もし学園のアイドルが俺のメイドになったら

みずがめ

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本編

13話目

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 さて、作戦を説明しよう。
 ゲンドウポーズを決めて深く息を吐くように説明したいところだけど、正直作戦と呼べるようなものは何もなかったりする。
 学校の屋上は立ち入り禁止になっている。どこもそうだとは思うが、うちもそうだった。

 そこに彼女を呼びだしたのだ。そう、ターゲットである。
 戸倉坂真有。後輩の少女だ。小柄な見た目から愛らしく、守ってあげたくなるような少女。そんな衝動とは真反対のことをしようとしている。
 ちなみに彩音に呼び出してもらったから必ず来るだろう。この学園で彼女の呼び出しに応じない生徒は男女ともにいないであろう。本人は渋っていたがこれも俺の調教の成果かな。まあもっと彩音が協力的だったなら井出になんか頼まずとも俺がなんとかしてやったんだけどな。
 屋上で待機するのは井出。俺は屋上近くの倉庫みたいな部屋で待ちかまえている。真有ちゃんが来たら退路を断つためと、もう一つ――。
 俺は倉庫内でカチャカチャと準備を始める。井出と違ってそこまで得意でもないんだが、あらかじめ教えてもらってるし、おそらく大丈夫だ。
 俺は高級感漂うカメラを構える。スマホよりもやっぱり撮るならこっちだ。動画だって鮮明に撮れちゃうぜ。

 さて、改めて作戦を説明しよう。井出が真有ちゃんをレイプする。俺はそれを録画。完璧だ。
 衝動的な作戦だったが、割と井出がノリノリになった。性欲を吐き出したいお年頃なのだろう。一人じゃできなくても友人からフォローされるならできるとでも思ったのだろうな。まあがんばってくれや。
 井出の信用できるところは案外情に厚い奴だというところだ。友達が少ないというのが奴にそうさせるのだろう。それに関したら俺も人のことは言えないのだが。とにかく言いたいのは仮に井出が下手を打ったとしても俺のことをバラそうとはしないだろうということ。なんだかんだで実行犯は奴一人というのもあるし、その点で俺は高みの見物ができるというわけだ。

 コツコツという足音が聞こえてきた。真有ちゃんが階段を上がってくる足音だろう。俺は息をひそめる。
 耳を澄ませるとガチャリとドアを開ける音が聞こえた。ギギギと不快な音が響く。力がないのか、少し錆びているドアを開けるのに苦労しているようだった。

「や、やあっ!」

 緊張した井出の声。きっと心臓バクバクなんだろうな。さて、俺は出入り口を押さえておかないとな。

「あの……先輩がまゆに用があるって人ですか?」

 おずおずとした真有ちゃんの声。幼さの残る声色だな。
 ちょっとだけドアの隙間から二人を覗き見る。真有ちゃんは背中を見せており、その影に隠れて井出の表情はわからない。表情はわからないのに二人ともぎこちない雰囲気があるのがわかった。
 まあ見ず知らずの男子に屋上で二人っきりなんて緊張するに決まってるか。井出は言わずもがなである。
 襲うタイミングは井出に任せてある。さっさと鍵をかけるのが吉か。俺は鍵に手を掛けた。内側からなら簡単にかけられるのだ。

「会田……君?」

 びっくりして肩が跳ねた。声の方向を見ると長い黒髪の美しい女子生徒。彩音がすぐ傍で立っていた。

「って、なんで彩音がいるんだよ!?」

 ここには来るなと言っておいたはずなんだが。彩音は息を乱しながらも俺を睨みつけた。メイドのする目じゃない。

「友人の恋のためって言ってたのに……。やっぱり嘘だったのねっ」

 丁寧語を忘れるくらい怒っているようだ。そんな感情剥き出しな彼女に冷や汗が流れる。いやいや、立場が上なのは俺のはずだろうが。何びびってんだ。

「何言ってんだよ。本当だってば。さしずめ俺は恋のキューピッドだっての」

 恋のキューピットなんて自分で言ってて吐き気がするな。でもある意味間違ってはいない。

「彩音の方こそ、井出の恋愛を邪魔するなよな。ちょっとこっちに来い」

 俺は手早く屋上の鍵をかけると、彩音の手を引いて倉庫へと入った。埃っぽいところに彩音を連れ込むのは少しばかしの抵抗があったが、こうなったら仕方がない。
 こちらもしっかり施錠すると、屋上が見渡せる高い位置にある窓にカメラをセットする。録画を開始した。
 倉庫は狭く、ほとんど机や椅子で占められていた。他にも物はあるが、用途もよくわからないような物ばかりだ。本当にいらない物をここに追いやっているのだろう。忘れられてしまったのか埃かぶった物ばかりである。だからこそこうやって俺が使えるわけなんだけどな。
 光源は高い位置にある窓があるだけだ。電気はつけられるが、何がばれてしまう原因になるかわからないので薄暗いが我慢しよう。

「これから井出が真有ちゃんに告白するんだと。友人としてしっかり見届けてやらないといけないんだよ」
「でもっ」
「おい。ご主人様にいちいち逆らうもんじゃないぞ」

 なおも言いつのろうとする彩音を封殺する。俺は彩音の耳元に口を近づけると、彼女の弱点を口にする。

「あんまり逆らってると、違約金が発生しちゃうんだろ?」

 彩音はうっ、と言葉を詰まらせる。
 なんだかんだで金に困ってこんなことになっているのだ。彩音にはもう後がない。彼女の目的のためにも。これ以上のマイナスを作るわけにはいかないのだろう。
 この辺りは堂本に感謝だな。藤咲彩音の個人情報はバッチリだ。色々手を回せばもっと従順になってくれるだろうな。
 俺は彩音を黙らせると、カメラの映像を確認する。埃を払って机に腰を落ち着ける。

「あ、ああ、あの、あのさ……は、話があるんだ」

 めっちゃどもってんな井出の奴。いやまあ気持ちはわからんでもない。
 チラリと彩音を見る。俺も彼女に告白した時はあんな感じだっただろうか? 今ではセピア色の思い出みたいになっていた。すごく昔のことのようだ。
 振られてしまったというのに、今では俺の言いなりか。無遠慮に思い出で終わるはずだった彼女の顎を持ち上げる。自分の口角が持ち上がったのがわかる。抵抗はなかった。

「なんでしょう?」

 心底不思議そうな真有ちゃんの声。この状況で察しがつかないか。まあさらにその後を考えると気づかれないにこしたことはないんだけども。

「ぼぼぼぼ僕の彼女になってくださいっ!!」

 映像を眺めると井出が90度の綺麗なおじぎをしていた。
 とりあえずの告白である。これで体裁が保たれた、なんて思っちゃってる俺達だったりする。
 それにしてもすごいどもりっぷりだな。あいつの好みって案外真有ちゃんみたいな小さい女の子だったのかな。いやまあ、年齢的には一つしか変わらないんだけどもさ。
 割とまっとうな告白に、彩音の表情が呆けたものへと変わる。すぐにいかがわしいことに及ぶとでも思ってたんだろうなぁ。

 さてと、ここからだ。俺はカメラの映像を凝視する。真有ちゃんは相変わらず背中を向けているためその表情を窺い知れない。きっと戸惑っているんだろう。
 井出みたいな、常にスクールカーストを低空飛行している奴なんかに告白されても迷惑だろう。上手く断るために頭を働かせている最中かもしれないな。……自分に返ってきそうな考えだからこの辺でやめとこう。
 だが、俺の。いや、真有ちゃん以外全員の予想していなかった答えに、場が凍りつくこととなる。

「……はい。まゆで良ければ、お受けします」
「へ?」

 疑問の声は一体誰のものだったのか。そんなことはどうでもいい。今この子なんて言った?
 ばっ、と顔を上げた井出ですら困惑顔だ。「ほ、本当に?」と疑り深く尋ねている。当然だ。まさかここで了承を得られるなんて俺も井出も考慮していなかった。俺達は自分の外見や評価というものをわかっていたから。

「はいっ。まゆの彼氏になってくれるんですよね。ねっ、井出先輩」
「う、うん。ていうかよく僕の名前知ってたね」
「知ってますよ。井出先輩って会田先輩とよくいっしょにいますよね」

 自分の名前が出てドキリとさせられる。え、俺のこと知ってたの? 彩音に目を向けると、ふるふると首を横に振って否定される。情報源は彼女ではないらしい。
 じゃあ何で? その疑問は代わりに井出が口にする。

「何で知ってるの?」
「井出先輩は憶えてないですか?」

 返される言葉に俺と井出は首をかしげる。何のことだろうか。

「井出先輩と会田先輩はまゆと本屋で会ったことがあるんですよ。高いところにある本を先輩達は取ってくれたんです。何も言わずに優しくしてくれたのが……、まゆはとても嬉しかったんですよ」

 彩音が意外そうな目で俺を見つめる。その視線失礼だぞ。俺をどういう風に見てたかわかっちゃうなー。
 記憶を掘り起こしてみる。そういえば、だいぶ前に井出と本屋に行った時にそんなことがあったような……。あの時の真有ちゃんは私服だったから、逆に小学生っぽかった気がする。だから同じ学園の生徒だとは思わなかったのだ。
 俺達だって子供相手には優しくする時がある。まあその時はそうしたい気分だったのだろう。あのちっちゃい身体を見ていると不憫とでも考えていたのかもしれない。さすが保護欲をかきたてる少女。

「それからまゆは先輩達に釘付けでした。同じ学園の先輩だと知ってから余計にです。意識せずにはいられなかったのです」

 興奮気味に語る真有ちゃん。まさか俺達のことをこんなにも評価してくれる女子がいるなんて思いもしなかった。何だか気恥ずかしいというか、変な気分だ。
 ていうかさ、俺の名前が出てるってことは、もし俺が真有ちゃんに告白してもオッケーがもらえたのかな? なんか惜しいことをしたような気がする。

「だから、憧れの先輩から告白してもらえて、まゆはとっても嬉しいです!」

 そう言うと、真有ちゃんは本当に嬉しそうに井出の腕に自分の腕を絡める。ようやく見えた彼女の顔は嘘なんかじゃないって思わせるほど嬉しそうだった。
 信じられない状況に呆然としている井出。俺だってそうだ。え、何これ?

「恋人なんだから、これくらい馴れ馴れしくしても良いよね?」

 固まる井出に不安を感じたのか、真有ちゃんは眉をハの字にして確かめる。はっ、とした井出はぶんぶんと頭を縦に振った。

「もももちろんさ! こんな僕でよければお願いしましゅ!」

「やったー」とはしゃぐ彼女。井出もつられてはしゃいでいる。そんなところだけ見るとお似合いのように見えなくもないような気がしないでもないような……、どうなんだこれ?

「僕はやったぞ! ついに恋人ができたんだ! イヤッホゥ!!」

 井出は天に向かって力強く拳を突き出している。勝利者がここにいた。
 いや、まあ、まさかこんな結末になるなんてな。俺だって未だに信じられない。というかマジで? 混乱してちょっと自分でも整理しきれなかったりする。ていうかほんとにほんと? マジっすか?
 案外、人の評価ってのは定まらないもんなんだな。ここまでやってやっとそれがわかった。むしろここまでやらなかったらこんなことにはならなかっただろう。気づきもしなかったはずだ。

 なんちゅーか、井出君おめでとう。友人として心から祝福させてもらうよ。
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