上 下
92 / 125
おまけ編

if もし初めてのメイドが琴音だったら⑤

しおりを挟む
 何度でも言おう。藤咲彩音は学園のアイドルである。冗談抜きで学園の誰もが認める、桁外れの美少女だ。
 春休みが明けて、掲示板にクラス表が貼り出された。
 藤咲さんがどのクラスなのかと目を走らせる。彼女と同じクラスになるという幸運を、みんなして祈っていただろう。そして、俺はその幸運を掴み取った。
 けれど、始業式に藤咲さんの姿はなかった。

「藤咲さんどうしたんだろう?」
「体調不良か? 休むなんて珍しい」
「く~、せっかく藤咲さんと同じクラスになれたのにっ。早く会いたいぜ!」

 ざわざわと波紋が広がるように、誰もが藤咲彩音を気にしていた。一日休んだだけでみんなの話題になるとか……。姿を見せなくても存在感が大きすぎるだろ。
 クラスで藤咲さんのことを話題にしていないのは俺くらいなものか。別に話ができる人がいないって意味じゃないんだからねっ。

「なあ祐二。藤咲さんが今日休みなんだってさ。せっかく同じクラスになれたってのについてないよなー」
「別に今日来たからって俺達がおいそれとおしゃべりできる相手じゃないだろ。井出には高嶺の花なんだから」
「祐二だってそうだろー。はぁ……、ただ僕は最高の美少女と同じ空間で息を吸っていたいだけなのにな……」

 ごめん、ちょっと引く。信じられないだろ? こいつ、俺の唯一の友達なんだぜ。
 藤咲さんのいないクラスは落ち着きがなかった。井出と話していても彼女の話題ばかり。みんな藤咲さんのこと好きすぎでしょ。


  ※ ※ ※


「ただいまー」
「お帰りなさいませ祐二様。お食事にしますか? お風呂にしますか? それともあたしとエッチなことをしますか?」
「最後ので」
「きゃー♪」

 帰宅して早々、お約束なことを言い出した琴音とイチャイチャしてみた。え、何これすっごく楽しい。
 メイド服越しに胸を揉んだり、股間を彼女の尻に押しつけたりと言い訳の仕様がないセクハラをした。けれど返ってきたのは嫌悪に満ちた表情ではなく、遊んでいるような楽しげな反応だった。
 年下美少女の満更でもない反応に気分が良くなる。俺のセクハラは止まることを忘れてしまった。止める人がいないからしょうがないね。

「琴音は帰ってくるの早かったんだな」

 琴音とひとしきり遊んでから尋ねた。中等部も本日始業式だったはずだ。
 琴音は中等部の三年生。つまり俺の二つ下の後輩である。専属メイドになったとはいえ、学園に通うようにと言い渡しているのだ。後輩が俺のメイドってのがそそるんだよね。

「当然じゃないですか。祐二様をお出迎えするために、あたしダッシュで帰ってきましたよ」

 渾身のドヤ顔を見せる琴音。メイド服を着ているってことは、着替える時間があった程度には早く帰ったんだろう。新体操部のエースとのことだし、運動能力は高いのだ。

「……それに、今日は大切な日ですからね」

 ぽろっと、思いが零れたかのように、琴音は小さく言った。
 そう。今日は大切な日になる。琴音にとっても、俺にとってもな。

「そうだな。俺も着替えて準備するよ」
「お手伝いしましょうか?」

 魅力的な提案だ。お手伝いどころじゃないことをしてしまいたくなるくらいには、魅力的な女の子なのだ。まあ本人もわかっていて言ってんだろうけどな。俺に手を出されたいと顔に書いてあるし。
 少し勿体ないと思いつつ、魅力的な提案を断った。盛り上がるほどの時間は残っていないだろうからな。

「大丈夫だ。琴音は準備をしていてくれよ。俺も着替えたらすぐにそっち行くからな」
「わかりました」

 お互い、心の準備も必要だろう。俺は自室でゆっくりと着替えを済ませる。リビングに行くと琴音がそわそわしていた。

「ま、まだですかねー?」

 そわそわ、そわそわ。いつも通りを装っている風ではあるが、緊張しているのが丸わかりだった。
 しばらくして、ピンポーンと来客を知らせるチャイムの音に琴音は飛び上がった。びっくりした猫みたいな反応だな。

「よし、行くぞ琴音」
「は、はいっ!」

 二人で玄関に向かう。バチバチに気合いを入れて来客を出迎えた。

「こんにちは会田様」

 来客の人物は皮脂多めの中年男だった。俺に琴音を売った堂本である。

「……」

 そして、堂本の背後に滅多にお目にかかれないレベルの美少女が静かにたたずんでいた。服装はどこからどう見てもメイド服。ご主人様に仕えるためにここへ来たのだ。
 唇を引き結び、視線を下げていた美少女がこちらを向いた。その目が驚きに見開かれ、ぽかんと口が開いてしまった。
 見ようによっては間抜けなのに、彼女ならば可愛らしく映ってしまう。ただ立ち尽くしているだけでも圧倒的な美少女オーラは色褪せない。

「琴音……? な、なんで……?」

 半開きになった口から、呆然としているような声が漏れた。驚愕しているって感じがすごく伝わってくる。

「久しぶりだねお姉ちゃん。お姉ちゃんも今日から祐二様のもとで働くんだよね。先輩として、あたしがビシバシ教育してあげるよ」

 俺の家に新しく来た美少女メイド。それは学園のアイドルと名高い藤咲彩音だった。
 状況を理解していないであろう藤咲さんに言葉をかけるのは妹の琴音だ。姉に向かってにっこりと微笑む彼女の思いは、ご主人様の俺にもわからなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...