上 下
86 / 116

86.見限られた大人たち

しおりを挟む
「晃生くんっ!」

 エリカが俺の胸に飛び込んできた。ダメージが身体に残っていてフラつきそうになるが、根性で踏みとどまる。

「大丈夫だったかエリカ。何もされていないだろうな?」
「うん。羽彩ちゃんと夏樹ちゃんも守ってくれたから。それに、晃生くんが来てくれて本当に嬉しかったよ」
「エリカが呼べば駆けつけるって言っただろうが。……無事で良かったぜ」

 しっかりしているようでか弱い。そんな彼女の華奢な身体を抱きしめる。触り慣れた柔らかい感触を味わい、ようやく安心できた。

「羽彩も来いよ。抱きしめてやるぞ?」

 真っ先に飛びついてきそうな羽彩が傍で立ち尽くしていた。小さく首を横に振り微笑む。

「ううん。今回はエリカさんに譲るよ。一番怖い目に遭ったのはエリカさんだからさ。だから晃生、しっかり慰めろよー」

 冗談めかした口調でエリカを優先させる羽彩。その身体が小刻みに震えていることを俺は見逃さなかった。

「羽彩もがんばったんだろ。頭くらい撫でさせろよ」
「んっ……。ぐすっ……うん。アタシ何もできなかったけど……がんばった……がんばったよ……」

 気遣いをしていた羽彩の頭を撫でる。自分だって怖い思いをしただろうに、エリカの気持ちを考えるとは良い娘である。

「まさかここまでの大事おおごとになっているだなんて……。助けが間に合って本当に良かったわ」
「アキくんも大丈夫ですか? 殴られた時にすごい音がしましたけど……」

 日葵と梨乃も集まってくる。俺の女たちに囲まれて、ようやくいつもの感じを取り戻せそうだ。

「どうってことねえよ。それにしても……」

 この場の半数が味方となって、逆に西園寺のエロジジイたちを取り囲んでいる。気絶した連中はもちろん、おろおろするばかりのエリカの両親も抵抗しなかった。
 それを指示しているのは音無先輩だ。気絶した黒服連中を始め、他の奴らもテキパキと拘束していく。

「生徒会長は何者なんだ? そもそもなんでこんなところにいるんだよ?」

 それどころじゃない状況だったからあえて放置していたのだが、事が終わると無視するわけにもいかなかった。

「アタシも不思議だったんだよねー。音無先輩に誘われてエリカさんを助けに来たんだけどさ、そもそもなんでアタシらの事情を知っていたんだろう?」
「おい待て。誘われたってどういうことだ?」
「え? だから──」

 羽彩はなぜ俺たちよりも早くここにいたのか、その経緯を話してくれた。聞き終わった俺は一言感想を放つ。

「エリカのことが心配になったからって怪しい車に一人で乗っちゃいけません!」
「ふぎゃっ!? ちょっ、何すんのよ晃生~~っ」

 警戒心が足りていない羽彩の頭をチョップする。ヘッドドレスをつけているからちょっと強めにしておいた。
 こいつ……。「お菓子あげるからついておいでー」とか言われて知らない人について行ったりしないだろうな? 話を聞いていたらものすごく心配になってきたぞ。
 しかし、なぜ音無先輩は羽彩と一緒に来たんだ? あれだけ味方がいるなら、わざわざ羽彩を連れてくる理由はないと思うのだが。エリカに警戒されないためだろうか?
 その音無先輩に目を向けてみると、さなえさんがおずおずとした様子で近づいていた。

「あのー……夏樹様?」
「なんだい? 仕事に失敗したさなえくん。郷田くんをとどめておくように言ったのに、まったくダメじゃないか」
「う、うぐっ……。娘にあんなことをするとは思わなかったので、その……」
「何をされたかは知らないけれど、彼に蹂躙されることは受け入れてしまえばいい。……むしろ私が代わりたいよ」

 音無先輩はため息をつく。話の内容は聞こえなかったが、小動物みたいに震えているさなえさんを見るに、生徒会長の方が立場が上のように感じた。
 そんな音無先輩と目が合う。メイド服に身を包んではいるが、学校の時みたいに胸を張って堂々としたものである。

「郷田くん」

 音無先輩がこちらに近づいてくる。

「夏樹ちゃんありがとう! あなたのおかげで助かったわ」
「わっ!? ちょっとエリカお姉ちゃん……もうっ」

 エリカが音無先輩に抱きついた。
 なんだかとっても仲良しな様子。凛々しい生徒会長が年頃の可愛い顔を見せる。むしろちょっと幼く見えるな。

「つーか、エリカと音無先輩は知り合いだったのか?」
「うん。夏樹ちゃんとは小さい頃にちょっとだけ会ったことがあるんだよ。お姉ちゃんって呼んでくれて、可愛いんだよー」

 エリカが嬉しそうな笑顔で答えてくれる。よしよしと音無先輩の頭を撫でており、関係性も小さい頃のままなのだろうかと思えた。
 原作ではモブ扱いだったエリカが、寝取られヒロインと関わりがあるとは考えてもいなかったな。それなら音無先輩がエリカを助けに来た理由にも納得できる。
 ようやくエリカに解放された音無先輩が俺に向き直る。凛々しい表情を取り戻し口を開く。

「いろいろと気になることがあるのだろうが、また後日、話をさせてくれないか? 見ての通り、後始末が忙しくなりそうでね。郷田くんたちも今夜は疲れただろう。後のことはこちらに任せて、早く帰って休むといい」

 音無先輩はそれだけ言って背を向けようとする。背中に声をかけようとも思ったが、確かにこれからの方が大変かもしれないだろうと考えたら躊躇ってしまった。
 それに、また日を改めて話をしてくれるって言ってんだ。あまり急かすこともないだろう。

「え、何? なになに何!?」

 突然、玄関に向かうドアが開かれて、大勢の黒服の男がぞろぞろと入ってきた。羽彩は困惑した声でうろたえる。
 またボディガードか? そう思ったのか、羽彩はもちろん、エリカも日葵も梨乃も俺にしがみついた。身動きが取れないのに幸せの感触が広がる。

「こっちだ」

 黒服連中は音無先輩の指示を聞いて、エロジジイたちを連行した。その中にはエリカの両親も含まれている。

「お、おい何をするんだ! エリカ! 見てばかりいないで助けてくれ!!」

 エリカの父親が娘に助けを求める。だけど、連行されて姿が見えなくなるまで、彼女はその声を無視し続けた。

「私を売った人を、私はもう親として見られないよ……っ」

 静かになって、エリカはそうぽつりと零した。優しく抱きしめてやれば、強い力で抱きしめ返された。
 彼らがどうなるかは知らないが、エリカが見限ったことだけは確かだった。縁を切ることを決意した彼女は、しばらく俺の胸元を熱く湿らせていた。

 ──今日という日が終わる。こうして、俺たちはエリカの救出を成功させたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

凌辱系エロゲの世界に転生〜そんな世界に転生したからには俺はヒロイン達を救いたい〜

美鈴
ファンタジー
※ホットランキング6位本当にありがとうございます! 凌辱系エロゲーム『凌辱地獄』。 人気絵師がキャラクター原案、エロシーンの全てを描き、複数の人気声優がそのエロボイスを務めたという事で、異例の大ヒットを飛ばしたパソコンアダルトゲーム。 そんなエロゲームを完全に網羅してクリアした主人公豊和はその瞬間…意識がなくなり、気が付いた時にはゲーム世界へと転生していた。そして豊和にとって現実となった世界でヒロイン達にそんな悲惨な目にあって欲しくないと思った主人公がその為に奔走していくお話…。 ※カクヨム様にも投稿しております。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

処理中です...