24 / 43
23.尋ねたいこと
しおりを挟む
俺がメイド服と関わってきた期間は、琴音ちゃんと関わるようになった期間と一致する。
おかげでメイドさんが好きになりました。メイドカフェにも定期的に通っているという毒されっぷり。もう琴音ちゃんのメイド姿を目にしなければ生きられないかもしれない。
ごめん、さすがにそれは言いすぎた。
「まずはこれを見てちょうだい」
そう言って藤咲さんが見せてきたのは、袋に密封されたメイド服だった。
中身がメイド服であるとわかった瞬間、そのメイド服が前に俺の家で琴音ちゃんが着てくれたものだと理解する。
「これは?」
感情を悟られてはならない。表情を固定して尋ねる。
「これはメイド服よ」
うん、それは知ってる。
知りたいのは、なぜ俺にそれを見せたのかということだ。
心当たりがないわけじゃない。ていうか琴音ちゃんのことと絡めれば、琴音ちゃんがバイトしていることがばれたか、俺が彼女を脅して恋人関係を迫ったくらいしかないだろう。
どっちにしても知られてはならない情報。まずは藤咲さんが何を知っているのかを聞き出さなければならない。それから態度を決めよう。
「……」
とはいえ、どうやって聞けばいいんだ? 陰キャに交渉術なんてものを期待してはいけない。自分の身で思い知ったね。
喫茶店の優しいBGMが、無言の時間を優しいものに変えてくれる。お願いだから変えてくれ!
「えっと……。とても、言いづらいのだけれど……」
どう切り出そうかと迷っていたのは藤咲さんも同じだったらしい。
学園では凛とした姿しか見たことなかったからな。らしくないと思えるような面を見られてちょっと安心する。
「ご注文は?」
思い出したかのようなタイミングで、店主らしきおじいちゃんが注文を取りにきた。
「私はアイスコーヒーをお願いします。会田くんは? 私から誘ったのだし、おごるわよ」
「えっ、いやおごりとかいいし……。えー……俺も同じアイスコーヒーで」
「かしこまりました」
店主が奥へと引っ込む。急かされていないのに焦ってしまった。メイドカフェならメニュー選びも余裕でできるようになったのにな。
つーか女子からおごってやるなんて言われる日がくるとは思わなかった。むしろおごってもらえるのが当然、とか思うのが普通の女子なんだと考えていた。偏見でしたね。
それか藤咲さんだからなのか? 琴音ちゃんもあまりおごってもらいたいという感じでもないし、姉妹の共通点なのかもしれない。
「これ、琴音のものだと思うの」
藤咲さんは目線でメイド服を示した。
「なんでそう思うんだ?」
話が戻ってしまった。平常心を意識しながら聞いてみた。
「……琴音が洗濯に出していたのを見たのよ」
「それって、こっそり?」
「普通に出していたわね」
琴音ちゃん、脇が甘いよ……。
とにかく、俺のためにと用意してくれたメイド服が藤咲さんに押さえられている。それが琴音ちゃんのものだとばれている。わかった状況はそこまでだ。
なら安心かな。俺にとって害はなさそうだ。
「会田くんは、琴音と仲いいわよね?」
「え? は、え、えーっと……」
「だって、お昼ご飯をよく二人で食べているらしいじゃない」
別に隠れているわけじゃないからな。それくらいのことなら知られていてもおかしくないか。
「そ、そうだな。料理の腕を磨きたいのかな? 琴音ちゃんにはよく弁当を作ってもらっているよ」
「琴音ちゃん……」
藤咲さんが押し黙る。何か呟いたようにも見えたが、声が小さすぎて聞こえなかった。
「会田くんと関わるようになってからかしらね。琴音、少し変わった気がするわ」
「へ?」
「お弁当のことだってそうよ。あの子は自分からお弁当を作ろうとはしてこなかったもの。傘を借りたお礼だからとは言っていたけれど、まだ続いているのよね……」
段々とヒートアップしていく藤咲さん。この流れはなんだかまずい。
「会田くんもそうよ。いつも無気力で人の目もあまり見ようともしてこなかったのに。今は私の目を見ても逸らしたりしないわ」
「人と話す時は相手の目を見るって……、普通のことじゃないか?」
「会田くんはその普通のことすらできなかったのよ」
それひどくないか? いや、でも、心当たりがあるような……。本当にできてなかった?
藤咲さんの目つきが険しくなっていく。なのに美少女は陰らない。それどころか怖い顔も可愛い。何をしても得にしかならないとか……、男の俺でもずるいと思ってしまう。
「会田くん、あなた……」
彼女はバンッ! とテーブルを叩いて立ち上がった。
「琴音と付き合っているんでしょ!」
ここにきてようやく理解した。
わざわざ藤咲さんが俺と二人きりになった理由。それは、俺を問い詰めるためだったのだ。
「お待たせしました。アイスコーヒーです」
そして、空気を読まない店主のおじいちゃんに感謝した。
おかげでメイドさんが好きになりました。メイドカフェにも定期的に通っているという毒されっぷり。もう琴音ちゃんのメイド姿を目にしなければ生きられないかもしれない。
ごめん、さすがにそれは言いすぎた。
「まずはこれを見てちょうだい」
そう言って藤咲さんが見せてきたのは、袋に密封されたメイド服だった。
中身がメイド服であるとわかった瞬間、そのメイド服が前に俺の家で琴音ちゃんが着てくれたものだと理解する。
「これは?」
感情を悟られてはならない。表情を固定して尋ねる。
「これはメイド服よ」
うん、それは知ってる。
知りたいのは、なぜ俺にそれを見せたのかということだ。
心当たりがないわけじゃない。ていうか琴音ちゃんのことと絡めれば、琴音ちゃんがバイトしていることがばれたか、俺が彼女を脅して恋人関係を迫ったくらいしかないだろう。
どっちにしても知られてはならない情報。まずは藤咲さんが何を知っているのかを聞き出さなければならない。それから態度を決めよう。
「……」
とはいえ、どうやって聞けばいいんだ? 陰キャに交渉術なんてものを期待してはいけない。自分の身で思い知ったね。
喫茶店の優しいBGMが、無言の時間を優しいものに変えてくれる。お願いだから変えてくれ!
「えっと……。とても、言いづらいのだけれど……」
どう切り出そうかと迷っていたのは藤咲さんも同じだったらしい。
学園では凛とした姿しか見たことなかったからな。らしくないと思えるような面を見られてちょっと安心する。
「ご注文は?」
思い出したかのようなタイミングで、店主らしきおじいちゃんが注文を取りにきた。
「私はアイスコーヒーをお願いします。会田くんは? 私から誘ったのだし、おごるわよ」
「えっ、いやおごりとかいいし……。えー……俺も同じアイスコーヒーで」
「かしこまりました」
店主が奥へと引っ込む。急かされていないのに焦ってしまった。メイドカフェならメニュー選びも余裕でできるようになったのにな。
つーか女子からおごってやるなんて言われる日がくるとは思わなかった。むしろおごってもらえるのが当然、とか思うのが普通の女子なんだと考えていた。偏見でしたね。
それか藤咲さんだからなのか? 琴音ちゃんもあまりおごってもらいたいという感じでもないし、姉妹の共通点なのかもしれない。
「これ、琴音のものだと思うの」
藤咲さんは目線でメイド服を示した。
「なんでそう思うんだ?」
話が戻ってしまった。平常心を意識しながら聞いてみた。
「……琴音が洗濯に出していたのを見たのよ」
「それって、こっそり?」
「普通に出していたわね」
琴音ちゃん、脇が甘いよ……。
とにかく、俺のためにと用意してくれたメイド服が藤咲さんに押さえられている。それが琴音ちゃんのものだとばれている。わかった状況はそこまでだ。
なら安心かな。俺にとって害はなさそうだ。
「会田くんは、琴音と仲いいわよね?」
「え? は、え、えーっと……」
「だって、お昼ご飯をよく二人で食べているらしいじゃない」
別に隠れているわけじゃないからな。それくらいのことなら知られていてもおかしくないか。
「そ、そうだな。料理の腕を磨きたいのかな? 琴音ちゃんにはよく弁当を作ってもらっているよ」
「琴音ちゃん……」
藤咲さんが押し黙る。何か呟いたようにも見えたが、声が小さすぎて聞こえなかった。
「会田くんと関わるようになってからかしらね。琴音、少し変わった気がするわ」
「へ?」
「お弁当のことだってそうよ。あの子は自分からお弁当を作ろうとはしてこなかったもの。傘を借りたお礼だからとは言っていたけれど、まだ続いているのよね……」
段々とヒートアップしていく藤咲さん。この流れはなんだかまずい。
「会田くんもそうよ。いつも無気力で人の目もあまり見ようともしてこなかったのに。今は私の目を見ても逸らしたりしないわ」
「人と話す時は相手の目を見るって……、普通のことじゃないか?」
「会田くんはその普通のことすらできなかったのよ」
それひどくないか? いや、でも、心当たりがあるような……。本当にできてなかった?
藤咲さんの目つきが険しくなっていく。なのに美少女は陰らない。それどころか怖い顔も可愛い。何をしても得にしかならないとか……、男の俺でもずるいと思ってしまう。
「会田くん、あなた……」
彼女はバンッ! とテーブルを叩いて立ち上がった。
「琴音と付き合っているんでしょ!」
ここにきてようやく理解した。
わざわざ藤咲さんが俺と二人きりになった理由。それは、俺を問い詰めるためだったのだ。
「お待たせしました。アイスコーヒーです」
そして、空気を読まない店主のおじいちゃんに感謝した。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ
みずがめ
恋愛
俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。
そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。
渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。
桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。
俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。
……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。
これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愉快な無表情クール系幼馴染にがんばって告白したら、強烈な一撃をもらった話
みずがめ
恋愛
俺には赤城美穂という幼馴染がいる。
彼女は無口無表情で愛想がない……というのが周りの奴らの印象だ。本当は悪戯好きで愉快な性格をしていて、そして何より繊細な女の子なのだと俺は知っている。
そんな美穂は成長していく度に美人になっていった。思春期を迎えた男子から告白されることが多くなり、俺は人知れず焦っていた。
告白しよう。そう決意した俺が行動を開始し、その結果が出るまで。これはそんなお話。
※他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる