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1.どうも、最低の寝取り野郎です

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「朝目が覚めたら、主人公からヒロインを寝取る男になっていた件……」

 寝起きから突拍子もないことを呟いた。
 別に長文タイトルを読み上げたわけじゃない。言葉通り、俺の現在の状況を口にしただけだ。
 洗面台の鏡に映るのは、俺じゃない見知らぬ人物……。いや、よく見たことのある男だった。
 郷田ごうだ晃生あきお。最近読んでいた漫画の登場人物である。

「こうやって実際に見たら、悪役面にもほどがあるなぁ」

 凶悪な面に、染めた赤髪が逆立っている。筋肉質で大柄な体躯は威圧感たっぷりであろう。
 外見だけで不良と認識されても文句は言えないだろう。これで捨て犬を助けていたら絶対にギャップが生まれるはずだ。
 一応、一人の男として股間をチェックしてみた。あまりの威厳に腰を抜かしそうになった。こんなもん目にしたら、大半の男は戦意喪失してしまうのではなかろうか。
 いきなり俺が奇行に走ったかと思われるかもしれないが、これには深いワケがあるのだ。

「さすがはエロ漫画の竿役。立派すぎるものをお持ちじゃないか」

 そう、この身体の持ち主である郷田晃生はエロ漫画の竿役なのである。しかも主人公からヒロインを寝取るという最低最悪の男だ。
 普通なら夢とでも思って頬でも引っ張る場面なんだろう。しかし、あっさりと現実として受け入れている自分がいた。
 むしろこの世界が漫画の中の世界という方がしっくりこないほどだ。前世の記憶と人格が表に出たものの、常識は郷田晃生のものが強く残っていた。

「だからって、人の恋人を奪っちゃいけねえよ」

 作中での郷田晃生の倫理観は、控え目に言ってトチ狂っていた。
 俺の女は俺のもの。お前の女も俺のもの。と言わんばかりに見境なく手を出しまくっていた。下半身で生きるってのを実行したら、こんな感じになるんだろうなと妙に納得したものである。
 でも、これが現実であれば大人しく納得している場合じゃない。
 フィクションだから楽しめたのであって、現実で寝取り野郎になる趣味はない。ていうか、そんなことをすればお天道様の下で生きていられなくなる。NTR、ダメ絶対。
 作中ではご都合主義全開で、郷田晃生に手を出されたヒロインはあっさりと快楽に溺れてしまう。読者の立場なら安心してお世話になったものだが、当人になったとなれば話が違ってくる。
 仮に竿役の本領を発揮できたとしても、一時の快楽で人の人生を狂わせる気には到底なれなかった。

「まあ、悪いけど晃生くんには寝取り展開を諦めてもらおう」

 俺が悪役寝取り野郎になってしまった以上、ハッピーエンドになるためには「何もしない」が最善だろう。
 何もしなければヒロインが寝取られることはない。主人公とヒロインが精神崩壊することもなくなる。リアルでそんなことになったら責任取れないって。

「今までの分は仕方ないとして、これからはまっとうに生きようじゃないか。スペック自体は高そうだしな。悪いことさえしなけりゃどうとでもなるだろ」

 記憶によれば、郷田晃生は現在高校二年生。竿役として、すでにかなりの戦歴を誇っていた。
 けれど幸か不幸か。人の女を寝取ったという記憶はまだない。確か主人公の恋人を寝取ったことで味を占めてしまったのだったか。
 だったら、今前世の記憶が蘇ったのは良いタイミングだ。ヒロインと距離を置く。たったそれだけの対策で済む話なんだからな。

「若くて強い身体を手に入れただけと考えれば最高じゃないか。相手は悪人なんだし、俺の心が痛まないってのもいい」

 元の人格が現れる様子はない。俺が憑依した結果、消滅させてしまったのなら良心が痛むところだ。だがしかし、相手が悪人ならばむしろ良いことをした気分になる。
 郷田晃生は見た目通り高い身体能力を持っている。それが俺の身体になった。前世の貧弱さを考えれば、これは転生特典みたいなものじゃないか。

「おおっ。最初はこんなキャラに転生してどうしようって思ったけど、上手くやれば失った青春を取り戻せるぞ!」

 考えれば考えるほどテンション上がってきた! これからは綺麗な郷田晃生として生きていこうじゃないか。
 そうすれば、俺にだってハッピーエンドが訪れるはずだ。前世では面白みのない高校生活だったが、このチートボディがあれば楽しく過ごせそうだ。
 いいねぇ、明るい未来が俺を待っている!
 転生した戸惑いはもうどこにもなくて、俺はただただ明るい未来を見つめていたのであった。


  ◇ ◇ ◇


 ──そんなことを思っている時期が、俺にもありました。

「ご、郷田くん……」

 目の前にはピンク髪の美少女がいる。漫画の世界だけあって、髪がピンク色でも違和感がなかった。むしろすごく似合っている。
 そのピンク色のロングヘアーがしっとりと濡れている。ついでに言えば、彼女はバスローブ一枚しか身につけていなかった。そんなもんでその豊満なスタイルを隠し切れるはずもなく、男の欲望を刺激するばかりの格好でしかなかった。
 場所はラブホテル。俺とピンク髪美少女の二人きりという状況。
 その美少女さんが、髪をかき上げながら俺に流し目を送ってくる。

「え、えっと郷田くん……早速、だけど……す、する?」

 彼女が頬を染めて、恥じらいながら紡いだ言葉。状況を考えれば、意味を間違えることはなかった。
 俺は、寝取らないと決めていたメインヒロイン、白鳥しらとり日葵ひまりに誘惑されてしまったのだ。
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