上 下
59 / 122

59.VS黒服の男

しおりを挟む
 黒服にサングラス。大柄な身体という点だけなら郷田晃生とタメを張る。
 このいかつい雰囲気だけで、大抵の奴ならビビッてしまうだろう。

「ハーッハッハッハッ! 僕に逆らうとどうなるか、その身で思い知るがいい!」

 頼りになる黒服が味方だからだろう。西園寺は勝利を確信しているのか高笑いをしていた。奴には俺がコテンパンにされた姿がすでに見えているのかもしれない。
 ビビらせるだけならまだいいだろう。だが、本当にけしかけてくるとなれば、もう言い逃れはできない。

「いいんすか? 高校生相手に暴力で黙らせようとする。そんなこと、世間の人が知ったら大変なことになるんじゃないっすかね?」
「はあ? 何を言っているんだ。君のような高校生がいるわけがないだろう」
「……」

 うん、そこだけは同意。郷田晃生みたいな高校生がいてたまるかとは思う。
 でもこれが現実で、俺もまともに送れなかった青春ってやつを目指しているんだ。見た目はどうあれ、俺……郷田晃生は高校生の男子だ。

「フンッ。命乞いなら聞いてやらんでもないぞ。土下座して『西園寺タケル様に逆らって申し訳ありませんでした』と言えば許すことを考えてやってもいい」
「……」

 いちいち言葉のインパクトがあるせいで、西園寺がしゃべる度に黙り込んでしまう。もう何を言えばいいものやら……。つーか命乞いって……もしかして、俺を殺すまで痛めつけるつもりなのか?

「まあ土下座したって許してはやらないよ。君みたいな野蛮な男が僕に逆らった。それは万死に値する!」

 西園寺が笑う。爽やかさがひとかけらもない、ニチャーとした粘っこい笑みだった。

「格の違いを教えてやる。さあ、懲らしめてやれ!」
「はい、坊ちゃん」

 西園寺にけしかけられて、黒服が初めて口を開く。渋い声だなぁオイ。強そうじゃねえか。
 命令に従順な黒服が、俺に何を言うでもなくいきなり踏み込んでくる。でかい身体の割に速い。あっという間に俺の懐に潜り込んできた。
 格闘技か何かの経験者なのだろう。郷田晃生の直感がそう告げていた。

「ふっ」

 浅く息を吐きながら、黒服は鋭い拳を放ってきた。
 重そうなパンチだ。腰を入れて、しっかり体重がのっている。

「うわぁー!」

 俺はそのパンチを顔面で受けた。
 ねじ切れんばかりの勢いで顔が横に向く。後ろで見守っている日葵と羽彩が大きく目を見開いたのが見えた。

「晃生くん!」
「あき……っ!?」

 俺が殴られたのを見て二人が息を呑むのがわかった。やられた姿なんか見せたりして悪いと思う。

「ふっ」

 黒服がさらに追撃してくる。今度は腹だ。拳が腹に突き刺さり、身体がくの字に折れる。

「ぐわぁー!」
「ハーッハッハッハッ! なんだよ、見た目だけで大したことがないじゃないか! もっとだ。もっと僕の力を思い知らせてやれ!」

 西園寺の気分は最高潮。俺がやられたところを見てご満悦のようだった。
 僕の力って……。お前は離れたところから騒いでいるだけじゃねえか。俺は黒服に殴られながらぼんやり思った。

「も、もうやめてよ! 晃生が……晃生が死んじゃうでしょ!!」

 羽彩が涙ながらに叫ぶ。だが、それは西園寺の笑みを深くするだけだった。

「嫌だね。僕に逆らおうだなんて、そんな気を絶対に起こさせないようにしてやる。そこまで思い知らせないと、この粛清は終わらないよ」
「そ、そんな……っ」

 羽彩が目に涙を溜めながらぐっと拳を握る。こんな顔をさせてしまうとは、ちょっとやられすぎただろうか?

「ふっ」
「……そろそろいいか」
「何!?」

 黒服が驚愕する。放たれた拳を、俺が掴んだからだ。
 握力を込める。するとミシミシと嫌な音が聞こえてきた。

「ぐわああああっ!?」

 痛みで野太い声を上げる黒服。手を離してやると、痛そうに手を摩っていた。人間臭い行動にほっこりする。

「何をやっているんだ! 油断するんじゃない!」
「西園寺さんよ。こういうことはあんまり堂々とするもんじゃねえぜ?」
「はあ? 君も少し反撃できたくらいで調子に乗るなよ。オイ、相手はボロボロだ。さっさとやってしまえ!」
「は、はい坊ちゃんっ」

 周りから見れば一方的に殴られていたように見えていただろう。
 正当防衛には充分すぎるほどだ。ここまでやられたら、多少の過剰防衛は許されるだろう。
 黒服が迫る。パンチ一つを美しいフォームで放ってくる。長年格闘技をやっていて、確かに強いのだろう。

「どりゃあっ!」
「ぐほっ!?」

 カウンターの腹パンで黒服は沈んだ。顔はやめておいてやった。サングラスが可哀そうだからな。
 黒服は悶絶して動かない。一発で立てなくなってしまったようだ。これは黒服の腹が弱かったのではない。郷田晃生が強すぎたのだ。

「は……え? ど、どうしたんだ? なぜ立たない……?」

 西園寺は状況を飲み込めていないようだった。そんな奴に向かって、ゆっくりと歩み寄る。
 足を進めながら周囲を警戒する。気配は感じない。どうやら黒服は今倒した一人だけだったようだ。

「な、なんで!? あんなに殴られて……ボロボロだったはずじゃないか!!」
「そうだなー。たくさん殴られたからなー。これは治療費を出してもらわないといけないなー」

 棒読みのような言葉を口にしながら西園寺に近づく。奴は脚を震わせながら後退る。
 黒服の攻撃のダメージはほとんどない。郷田晃生の格闘センスがパンチの威力を殺していたからだ。某ボクシング漫画で読んだ首ひねりでダメージを殺すってやつ、本当にできるもんなんだな。
 ちなみに、郷田晃生に格闘技経験はまったくない。あるとすればケンカの経験だけだ。まさに才能の無駄遣いである。

「どうなんだ西園寺さんよ? 高校生に暴力を振るった責任、取ってくれるんだろうな?」
「ヒイイイイィィィィィィーーッ!!」

 西園寺は腰が抜けたのか尻もちをついてしまった。オイオイ、そんなにビビるなよ。ちょっと顔を近づけて凄んでみただけじゃないか。

「晃生ーーっ!!」
「お?」

 羽彩が涙ながらに抱きついてきた。それから全身を触られる。

「大丈夫なの? 殴られたところは痛くないの? は、早く治療しないと……晃生~」
「俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

 羽彩の頭をポンポンと撫でる。すると本格的に泣かれてしまった。いや、まだ西園寺との話は終わってないんですけどね?

「エリカさんっ!」

 俺が羽彩をよしよしして慰めていると、西園寺が大声を出す。奴はさっきまでの怯えた表情を引っ込めて、希望の光を見つけたと言わんばかりに手を伸ばしていた。

「タケルさん。大変なことをしてしまいましたね」

 振り返れば、隠れていたはずのエリカが姿を現していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

処理中です...