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118.親子は思い合っている

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 幼い頃の俺の不用意な行動で、被害に遭わせてしまった母親のこと。
 それを助けるどころか、傍にもいなかった父親のこと。
 両親に対して気持ちを全部整理できたわけではない。あの時の自分自身の行動を許せたわけでもない。
 それでも、さなえさんのおかげですべて自分が悪いのだと、必要以上に責任を負わなくても良いのだと思えるようになった。そんなことは誰も望んでいないのだと、少しだけ自分を許せるようになった。

「私たちにできないことを、おばさ……さなえさんはしてくれたんですね。晃生くんを慰めてくれてありがとうございます。彼が苦しんでいる時……私たちにはどうすることもできなかったから……」

 俺はさなえさんと深い関係になったいきさつを話した。
 話し終えると、日葵が俺の女代表みたいな感じでさなえさんに感謝を述べる。

「そして、これからも一緒に晃生くんを支えていきましょう。だって私たちは晃生くんに幸せをもらった仲間なんですからね」

 いくらハーレムが許されている世界とはいえ、割と修羅場な状況だってのに、日葵の笑顔には曇り一つなかった。

「え、ええ……え? 日葵ちゃんは本当に良いの?」

 むしろさなえさんの方が戸惑っているほどだ。娘の彼氏に手を出してしまった。彼女の頭の中では自身の倫理観と闘っているのかもしれない。
 日葵は俺に好意を表す奴全員仲間だと思っている節があるからな。この辺は羽彩の方がまともだろう。
 その羽彩といえば、話を聞いてから複雑そうな顔で頬をかいていた。

「ん……アタシ的には複雑な気持ちなんだけど……。でも、晃生が決めたことだし。何よりさなえさんは晃生の心に寄り添ってくれたんだよね? アタシらは晃生が落ち込んでいるのにどうすれば良いかわかんなかったし……正直そこんとこは感謝してるっつーか……」
「つまり羽彩ちゃんもオッケーということですよ」
「コラひまりん! テキトーにまとめんなっ!」

 金髪ギャルとピンク髪優等生がわちゃわちゃイチャついている。女子同士のスキンシップを眺めるとほっこりするなぁ。ほら、胸同士が押し合ってすごいことになってるし……。やはり巨乳は強い。

「お母さん良かったね。日葵ちゃんと羽彩ちゃんが認めてくれたから、これからは一緒にアキくんに可愛がってもらえるよ」
「べ、別にアタシは認めたわけじゃ……ていうか、りのちんはそれで良いの? その、親子で同じ男とくっつくって……あんまり聞いたことないんだけど?」

 笑顔の梨乃に羽彩は困惑しながらも尋ねる。エロ漫画世界でも、さすがにレアケースだろうしな。

「お母さんも一緒なら、家族みんな一緒でいられるじゃないですか。それはとても素敵なことだと思いますよ」
「みんな一緒に……。そ、そうなのかな?」

 梨乃が当然のように言うもんだから、羽彩は簡単に説得されかけていた。チョロいぞ金髪ギャル。

 この世界ではハーレム婚が認められているとはいえ、すべての人に受け入れられているわけではない。
 ハーレム婚の歴史自体が浅いからな。俺の親世代からと考えれば、俺たちくらいの年代だと賛否が分かれていて当然だろう。
 さなえさんの世代なら否定意見がかなり多いだろう。それを親子揃って同じ男に好意を寄せるとなれば……彼女にとって大変な道になるかもしれない。

「もしさなえさんに……さなえに俺の女になる意思があるんなら守ってやる。そうできるだけの力を手に入れて見せるぜ」

 学生の分際で何を言っているんだ。そんな風に笑われてしまうかもしれない。
 だが、俺も黒羽さなえという人柄に触れて、傍にいてほしいと思ったのだ。
 梨乃の母親だとわかっている。それでも、みんなで一緒に幸せになりたいと、そのうちの一人になってほしいと心の底から思ってしまったのだ。

「私は……」

 眼鏡の奥の瞳が揺れている。
 迷っている。だが、それは心が俺に傾いている証拠でもあった。
 今すぐ彼女の肩を抱いて「俺の女になれ」と言ってやりたい。だが、そんなことをすれば自分の判断ではなかったと思わせてしまうだろう。
 さなえは大人なのだ。自分の判断に責任を負える人を、都合良く狂わせてはならない。

「……ごめんなさい」

 さなえの小さな謝罪に、俺の力が抜けていく。
 ダメだったか……。いや、いきなり娘と同い年の男にそんなことを言われても困るだけだよな。

「ごめんなさい梨乃……」

 しかし、俺への謝罪だと思っていたら、さなえは娘に向かって頭を下げていた。

「私……晃生くんに抱かれて本当に嬉しいと思ってしまったの……。ずっと寂しかったのかしらね……だから、だからね……」
「あたしはずっと祝福しているよ。お母さんががんばってあたしを守ってくれていたことを知ってるから。今度はお母さんが安らげるようにって、あたしずっと思っていたの」

 さなえと梨乃が涙ぐむ。親と子。それぞれ思ってきたことがあったのだろう。
 互いを思い合って、か。この親子は本当に俺の心を揺さぶってきやがる。

「晃生くん」
「おう」

 さなえの瞳が真っ直ぐに俺を映す。梨乃も母の隣で姿勢を正した。

「その……私も、あなたの女として傍にいさせてください」
「アキくん、お母さんをよろしくお願いします」

 親子揃って頭を下げる。綺麗な緑髪はよく似ていた。

「もちろんだ。さなえ、これからよろしくな」

 まとめて面倒を見られるようになりたい。守るべきものが増えると、怠惰なままではいられない。

「はい。正式にさなえさんも私たちの仲間になったのだし……早速しましょうか」

「何を?」と聞き返す必要はなかった。なぜって? 日葵が言いながら服を脱ぎ出したからである。

「ちょっ、ひまりんっ!? こんなところでいきなり──」
「何を恥ずかしがっているのよ羽彩ちゃん。晃生くんの新しい女の人が出来たのよ。仲良くなるには裸の付き合いが一番じゃない」

 そうなのか? 日葵の力強い言葉に、羽彩と俺は説得されかけていた。

「い、いやいやいや! だからってそんな急に……。さなえさんだってびっくりしちゃうじゃん──」
「もうっ! うるさいわね羽彩ちゃん! 私は昨日からまったくしていないのよ! 晃生くん成分が足りないの! 今すぐ補充したいんだから邪魔しないでっ!!」

 さっきまでニコニコしていた日葵が急にキレた。これにはさなえもびっくりである。
 清純派ピンク優等生は相当溜まっていたらしい。美少女のはずなのに圧が怖いぞ。

「さあ晃生くん。さなえさんだけじゃなく、私たちも可愛がってもらうわよ」
「お、おう……」

 嫉妬……とは違うのかもしれないが、日葵にも思うところはあったらしい。
 そんなわけで、日葵と羽彩を加えて五人で仲良くスッキリした。最初は娘の友達と一緒というのもあって恥じらいを見せていたさなえだったが、最終的には仲間意識が芽生えたのだと、俺は身をもって感じたのであった。

「さ、さなえっ」
「はぁんっ♡ 晃生くんに甘えてもらえて……幸せな気持ちになってしまうわ♡」

 ──スッキリしている最中にさなえのスマホに着信があったことを、俺たちは行為の後で知ることになったのだった。
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