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26.ここはエロ漫画の世界だった

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「今更悪ぶって突き放そうとしても無駄よ。そういう女性、どうせ小山さんだけではないんでしょう?」

 白鳥は真っ直ぐな瞳を俺に向けていた。嘘や誤魔化しは許さないといった態度に、自然と俺の背筋が伸びる。
 エリカの肩を抱いたまま考える。白鳥はそんなことを聞いてどうするつもりなんだ? その後の展開がまったく読めなかった。
 氷室はおろおろしていて口を挟む様子ではない。白鳥の気持ちだけが、この場を支配していた。

「だったらどうした? 男そのものに幻滅でもしたか? まあ人間星の数ほどいるんだ。俺みたいなクズ野郎は男の中でもレアだろうよ」
「あぁん♪」

 見せつけるようにエリカの大きな胸を揉んだ。あまり力は入れていなかったが、エリカも状況を察しているのか、甘い声を白鳥達に聞こえるように上げる。
 ここまで来たら引くことはできない。不潔だと罵るのならそれでも良い。どうせ、こんな俺の一面を隠したまま友達をやっていくなんてできないだろうからな。
 そして今度は俺の愚痴を言い合うのだ。そうしているうちに白鳥と氷室なら仲良くやっていけるだろう。
 せっかく仲良くなってきた関係は壊れるが、いつかはそうなる運命だった。エロ漫画の流れではなく、正常な高校生活に戻るのだ。青春ラブコメをする分には、遠くから応援しておいてやる。

「そういうところが、郷田くんの優しい部分よ」
「あん?」

 なぜか微笑む白鳥。ピンク髪だが清楚系ヒロインは伊達ではなく、なんとも男をときめかせる笑みだった。

「小山さん……いいえ、エリカさん」
「何かな?」
「少し、どいてもらっても良いですか?」
「うん。良いよ」

 エリカはあっさりと俺から離れた。急に温もりを失って呆然としてしまう。

「は?」

 俺がぽかんとしている間に白鳥が正面から抱きついてきた。反射的に受け止めてしまう。

「ほら、抱きしめ返してくれるわ」
「し、白鳥っ!? お前どういうつもりなんだよ?」

 俺を軽蔑したんじゃないのか? そう問いただしたかったが、それはできなかった。
 なぜなら、白鳥が俺にキスをしたからだ。

「っ!?」

 唇に伝わる甘い感触……。柔らかくて、潤いがあって、とにかく甘かった。

「ん……ふっ……」

 白鳥の鼻息でさえ甘く感じる。匂いも、味も、感触も。彼女のすべてが俺の脳を溶かそうとする。離れなければと頭では考えるのに、身体が動いてくれなかった。

「ふぅ……。郷田く……ううん、晃生くん。私はあなたのことが好きよ」

 顔を離した白鳥は、俺に告白をした。
 泣いていた時とは別の光が目をきらめかせていた。白鳥の瞳が綺麗で、身体を硬直させたまま見惚れてしまう。

「別に、今すぐ彼女にしてほしいだなんて言うつもりはないわ。エリカさんを始め、きっとたくさんの女性と関係を持っているんでしょうし。ただ、私もその一人にしてほしいの」
「な、何を言って──」
「私は本気よ。少しでもあなたの傍にいたい。今考えられるのはそれだけだもの」

 恋は盲目だなんて、よく言ったものだ。
 まさに今の白鳥は恋愛しか見ていないのだろう。人生はそれだけじゃないってことを教えてやらないといけないのかもしれない。たとえ若者にウザがられるオヤジ扱いされようとも。

「晃生くん? ここでカッコつける意味はないと思うよ?」

 横から言葉が入ってくる。エリカが耳元で俺に囁いていた。

「身体の関係があったって、そのことで一生涯の責任を負う必要はないでしょう? 大事なのは当事者の意思だけだよ。交わらないとわからないこともあるからね」
「でも、それで白鳥が傷ついたら……」
「バカね。私が良いって言っているのだから、後悔なんてするわけないわよ」

 白鳥は優しく微笑む。そして、再び俺と唇を重ねた。

「覚悟くらい決めてきたわ。だから私はここにいるのよ。……甘く見ないで」
「白鳥……」

 そこまで言われてしまうと、もう何も言えなかった。
 ここまでされて引き下がるほど、俺も大人ではない。いや、むしろここで引き下がってしまえば男ではないだろう。

「んむっ」

 白鳥の唇を貪る。さっきまでの甘いばかりのキスじゃない。彼女を求めて、奪うような荒々しい行為だった。

「で、氷室ちゃんだっけ。あなたはどうするの?」
「うぇっ!? ア、アタシ?」

 ずっとあわあわしながら俺たちを見守っていた氷室だったが、エリカに水を向けられて慌てていた。

「ん……はぁ……。私は氷室さんの気持ちを否定しないわよ。恋人ではないから浮気だと責めるつもりもないし」
「う……うぅ~~」
「何もないなら出て行ってね? 私と白鳥ちゃんはこれから晃生くんに可愛がってもらうんだから」

 エリカの笑顔の圧に抗うように、氷室はガオーッ! と吼えるみたいに顔を上げて叫んだ。

「アタシも晃生が好き!!」

 氷室の叫びは、俺への告白だった。
 涙目で見つめられる。ギャルというより子犬みたいで、愛くるしい感情が込み上げてくる。

「白鳥さん、そこどいてよ!」
「わかったわ」

 白鳥は素直に俺から離れた。代わりに氷室が俺の前にズンズンとやってくる。

「あ、晃生……」
「お、おう」

 顔が触れそうな距離。そこまで勢い良く来たくせに、氷室がいきなりしおらしくなるものだから逆にドキドキさせられてしまった。

「アタシも、大体白鳥さんと同じ……。だからっ、その……」

 氷室はこれでもかと顔を真っ赤にさせて、うんと溜めてから言った。

「……チューして?」

 氷室が目を閉じて唇を突き出してくる。慣れてないって感じのキス待ち顔だった。

「くっ……」

 このバカ氷室っ。滅茶苦茶可愛いじゃねえか! どんだけ俺を最低野郎にしたいってんだよ。

「ちゃんと、覚悟して言ってんだな?」
「う、うんっ」

 氷室は小さく、でもはっきりと頷いた。それほどの気持ちで俺に自分を差し出している。
 女にそこまでされて、止まる理由を見つける方が無理だった。

「ん~~……」

 氷室と唇を重ねる。白鳥と違って硬く緊張しているのが伝わってくる。
 だがそれが良い。ゆっくりと氷室を味わい、解きほぐしていく。

「ふあぁ……」

 時間をかけてやれば緊張もどこかへと消えていく。氷室は目をとろんとさせて、俺を求めていた。

「ぷはっ」
「あ……」

 唇を離すと、氷室の舌が名残惜しいとばかりに伸ばされていた。また後で可愛がってやる。その意味を込めて金髪の頭を撫でてやれば、彼女の表情が緩んだ。

「じゃあ晃生くん、そろそろしよっか♪」

 エリカは自ら服をはだけて胸の谷間を見せつけていた。そんな彼女の姿を目にした経験のない二人は、これから始まるであろう行為に期待してか、瞳に情欲の炎を灯していた。

「……っ」

 三人の美少女が俺に迫っている。こんなのエロ漫画でもなければあり得ない状況だ。……そう、ここはエロ漫画の世界だった。
 この世界で生きていく。本当にその覚悟を決めなければならなかったのは、俺の方だったのかもしれなかった。
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