上 下
75 / 124

75.予想外の接点

しおりを挟む
 エリカから『はやくたすけにきて』とメッセージが届いた。ひらがなで端的な文章。それだけ切羽詰まった状況ってことか?
『何があった?』と返してはみたものの、しばらく待ってみたが返信はなかった。段々と焦りが募り、居ても立ってもいられなくなる。

「状況はわからないが、とにかくエリカの家に行ってみるか?」

 家の場所は聞いてある。問題はエリカが助けを求めた原因が両親だった場合、俺は門前払いされるだろうってことだ。
 西園寺が暴走してエリカに危害を加えているのなら、彼女の両親は味方になってくれるかもしれないが……話を聞く限りそれは難しそうなんだよなぁ。
 エリカは何かあればすぐに戻ってくると言っていた。しかし隠し持っていたスマホからメッセージを送ったという状況を考えると、彼女は自由を奪われてしまったのだろうと予想できる。悪い考えにはなるが、下手をすれば監禁されている可能性すらあった。
 まずは羽彩と日葵にエリカの緊急事態を告げる。夜中なのに悪いが頼らせてもらおう。

「梨乃……は、いいか。もうぐっすり眠っているだろうし」

 梨乃とエリカに直接的な接点はない。いきなり彼女が緊急事態と言っても困らせるだけだろう。
 何より昨晩から俺をスッキリさせてくれていたのだ。いくらなんでも疲れ切っているはずだ。

「あとは……」

 頼れるものは全部頼るべきか……。心の奥底で郷田晃生が嫌がっているが、主導権は俺にあった。

「晃生くん? こんな夜遅くにどこに出かけるのかしら?」

 和室から出ると、廊下でさなえさんとばったり出くわしてしまった。
 外出着に着替えているのだ。「ちょっとトイレに行くだけです」と言ったって信じてもらえないだろうな。
 それにしても……。風呂上がりなのだろう。さなえさんは髪を下ろして寝間着姿になっていた。
 良い匂いがするし色気も増しているように感じる。なのに可愛らしくて、本当に子持ちの女性なのかと疑いたくなる。

「えっと、ちょっと飲み物でも買いに行こうかと……」

 クラスメイトの母親に見惚れている場合じゃない。適当な言い訳を口にしてみる。

「飲み物ならうちにあるわよ。お茶にコーヒーにジュース、なんでも言って。あっ、でもさすがに未成年にお酒は勧められないわよ?」
「い、いやー……」

 しまった。咄嗟の嘘じゃ自分を追い詰めるだけだったか。
 どうしようか? エリカのことを考えるとここであまり時間をかけてはいられない。強引にでも行くか?

「……あなたが、郷田晃生くんなのよね」
「え? はい。そうですけど?」

 ニコニコしていたさなえさんが真顔になって俺をフルネームで呼んだ。出会った時に自己紹介しているので、名前を知っているのは当然なのだが……。言葉の意図はなんだ?

「もしかして、これから小山エリカさんの元へ行こうとしているのかしら?」
「は? なんでそれを……」

 女の子を守ってお家騒動に巻き込まれてしまった。確かにさなえさんにそんな事情があると説明はしたが、エリカの名前は出していなかったはずだ。
 日葵はそういううっかりミスをするとは考えづらい。梨乃に至ってはエリカの顔も名前も知らないだろう。
 だったらなぜさなえさんの口からエリカの名前が出たんだ? その疑問に、彼女はあっさりと答えてくれた。

「私は西園寺社長の秘書なのよ。タケルさんが何をしたのか、社長と一緒に私も聞いていたわ。だから知っているの。小山エリカさんのことも、彼女を守ったという郷田晃生くんのこともね」
「っ!?」

 社長秘書って……西園寺の父親のかよ! こんな接点予想できるわけないだろ!
 西園寺から身を隠そうと梨乃の家に厄介になったってのに、実は自分からその相手の懐に飛び込んでいましたってか。つまり俺の居場所はばればれで、エリカを助けようと行動してもすぐに筒抜けになるってことか。
 どうする? さなえさんが発信源というのなら、彼女さえなんとかしてしまえば相手に俺の行動が伝わることはないだろうが……。

「安心して。小山エリカさんに危害が及ぶことはないわ」

 俺がよからぬ考えに支配される前に、さなえさんが穏やかな口調で言った。

「どういうことですか?」
「そのままの意味よ。社長は小山さんに娘さんと話をする機会を作ってくれと言っただけだもの。もちろんタケルさんの不祥事の証拠はすべて処分しなければならないけど、彼女自身に何かしようというつもりはないわ」
「だったらなんでエリカは俺に助けを求めたんですか?」

 さなえさんは顎に手を添える。少しだけ考えて、結論を出したようだ。

「おそらく小山さんが娘さんから証拠動画を奪おうとしたのでしょうね。それでトラブルがあったとか……。でも自分の娘だもの。度が過ぎるほど手荒なことはしないでしょう」
「……」

 さなえさんは本当に娘を大切にしているのだろう。だからこそ、そういう親ばかりでないことに考えが至らない。
 トラブル、なんて言葉では表せないような目に遭っているんじゃないか。エリカが心配で、俺は行動せずにはいられなかった。

「ダメよ晃生くん。考えなしに力尽くで思い通りにしようとすればタケルさんと同じになってしまうわ」
「……っ」

 西園寺と同類……。それは嫌すぎるっ!

「安心しなさい。晃生くんは梨乃の気になる子だもの。私に任せてもらえれば悪いようにはしないわ」
「……信じていいんですか?」
「任せなさい。私はできる秘書なんだから」

 さなえさんは力強くぽよんと胸を叩いて俺に応じてくれた。
 黒羽さなえ。本当に彼女を信じていいものなのかと、俺は判断に迷った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...