとんでもない人を助けてしまったのかもしれない。
「ま、まあ……俺も仲間が欲しかったところだし? 君とパーティーを組んでもいいよ」
「ありがとう!」
花が咲いたような笑顔だった。やっぱり、冒険者らしくないな。可愛すぎてだけど。
裸の付き合いがあったからこそ、彼女の信頼を得られたようだ。恥ずかしかったけど、自分の心に従って良かったと思えた。
こうして、俺と彼女の冒険者生活が始まったのであった。
彼女とはこれからも裸の付き合いをすることになるのだが、この時の俺はそんなことを考えもしないくらいには健全だったのだ。……本当ですよ?
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