上 下
64 / 122

64.緑髪眼鏡美少女のお出迎え

しおりを挟む
 日葵と羽彩は本当に帰ってしまった。ピンクと金色が見えなくなって、ちょっと寂しい。

「こ、ここがリビングです……。とと、とりあえずお茶を出しますから、郷田くんはそこのソファでく、くつろいでいてください……」

 残されたのは俺と、緊張で硬くなった黒羽だけだった。
 黒羽の緊張も仕方がないだろう。親友の頼みとはいえ、男と一つ屋根の下で生活するはめになったのだ。しかもこんな強面でガタイの良い男。怖がるなという方が無理ってもんである。

「けっこう大きい家で驚いたぞ。俺は狭いアパート暮らしだからさ、この広さは新鮮だぜ」

 怖くならないように笑いながら話しかける。郷田晃生の笑顔は怖いだろと、笑ってから思い出した。
 せっかく黒羽が善意で俺を受け入れてくれたんだ。男と二人きりになる恐怖を押し殺してまで、友達だからと俺のピンチを助けようとしてくれている。
 ならば誠意を持って彼女と接する。俺にできることがあるとすれば、それくらいのものだろうから。

「そ、そうですか……」

 会話が広がらない。いつもの黒羽ならちょっとした話題でも盛り上がってくれそうなものだが、やはりこの状況に緊張しているんだろうな。

「えっと、俺はどこで寝ればいいんだ? 適当にその辺の床でもいいんだけどよ」

 明日になれば日葵たちが来る。それまではできるだけ黒羽と距離を置いた方が、彼女も安心するかもしれない。

「あっ……。郷田くんのお部屋は用意してありますので……。お、お布団もあります……っ」
「そうなのか? わざわざ悪いな」
「いえ、あたしとお母さんの二人だけなので、お部屋は余っていますから……」

 正直、黒羽の父親がいないのとバイトをたくさんするという発言から、彼女は貧乏ではないかと思っていた。
 だが、この家を見てみればそんなことは思えなかった。明らかに中流家庭以上。まだ玄関から廊下、このリビングとキッチンしか見てはいないが立派なものだった。
 しかもホコリ一つ落ちていないほど綺麗にされていた。この広い家をたった二人で掃除するのは大変だろう。もしかしたら、お手伝いさんでも雇っているのかもしれないな。

「ど、どうぞ」
「ありがとう。わざわざ悪いな」

 わざわざ湯を沸かしてお茶を淹れてくれていた。夏だし冷たい麦茶で良かったのだが、口にすると要求になりそうなので何も言わなかった。
 他人の家ってやりづらいな。キッチンに入るのだって断りを入れなければならないだろうし。俺が何か手伝うというのも、黒羽を困らせることになってしまうかもしれない。
 温かいお茶が喉を通る。暑い時期にどうかとも思ったが、胃の中が温まってほっこりした。

「ふふっ」
「ん? どうしたんだ黒羽?」

 隣に座った黒羽が笑っていた。お茶を飲んだだけだってのに、笑うところがあったか?

「郷田くんが安心したみたいに表情を緩めるから。あたしも気が緩んで思わず笑ってしまいました」
「美味かったからな。それにそういう反応されるのも新鮮だぜ」
「あ、ごめんなさい。つい笑ってしまって……」
「いや、違うんだ」

 お茶をもう一口飲む。顔が綻んでいるのに、自分でも気づけた。

「俺は自分でも悪人面だと思っているし、周りの反応を見ればそれが間違いじゃないってわかっているからな。だから笑っても怖がられるんだが……黒羽は俺の顔を見ても怖がらないでいてくれるから嬉しいんだ」

 そう、嬉しいのだ。
 黒羽が俺と普通に接してくれて、友達みたいに笑い合ってくれる。みたい、じゃないな。互いがそう思ってんなら、胸を張って俺たちは友達なのだと言っていいだろう。

「そ、そうですか……。あたしは郷田くんの笑顔……か、可愛いと思いますよ?」
「さすがに可愛いってのとは違うんじゃないか?」
「いいえ、可愛いですよ。あまり見せないからこそ郷田くんの純粋さが凝縮されていると言いましょうか。普段は大人な感じなのに、少年みたいな笑顔がギャップになってとても良いのですよ!」

 黒羽がずいっと顔を近づけてくる。言葉に熱がこもっていた。

「そ、そうかな?」
「そうなのです」

 力強く断言されてしまった。そこまではっきり言われると、そうなのかと納得しそうになってしまう。

「ははっ。笑顔をそんなにも褒めてもらえると嬉しいもんだな」
「あっ、ご、ごめんなさい調子に乗りました……」
「そこは黒羽が謝るんじゃなくて、俺がお礼を言うところだろ。ありがとうな、そんな風に思ってくれていて嬉しいぜ」
「~~っ!?」

 黒羽が急にガタッと立ち上がった。部屋の照明に反射したせいで、彼女の目元が見えない。

「お……お風呂! お風呂入りますよね? 今準備しますから待っていてくださいっ」
「あ、でもここの風呂を使わせてもらうのは悪いんじゃ……」
「大丈夫ですっ。今日は一緒にアルバイトもしたんですから、汗臭い方が問題です。ええ、大問題なのです!」
「そ、そうだな。大問題だ」

 確かに今日はいろいろあったからけっこう汗をかいている。あまりに臭いと黒羽の迷惑になるだろう。
 でも悪いしなぁ。銭湯が近所にあれば行きたいところだが、そう都合良くはないか。
 黒羽がぱたぱたとリビングを出て行った。もう遅い時間だ。今夜は彼女の好意に甘えさせてもらうことにしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...