上 下
121 / 124

121.浴衣美少女は射的がよく似合う

しおりを挟む
 たこ焼きにフランクフルト。焼きそばにイカ焼きにかき氷とりんご飴……。
 祭りの屋台の食べ物はなんでこう食欲をそそるのだろうか。チープな味だってのに、美味そうな匂いと賑やかな空気が俺の胃袋を刺激する。

「フランクフルト美味しいー♪」
「エリカの口に合ったのなら良かったぜ」

 屋台の食べ物なんて元お嬢様がお気に召すかと心配だったが杞憂であったらしい。エリカは表情に出るくらい美味そうにフランクフルトを頬張っていた。

「でも、口にしてみると案外細いね。んっ……んふっ……あむっ……」
「……」

 なんでフランクフルトを食べているだけでエロいんだよ。エリカの艶めかしい唇の動きを眺めているだけで、自然と前屈みになってしまう。
 このままエリカを眺め続けていたら、身体が勝手に動いて彼女を茂みの向こうへと連れて行ってしまいそうだ。さすがに自重しよう。ここは子連れの家族だっているんだぞ。

「おー! 射的あるじゃん。ねえねえ晃生ー、やろうよー」
「おう、射的楽しそうだな。超楽しそうだ。やるしかないぜ」

 羽彩に腕を引っ張られる。今は滅茶苦茶ありがたいので素直について行く。

「射的かぁ……。私、得意なのよね」
「おっ、ひまりん経験者?」
「小さい頃に純平くんに射的の景品を取ってとよくねだられていたから……。彼の機嫌が悪くなると家族ぐるみで空気が悪くなっていたから……私、がんばったのよ」
「そ、そっか……大変だったんだね……」

 日葵は何とも言えない瞳で遠くを見つめていた。そういや幼馴染に振り回されて苦労していたんだったか。野坂の奴……今頃何してんだかな。

「今日は日葵の好きなようにやりゃあいいんだよ。今は景品がどうとか気にせず楽しもうぜ」
「……そうね。晃生くんの言う通りよね。ふふふ、私の実力、見せてあげるわ」
「ひまりんやる気だねー。じゃあ勝負しようよー。一番良い景品取った人が優勝ね」

 景品を気にせず楽しもうって言ったばっかりだってのに、羽彩は勝負を持ちかけてきた。

「面白いわね。受けて立つわ!」

 しかし、思いのほか日葵はやる気になっていた。楽しめるんなら良いんだけどよ。
 食べることに忙しいエリカと、勝負事に興味がない梨乃とさなえは観戦するようだ。

「んぐんぐっ」
「アキくんがんばってください!」
「みんなー、がんばってー」

 梨乃とさなえの親子は仲良く応援してくれる。エリカは……口の中に食べ物を詰め込んでいて声援を送れる状態じゃないなぁオイ。

「まずは私ね」

 自信満々な日葵が銃を持つ。コルクの弾を込めて、前のめりになって標的に狙いを絞った。

「……」
「晃生ー……ひまりんのお尻エロいなーって思ったでしょ」
「……思ってないぞ」
「じゃあ見つめんなしっ」

 浴衣でくっきりとした尻のライン。もしかして下着を穿いてないんじゃ……? とか、断じて思っていないぞ。

「ふっ」

 日葵は軽く息を吐き、引き金を引いた。

「おおっ」

 見事に命中させて、小さい駄菓子を倒した。
 小さい的を正確に打ち抜くとは。セクシーな女スナイパーを想像した。

「……アリだな」
「何が?」
「なんでもないぞ。羽彩、俺にツッコんでないで日葵の雄姿を見てやれよ」

 日葵は全弾を駄菓子に命中させた。いきなりパーフェクトとは……やるな。

「いきなし全部命中させたらアタシらがやりづらいでしょ! ひまりん空気読んでよ!」
「フフン。勝負と言い出したのは羽彩ちゃんよ。悔しかったら私よりも大きい景品を取ることね」

 日葵は得意げに鼻を鳴らす。悔しそうにしている羽彩を眺めて何とも楽しそうだ。

「むぅ~……」

 羽彩は膨れっ面になりながらも銃を受け取った。

「大きいもんを倒せたらいいんでしょっ」
「ええ。一つでも私よりも大きい景品を倒せたら負けを認めてあげるわ」
「言ったな~。吠え面かかせてやる!」

 吠え面って最近聞かねえな。逆に羽彩が吠え面かかされるフラグにしか思えない。
 羽彩が前のめりになって構える。こいつも尻のラインが……って、見つめている場合じゃねえか。

「おっちゃん、俺にもコルクガン一丁くれ」
「あいよ」

 射的屋のおっちゃんから銃を受け取る。その間に羽彩は標的に向かって何発か弾を放っていたようだが、景品にかすりもしていなかった。

「な、なんでー? 全然当たんないんだけど」
「羽彩、どこ狙ってたんだ?」
「え? あの辺?」

 羽彩が指差す……というかスペースを指し示すかのように手を動かしていた。

「大きい景品が集中している段か……。狙うなら一個にしろよ」
「えぇー? テキトーにどっか当たったら得じゃね?」
「当たってねえだろうが」

 何が得なんだよ。この金髪ギャルの考え方はどうなってんだか。

「じゃああれだ。あのクマのぬいぐるみにしたらどうだ? 大きいし、狙いやすいだろ」
「おっ、確かにあれならおっきいもんね。ひまりんも負けを認めざるを得ないぜ」

 羽彩はニヤリと笑って、クマのぬいぐるみに狙いを定めた。
 まあ狙ったからって当たるかどうか……。

「当たった!」

 羽彩が放った弾がクマの頭に命中した。
 だがしかし、グラグラと揺れたものの倒れるまでには至らなかった。

「えぇーっ!? なんでっ、今当たったじゃん!」
「大きい景品は倒すのが大変だから。小さくて軽いものの方が確実に倒せるわよ」

 悔しがる羽彩に日葵が冷静にアドバイスをする。
 そもそもそれがわかっていたから日葵は小さくて軽い駄菓子ばっかり狙っていたのか。なんて効率的な……こいつ、マジで射的に慣れていやがる。
 だが、羽彩が日葵と同じように駄菓子を狙ったところで勝ち目はない。今から全部当てたところで、パーフェクトの彼女には追い付けない。
 せっかくの勝負だ。面白い方が良いに決まっているよな。

「羽彩、もう一回あのクマのぬいぐるみを狙え」
「え? でも当たっても倒れないし……」
「倒せるようにすればいいんだろ」

 俺は銃を構えて、連続で弾を撃った。
 撃ったコルクがポコンッポコンッとクマのぬいぐるみに命中する。一発ではダメでも数で攻めれば、大きいぬいぐるみも、あと少しで倒れそうなほどグラグラと揺れる。

「今だ羽彩! 撃て!」
「い、今!? えいやっ!」

 羽彩が撃った弾がクマのぬいぐるみに命中した。大きく揺れていたところに衝撃が加わったためか、グラリと傾く。

「お、お、おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーっ!! やったーーっ!!」

 クマのぬいぐるみは見事倒れた。それを見て、羽彩は両手を挙げて飛び跳ねながら喜ぶ。俺は浴衣越しでも縦揺れするおっぱいに視線が吸い寄せられた。うむ……見事だ!

「ええぇっ!? ちょっ、晃生くんが協力するなんてずるいわよ!」
「フフン。そんなのルールで決めてなかったもんねー」
「ぐ、ぐぬぬ……」

 美少女がぐぬぬとか言うんじゃねえよ。清楚系ヒロインの肩書はどうした。
 日葵と羽彩は子供のように言い合っていた。こいつら一応優等生と不良生徒だってのに仲良いよな。

「この勝負、氷室ちゃんの勝ちぃー!」

 いつの間に食い終わっていたのか、エリカが羽彩の手を挙げさせて勝者だと宣言する。お前いつから審判になったんだよ?

「やったー! ほら、エリカさんもこう言っているし、アタシの勝ちだよね」
「ぐぬぬ……」

 金髪ギャルとピンク髪優等生が仲良くケンカしている中、青髪お姉さんが俺の肩にぽんっと手を置いた。

「そして、景品を取れなかった晃生くんが敗者ってことで良いよね?」
「あ」

 そういやそうだな。せっかくだからと、羽彩にでかい景品を取らせようとして自分のことを考えていなかった。

「いや、でもこれは晃生と一緒に取ったものだし……」

 羽彩も俺が負けたことになると考えていなかったのだろう。景品が取れたのは俺の手柄でもあると言ってくれる。

「気にすんなって。これはお前のもんだ」

 クマのぬいぐるみを羽彩に押しつける。

「でも……」
「でも、じゃねえ。俺のプレゼントが嬉しくねえのか?」
「晃生のプレゼント……?」

「プレゼント」の言葉が効いたのか、申し訳なさそうにしていた羽彩が、顔を綻ばせてクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

「ううん……嬉しいっ。ありがとう晃生!」

 可愛い顔しやがって。しばらく眺めていたいところだったが、羽彩は日葵と梨乃に羨ましがられてやいのやいのと騒ぎ始めた。同級生組は本当に仲良しだな。

「では敗者の晃生くん。私と一緒に、罰として勝者に食べ物でも買ってきてあげようか」
「それってエリカが食べたいからじゃねえの?」
「えへっ♡」

 笑って誤魔化された。ていうか、あれだけ食べたってのにまだ足りねえのか? いつから食いしん坊なお姉さんになったんだよ。

「そういうわけなので。さなえさん、みんなのことをよろしくお願いしますね」
「え、ええ。もちろんよ。……行ってらっしゃい」

 日葵たちのことはさなえさんに任せて、俺とエリカは屋台に向かうのであった。


  ◇ ◇ ◇


 ──屋台で食べ物を買うだけのはずだったんだが……。

「も、もうすぐ花火が打ち上がるんだ。それまでは、私と話をしてほしい……私の気持ちを、君に聞いてほしい……っ」
「……」

 なぜか音無先輩と二人きりになっていた。
 ものすっげえ気まずいんだけど……。この空気、どうしてくれんの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...