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24.ギャルと優等生は仲が良いのか悪いのか

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 広くもないアパートの一室。俺の部屋で二人の美少女が甘い匂いを充満させていた。

「マジ? 野坂くんってもうちょっとまともな男子だと思ってたんだけどなー。人は見かけによらないね」
「ひどいって思うでしょ! 幼馴染だから付き合いが長いけれど、今日ほど幻滅したことはなかったわ!」

 パクパクパクパク。氷室と白鳥がケーキを食べながらおしゃべりに花を咲かせていた。ていうか白鳥は怒るか食べるかどっちかにしろよな。
 白鳥の愚痴に氷室がうんうんと相槌を打つ。女子は愚痴で仲を深めることがあるらしい。

「晃生ー? ケーキ食べてないじゃん。やっぱり苺のショートケーキが良かった?」
「自分で食べられないなら、私が食べさせてあげるわ。はい、あーん♪」
「ちょっ! それならアタシがするし!」

 白鳥が食べていたチョコケーキを差し出してくる。氷室も負けじと食べていたショートケーキをフォークですくった。

「……」

 俺はギャルと優等生を眺めながら思った。俺の家を溜まり場にするんじゃねえっ! と。

 どうしてこうなったのか。話は少しだけ遡る。
 幼馴染の言動を目撃して傷ついた白鳥。悲しみに暮れる彼女から「家に行っても良い?」と尋ねられて、それはもう断りづらかった。
 最初は険しい顔をした氷室だったが、白鳥があまりにも泣きそうな顔をするものだから心配になったようだ。「どしたん? 話聞こうか?」と声をかけた。

「ここじゃ、話しづらいことなの……」

 ここで氷室の女の勘ってやつが働いたのだろう。「晃生ー……」と俺を見つめてきた。
 なんとかしてやってくれ。そんな気持ちが伝わってきて、俺も事情を知っているだけにこのまま白鳥を放置するのは心苦しかった。

「良いじゃん晃生。アタシら晃生が泣いている女の子を襲ったりしないってわかってるから。話くらい、聞いてあげよ?」

 なんという全幅の信頼を寄せられたものか。郷田晃生の意識が完全になくなっているのなら俺も賛成したところだが、絶対に危険ではないと言えないことを俺自身が一番よくわかっていた。
 だからって白鳥をこのまま放っておいて、また最初の頃みたいに夜の街に出ないとも言い切れない。割と自暴自棄になる女だからな。事件にでも巻き込まれたら悔やんでも悔やみきれない。

「わかった。少しゆっくりしていれば落ち着くだろうよ」

 結局、俺は首を縦に振った。泣く子に勝てるわけがなかったのだ。
 家に客人をおもてなしできるものは何もないので、帰り道にケーキと飲み物を買った。ケーキを選んでいる時から白鳥の機嫌が持ち直してきたように見えた。俺のおごりというのもあってか明らかにウキウキしていた。
 やはり女といえば甘い物。計画通り、と笑っていたら危うく店から追い出されそうになった。凶悪顔でごめんね。
 そして、俺の家に到着した白鳥と氷室は、ケーキを食べながら野坂の話をしていたわけだ。
 俺はといえば、それをぼんやり眺めていた。女子の会話って盛り上がると口を挟みづらいテンポ感になるよね。それって俺だけか?

「まあ友達間での空気ってやつがあるからな。野坂もそれで引っ込みがつかなくなったんだろうよ」

 二人の「あーん♪」を受け取ってから、俺は野坂に対する感想を漏らした。

「それ、純平くんを許していい理由になるのかしら?」
「言って良いことと悪いことがあるでしょうよ。それとも何? 晃生は野坂の味方なわけ?」

 笑顔の白鳥と激おこ状態の氷室に迫られて、俺は慌てて首を横に振った。氷室なんか「くん」付けじゃなくなってるし。それだけ怒っているということなのだろう。

「そ、そうじゃないぞ。一番悪いのは野坂だ。うん、あれはいけないよな、うん」

 俺は全力で二人に同調した。これは我が身可愛さからの結論ではないぞ、うん。
 野坂純平は原作主人公だ。彼女を寝取られる可哀そうな立場だ。彼が被害者だという情報から、悪い奴ではないと勝手に思い込んでいた。
 元の世界の俺は、どちらかといえば野坂寄りの男だった。だからまあ、原作を読んでいる時は寝取られる側と寝取り側の両方の目線で楽しんでいた。
 言いたいことは俺が特殊性癖……ではなく、野坂に対して悪印象を抱いてこなかったってことだ。
 郷田晃生に対して警戒するのは当たり前だ。俺だって逆の立場ならそうするだろう。だから、俺に対する態度は別に良いんだ。
 けれど、自分の幼馴染、それも元カノで大切な人だと言い切った相手にしてはならないことをした。

「幼馴染だからって何をしても良いわけじゃない。あんな風に話のネタにして……コケにしやがってっ。一体何考えてんだよ……!」

 怒りが込み上げてきて力が入る。気づけば握っていたフォークがぐにゃりと曲がっていた。

「あ、やべっ」

 フォークを一本ダメにしてしまった。頭をがしがしとかいて怒りを抑える。

「郷田くん……。ありがとう。私のために怒ってくれて」

 白鳥が声を震わせる。楽しくおしゃべりしていたように見えて、やはりまだ引きずっていたようだ。

「晃生って本当に変わったよねー。前は乱暴者って感じだったのに、今は女の味方してくれるんだもん」
「別に女の気持ちがわかるってわけじゃないぞ」
「でも、わかろうとしてくれるわ。そんな郷田くんだから私……」

 白鳥が俺にしなだれかかってくる。長いピンク髪がサラサラと俺に向かって流れる。
 なんでいきなり密着してくんの? なんで意味ありげな視線を送ってくんの? あっ、ちょっ、そこは触っちゃダメ……っ。

「ちょ、ちょっと待ったぁーーっ!! アタシもいるんですけど!? ア・タ・シ・も! この場にいるんですけど!!」

 パニックになりかけた俺を、氷室の大声が引き戻してくれた。
 だがしかし、白鳥は止まらない。むしろ挑戦的な目を氷室に向けていた。

「わかっているわ。……宣戦布告をしているつもりなのだけれど?」
「んなっ!?」

 白鳥が不敵に笑う。対する氷室はわなわなと震えていた。
 ちょっ、この流れはまずいぞ。なんとか流れを引き寄せようと口を開く。

「お前ら何言って──」

 言い終わる前に、氷室が俺の頭を抱きしめた。巨乳の圧迫感に自然と鼻の下が伸びる。

「……上等じゃん。アタシ、負けないから」
「ええ、望むところよ」

 さっきまで和気藹々としていた女子二人は、火花を散らせて戦闘モードに移行していた。女子の変化に俺ついて行けないよ……。
 この修羅場をどうしてくれようか。ていうか氷室の胸柔らかいなぁ。白鳥も意図してなのか胸を当ててくるし……。あっ、やばい。また下半身に熱が……っ。このままでは郷田晃生の郷田晃生くんが暴れん坊になってしまうっ!
 人知れずピンチに陥っていた俺の耳に、ガチャっと玄関が開く音が聞こえた。

「あれ? 今日は可愛い女の子を二人も連れ込んでいたんだね」

「ねえ晃生くん?」と小首をかしげながら部屋に入ってきたのは、美人女子大生のエリカだった。
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