上 下
68 / 124

68.彼女はしたいことがたくさんある

しおりを挟む
 雀のさえずりが耳に心地よい。まどろみの中、温かくて柔らかいものを抱きしめる……。

「んっ……」

 甘い息遣いが頭の上から降ってくる。顔が柔らかいものに挟まれて、なんだか幸せだった。

「ふわぁ~……あむっ」
「あんっ」

 ゆっくりと目覚めて、あくびをする。すると何かを口に含んでしまい、それを無意識に舌で転がす。

「んんっ……。ふふっ、郷田くん……赤ちゃんみたいですよ?」
「あん?」

 声に反応して見てみれば、眼鏡を外した黒羽が母性を湛えた瞳で微笑んでいた。
 次第に脳が覚醒していき、俺は昨晩のことを思い出した。

「……おはよう梨乃」
「はい、おはようございます」

 黒羽……梨乃は慈しみを感じさせる手つきで俺の頭を撫でる。ツンツンした頭はチクチクして痛いだろうに、彼女は俺を撫でることをやめなかった。
 もう朝なのだろう。陽光が障子を照らして部屋を明るくしている。
 だけど、梨乃の胸の中があまりにも気持ちが良くて……。俺は朝寝坊をするのであった。


  ◇ ◇ ◇


「制服エプロンが良いですか? それともスク水エプロン? も、もしかして……裸エプロンをご所望ですか?」
「うん、何の話だ?」

 いつもより少しだけ遅く起きた俺に、梨乃は朝食を作ると言い出した。それで何を食べたいかと聞かれるかと思ったのだが、考えてもいなかった単語に面食らう。
 え、俺何聞かれてんの? それ食べ物じゃないよね?

「男の人は制服エプロンにぐっとくるんですよね? スク水エプロンも人気が高いと聞きますし、裸エプロンは男の夢と言っても過言ではないとの情報を得ています」
「それどこ情報だよ!?」

 梨乃の情報源が心配である。いかがわしい雑誌やネットのサイトを鵜呑みにしてんじゃないだろうな?

「あれ、もしかして郷田くんはお嫌いでしたか? いいえ、そもそもあたしがそんな格好をしたって嬉しくもなんともないですよね……」

 眼鏡をかけていない梨乃に上目遣いで見つめられる。否応なく昨晩の行為を思い出してしまい、頭をかきながら目を逸らす。

「じゃあ、スク水エプロンで」
「はいっ。ありがとうございます!」

 なんで梨乃がお礼を言ってんだよ? 彼女は満面の笑顔で着替えに向かった。
 ……いや、あれですよ? うちの学校はプール授業が男女別だから。女子のスクール水着がどんなのかなーって気になっただけで、ただの好奇心なんだからねっ。……俺は誰に言い訳をしているんだよ。
 俺も身なりを整えてからリビングへと向かう。人様の家で緊張しそうなもんだが、郷田晃生のチートボディにそんな繊細な心はなかった。我が物顔でテレビをつける。
 ……郷田晃生ともまた話し合いをしておかないとな。梨乃が受け入れてくれたからいいものの、昨晩みたいに女子に襲いかかるようになっては社会的に死にかねない。
 まさか身体を乗っ取られるなんて想像もしていなかった。いや、むしろ身体を乗っ取っているのは俺の方なんだけども。
 それでも、俺は郷田晃生として生きると決めたし、郷田晃生もまた俺を受け入れたものだと思っていた。

「自分勝手に俺の女どもを不幸にしようってんなら、許さねえからな」

 自分だけにしか聞こえないように呟く。語り掛ける相手を考えれば、それで充分だった。

「……ちっ」

 反応はない。まあいつもは強い感情だけが表に現れるってだけで、気軽に話ができるってわけでもなかったからな。
 おそらく郷田晃生自身も俺に言葉が届かないことを歯がゆく思っていることだろう。話をするには、また機会が来るのを待たなきゃならないってことか。

「ご、郷田くん……お待たせ、しました……っ」

 恐る恐るといった声。振り返れば眼鏡をかけた梨乃がいて、本当にスク水エプロン姿になっていた。
「お、おう」
 声が裏返らなかった自分を褒めてやりたい。やべえ。何がやべえって、正面から見るとほとんど裸エプロンと変わらねえじゃねえか!

「ど、どうですか?」

 梨乃は右を向いたり左を向いたりとポーズを変える。学校指定の紺色のスク水が、女性らしい背中のラインから肉づきの良いお尻を強調していた。
 スタイルが良いのにスク水がよく似合っている。小柄な身体が少しだけ幼さを感じさせるからだろうか。

「滅茶苦茶エロ可愛い」
「あうっ」

 梨乃は顔を真っ赤にさせて胸をぎゅうっと押さえる。おい、そんなことをしたら大きな果実が美味しそうに潰れるじゃねえかよっ。

「そ、それでは朝食を作りますので。郷田くんはくつろいでいてくださいね」
「お、おう」

 キッチンへ向かう梨乃を目で追いかける。スク水で覆われたプリプリとしたお尻が、俺を誘惑しているかのように振られている。前面がエプロンで隠れているからこそ、後ろの無防備さが際立っていた。
 だが、残念なことにキッチンは対面式だった。彼女の後ろに回り込みたい衝動をぐっと抑えて、俺は頭に入ってこないニュース番組を眺めていた。

「どうぞ。簡単なものですが」
「おおっ。いただきます」

 ご飯に味噌汁、焼き魚、おひたしが並ぶ食卓。料理に関しては羽彩と比べても甲乙つけがたいほどだ。
 味噌汁をすすると顔が綻ばずにはいられない。朝から活力が湧いてくるってもんだ。

「あ、あのですね……」
「ん、どうした?」

 料理に手をつけず、かしこまった様子の梨乃。彼女の真剣な表情に、何を言われるのかと身構えてしまう。

「あのあのあの……っ。あたしたち、昨晩はちょっとだけ深い関係になったじゃないですか……っ」
「お、おう」

 梨乃は顔を真っ赤にしていた。昨晩のことを思い出しているのか、ちょっと目が潤んでいる。
 控え目な性格を表しているのだろう。「ちょっとだけ」とつけるところが梨乃らしく感じた。
 だからこそ、彼女が改まって言葉にしようとしていることに、俺は身構えずにはいられなかったのだ。

「だからその……郷田くんじゃなくてですね……アキくん、って……呼んでもいいですか?」

 梨乃は恥ずかしさで顔がうつむきそうになりながらも、懸命に耐えて、俺をじっと見つめてそんな可愛いお伺いを立ててきた。

「もちろんだ。俺も梨乃って呼んでるしな」

 即オーケーすると、梨乃は笑顔の花を咲かせた。何この可愛い生き物は?

「嬉しいですっ。えへへ、あたし男の子と親しく名前を呼び合うのが夢だったんですよ」

 何その可愛い夢は? いつでも叶えさせてやるぜ。

「それと、もう一つお願いがあるんですけど……。昨晩したこと……またいっぱいしたいですっ」

 いっぱいしてやるぜ! 朝食を済ませてから、俺はスク水エプロン姿の梨乃でスッキリした。

「悪い。水着を汚しちまったな」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。だ、大丈夫です……んっ、洗えばいいだけですから……」

 洗濯するついでに、朝から汗をかいてしまったので梨乃と一緒にシャワーを浴びる。スッキリした。
 二人で身体の拭き合いっこをしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...