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第一部
54.俺達のいじめ対策委員会(仮)
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あれから、俺達は品川ちゃんが泣き止むまで彼女の傍にいた。
品川ちゃんはつっかえながらもいじめられていることを教えてくれた。時折思い出してしまうのかまた泣いてしまい、葵ちゃんと瞳子ちゃんに抱きしめられていた。
それから彼女を家に送り届け、歯がゆい思いを抱えながら俺達は帰路に就いたのだった。
「もうっ! 何なのあれ! 何なのよ!!」
そして現在俺達は瞳子ちゃんの部屋にいる。葵ちゃんがついに堪え切れずといった感じでテーブルをべしべしと叩く。
葵ちゃんはぷんすかー! という怒り方をしていた。さっきのいじめっ子達を追い払った時(大人を呼んだというのは嘘だった)のような平坦な声じゃない。それに安心している俺がいた。だってちょっと怖かったんだもん。
「わかってるわよ葵。あたしだって許せないんだから」
瞳子ちゃんの目が怒りに燃えていた。声は落ち着こうとしているのか抑え気味ではあるが、吊り上がった目からは憤りを隠せてはいない。
「俺も許せないし、品川ちゃんのことは何とかしたい。……二人には協力をお願いしてもいいかな?」
「そんなの当たり前だよ!」
「むしろ俊成一人で何とかしようとしてたら怒ってたところよ」
葵ちゃんと瞳子ちゃんは力強く頷いてくれた。
二人はそれぞれにいじめられた経験がある。だからこそ今回のことは許せないのだろう。
瞳子ちゃんはやられたらやり返す性格なので、からかわれたりちょっかいをかけられたりしたら問答無用で張り倒していた。彼女は自分の力でいじめをなくしていったタイプだ。
対して葵ちゃんはいじめられる度に俺と瞳子ちゃんで守ってきた。抵抗できないという部分では今回の品川ちゃんと同じなのかもしれないが、葵ちゃんをいじめる子達は彼女の気を惹こうとしているだけだったというところで大きく違っている。今では当時のいじめっ子を含めてたくさんの男子が葵ちゃんのお願い事(?)を聞いてくれるようになっている。
どちらも解決できている問題ではあるが、今回の品川ちゃんのいじめはちょっと毛色が違う。
珍しい容姿をからかわれた瞳子ちゃんと、かわいい子だからといじめられた葵ちゃん。この二人をいじめていた子には悪意がなかったし、言えばやめてくれる程度だった。
しかし、品川ちゃんをいじめていた奴等には完全に悪意があった。それに俺を睨みつけたあの森田って男子には口でわかってくれるような、そんな相手には思えなかったのだ。
ならどうするか? 考えていると葵ちゃんが挙手をした。
「私は先生に言った方がいいと思うんだけど」
「でも、あの子……親に知られたくないって言ってたじゃない」
「あっ……そっか。じゃあ秘密にしなきゃだね」
瞳子ちゃんの言う通り、品川ちゃんは俺達に「親には知られたくないです……」と言ったのだ。泣き顔を取り繕って家へと入って行く姿を思い出すと胸が締め付けられる。
「いや、先生には報告した方がいいと思う。できるだけ大人を巻き込むんだ」
俺の言葉に葵ちゃんと瞳子ちゃんは驚いた表情を見せる。
「ちょっと俊成。あの子が言ってたこと聞いてたでしょっ」
「聞いたよ。ちゃんと全部聞いた。だからこそ先生を巻き込むし、もっと大ごとにすべきだと思う」
おそらくこれが全部ではないのだろうが、品川ちゃんが嗚咽を漏らしながらもいじめられていることを教えてくれたのだ。
品川ちゃんは元々超がつくほどの恥ずかしがり屋というのもあり、クラスメートからからかわれること自体は多かったらしい。それでもまだ本人が言うには実害まではなかったそうだ。
だが、四年生になってあの森田を含めた悪ガキ集団と同じクラスになってしまった。クラスメートになってしまってから目をつけられてしまったようだ。
俺達が目撃したのはただの一端でしかなかった。他にも上履きを隠されたり、机に黒板消しの粉をかけられていたり、筆記用具や教科書などをゴミ箱に捨てられていたりなどのいじめを受けていた。それを品川ちゃんの口から聞かされた時は思わず絶句してしまった。
俺は品川ちゃんとは仲間班での関わりしかない。去年よりも俺としゃべってくれるようになっていたからと、学校が楽しくなっているんだなんてそんな能天気な考えだったのだ。
なんで気づいてやれなかったのだろうか。もうGWを過ぎている。新しいクラスになってから一か月以上経っているというのに……。どれほどのつらい体験をしたのか想像なんてできないだろう。
俺の前世でもいじめはあった。いじめられている誰かを見ては自分はそうならないようにと振る舞ってきた。助けもせずに見て見ぬフリだ。俺は小さい人間だったのだ。
でも、大人になるといじめは命に係わる問題なのだと知った。いじめられるのは弱いからなんだ。いじめられるのはその子にも問題がある。そんな言葉は最低なものだ。どんな理由があってもいじめる側が一〇〇%悪いに決まっている!
いじめは犯罪のようなものではない。犯罪そのものなのだ。それを何とかするために助けを乞うことは当然であり、決して恥ずかしいことなんかじゃない。
「品川ちゃんも勘違いしてるよ。いじめは悪いことだなんて生易しいものじゃないんだ。いじめは悪だ。犯罪と変わらないんだ。普通だったら犯罪に巻き込まれたら警察に助けを求めるだろ。だから、いじめられたら誰かに助けを求めることは当たり前なんだよ。助けられるのが普通じゃないか……っ」
「トシくん……」
「俊成……」
知らず握り込んでいた俺の拳が二人の両手に包まれる。はっとして自分が必要以上に熱くなっていたことに気づかされる。
「と、とにかくっ。品川ちゃんのためにできることを話し合ってみようか」
冷静さを取り戻すためにも話を先に進めることにした。クールになれ高木俊成。
「トシくんは先生に言ってもいいって言ってたから、まずは先生に言うの?」
「いや、先生への報告はタイミングを考えた方がいいだろうね。先生任せにして簡単な注意だけだったらいじめは終わらないし、下手をしたら余計にひどいことになると思う」
大人の協力は不可欠だとは思う。だけどそれだけに頼っているのは逆に危険だろう。
「品川ちゃんの話からしてこれだけのいじめをしておいて担任にまったく気づかれないってのはあり得ないと思うんだよ」
「それって、先生が見て見ぬフリをしてるってこと?」
瞳子ちゃんの眉がピクリと動いた。俺は「あくまで想像だけど」と前置きをしてから続ける。
「担任の先生はいじめ現場を見ていないのかもしれない。でも話通りのいじめなら事実をまったく確認できないってことはないはずだ。それで動いているのかはわからないけど、品川ちゃんへのいじめは続いてるんだ。他の先生にも動いてもらわないとどうにもならないよ」
少なくともこんないじめが行われているのに大きな動きを見せないようでは頼ろうだなんて思えない。先生への報告にしても、品川ちゃんのクラスの担任の他に別の先生の協力が必要だ。
「先生への報告にしても誰に報告するか。先生選びもあるからそれは後で考えよう。まずは品川ちゃんを守るところからだ」
最終目標はいじめを止めること。だけどすぐにできることでもない。まずしなきゃいけないのは品川ちゃんの安全の確保だ。
「あの子を守るのは賛成ね。学校から家に帰るまでならあたし達がついてあげられるわ。他に誰かがいれば簡単に手を出そうだなんて思わないでしょ」
「そうだよね。お昼休みだっていっしょにいられるんじゃないかな? 学校の中でもいっしょにいてあげたらいいと思うな」
瞳子ちゃんと葵ちゃんがぽんぽんと案を出してくれる。二人からすれば出会ったばかりの女の子なのに、こうやって真剣に考えてくれて嬉しくなる。
「学校の中でもいっしょにいてあげたいけど、問題は短い休み時間だよね」
そう言うと葵ちゃんと瞳子ちゃんがうーんと唸り始める。
短い休み時間とは、授業と授業までの間の休み時間である。基本的に次の授業の用意やトイレを済ませておく時間なのでとても短いのだ。俺達五年生と品川ちゃんのいる四年生の教室は校舎が違う。この距離を短い時間で行き帰りするのは難しいのだ。
「四年生の子で秋葉ちゃんと仲良くしてくれる子はいないのかな?」
葵ちゃんがぽつりと呟くような音量で言った。ちなみに秋葉ちゃんというのは品川ちゃんの下の名前である。
「正直、品川ちゃんの話だけだとクラスでどの程度の人がいじめをしてるのかはわからなかったんだよな。まああの男子達が中心になってるのは間違いないんだろうけど」
「そうね。ああいう声ばっかりが大きい男子がいじめてると、周りの人だって話したくても話せないでしょうね」
悪循環での孤立。品川ちゃんのクラスメートは手を出せない空気になってるんだろうな。
「それでも仲間を集めてみようよ。……とは言っても、俺の四年生の知り合いって登校の班と仲間班とクラブでの人しかいないんだけどね」
「あたしも似たようなものよ……」
瞳子ちゃんが同調してくれた。俺達は揃ってはぁとため息を吐く。友達百人はできていないのです……。
「私もそんなに知ってる子がいるわけじゃないんだけど、ちょっとお願いしてみるね」
葵ちゃんはにぱーと笑う。なんだかそのお願いって、ちょっとどころではない武器になっているのは気のせいだろうか?
「それに私達だけじゃなくて真奈美ちゃんや赤城さんにも協力してもらおうよ。男子だって佐藤くんや本郷くんだっているしさ」
「そんなにたくさんの人に相談したら、あの子がいじめられてるってたくさんの人に知られることになっちゃうわよ?」
瞳子ちゃんの懸念に、葵ちゃんは笑顔で返す。
「何言ってるの瞳子ちゃん。トシくんだって言ってたじゃない。大ごとにするってさ。だからみんなに助けてって言うんだよ」
葵ちゃんは胸を張った。たくさんの人を巻き込んででも、品川ちゃんを助けようという意思がそこにはあった。
……葵ちゃんも強くなった。彼女のように品川ちゃんも強い子へと成長できるかもしれない。ただ、それはいじめられながら成長できるものではないのだ。
いじめは子供の成長の阻害でしかない。それはいじめる側だってそうだ。曲がった方へと行くだけで、成長とは程遠く停滞ですらない。それは枝葉が伸びているのではなくしおれている。いや、腐っているだけなのだ。
「そうだね、みんなに相談しよう。とくに小川さんや本郷あたりは交友範囲も広そうだし、四年生の友達もいるかもしれないしね」
こうして品川ちゃんをいじめから助けるための方向性が決まった。その後も俺達は具体的にどうするかなどと話し合ったのだった。
さあ、早速明日から行動開始だ!
品川ちゃんはつっかえながらもいじめられていることを教えてくれた。時折思い出してしまうのかまた泣いてしまい、葵ちゃんと瞳子ちゃんに抱きしめられていた。
それから彼女を家に送り届け、歯がゆい思いを抱えながら俺達は帰路に就いたのだった。
「もうっ! 何なのあれ! 何なのよ!!」
そして現在俺達は瞳子ちゃんの部屋にいる。葵ちゃんがついに堪え切れずといった感じでテーブルをべしべしと叩く。
葵ちゃんはぷんすかー! という怒り方をしていた。さっきのいじめっ子達を追い払った時(大人を呼んだというのは嘘だった)のような平坦な声じゃない。それに安心している俺がいた。だってちょっと怖かったんだもん。
「わかってるわよ葵。あたしだって許せないんだから」
瞳子ちゃんの目が怒りに燃えていた。声は落ち着こうとしているのか抑え気味ではあるが、吊り上がった目からは憤りを隠せてはいない。
「俺も許せないし、品川ちゃんのことは何とかしたい。……二人には協力をお願いしてもいいかな?」
「そんなの当たり前だよ!」
「むしろ俊成一人で何とかしようとしてたら怒ってたところよ」
葵ちゃんと瞳子ちゃんは力強く頷いてくれた。
二人はそれぞれにいじめられた経験がある。だからこそ今回のことは許せないのだろう。
瞳子ちゃんはやられたらやり返す性格なので、からかわれたりちょっかいをかけられたりしたら問答無用で張り倒していた。彼女は自分の力でいじめをなくしていったタイプだ。
対して葵ちゃんはいじめられる度に俺と瞳子ちゃんで守ってきた。抵抗できないという部分では今回の品川ちゃんと同じなのかもしれないが、葵ちゃんをいじめる子達は彼女の気を惹こうとしているだけだったというところで大きく違っている。今では当時のいじめっ子を含めてたくさんの男子が葵ちゃんのお願い事(?)を聞いてくれるようになっている。
どちらも解決できている問題ではあるが、今回の品川ちゃんのいじめはちょっと毛色が違う。
珍しい容姿をからかわれた瞳子ちゃんと、かわいい子だからといじめられた葵ちゃん。この二人をいじめていた子には悪意がなかったし、言えばやめてくれる程度だった。
しかし、品川ちゃんをいじめていた奴等には完全に悪意があった。それに俺を睨みつけたあの森田って男子には口でわかってくれるような、そんな相手には思えなかったのだ。
ならどうするか? 考えていると葵ちゃんが挙手をした。
「私は先生に言った方がいいと思うんだけど」
「でも、あの子……親に知られたくないって言ってたじゃない」
「あっ……そっか。じゃあ秘密にしなきゃだね」
瞳子ちゃんの言う通り、品川ちゃんは俺達に「親には知られたくないです……」と言ったのだ。泣き顔を取り繕って家へと入って行く姿を思い出すと胸が締め付けられる。
「いや、先生には報告した方がいいと思う。できるだけ大人を巻き込むんだ」
俺の言葉に葵ちゃんと瞳子ちゃんは驚いた表情を見せる。
「ちょっと俊成。あの子が言ってたこと聞いてたでしょっ」
「聞いたよ。ちゃんと全部聞いた。だからこそ先生を巻き込むし、もっと大ごとにすべきだと思う」
おそらくこれが全部ではないのだろうが、品川ちゃんが嗚咽を漏らしながらもいじめられていることを教えてくれたのだ。
品川ちゃんは元々超がつくほどの恥ずかしがり屋というのもあり、クラスメートからからかわれること自体は多かったらしい。それでもまだ本人が言うには実害まではなかったそうだ。
だが、四年生になってあの森田を含めた悪ガキ集団と同じクラスになってしまった。クラスメートになってしまってから目をつけられてしまったようだ。
俺達が目撃したのはただの一端でしかなかった。他にも上履きを隠されたり、机に黒板消しの粉をかけられていたり、筆記用具や教科書などをゴミ箱に捨てられていたりなどのいじめを受けていた。それを品川ちゃんの口から聞かされた時は思わず絶句してしまった。
俺は品川ちゃんとは仲間班での関わりしかない。去年よりも俺としゃべってくれるようになっていたからと、学校が楽しくなっているんだなんてそんな能天気な考えだったのだ。
なんで気づいてやれなかったのだろうか。もうGWを過ぎている。新しいクラスになってから一か月以上経っているというのに……。どれほどのつらい体験をしたのか想像なんてできないだろう。
俺の前世でもいじめはあった。いじめられている誰かを見ては自分はそうならないようにと振る舞ってきた。助けもせずに見て見ぬフリだ。俺は小さい人間だったのだ。
でも、大人になるといじめは命に係わる問題なのだと知った。いじめられるのは弱いからなんだ。いじめられるのはその子にも問題がある。そんな言葉は最低なものだ。どんな理由があってもいじめる側が一〇〇%悪いに決まっている!
いじめは犯罪のようなものではない。犯罪そのものなのだ。それを何とかするために助けを乞うことは当然であり、決して恥ずかしいことなんかじゃない。
「品川ちゃんも勘違いしてるよ。いじめは悪いことだなんて生易しいものじゃないんだ。いじめは悪だ。犯罪と変わらないんだ。普通だったら犯罪に巻き込まれたら警察に助けを求めるだろ。だから、いじめられたら誰かに助けを求めることは当たり前なんだよ。助けられるのが普通じゃないか……っ」
「トシくん……」
「俊成……」
知らず握り込んでいた俺の拳が二人の両手に包まれる。はっとして自分が必要以上に熱くなっていたことに気づかされる。
「と、とにかくっ。品川ちゃんのためにできることを話し合ってみようか」
冷静さを取り戻すためにも話を先に進めることにした。クールになれ高木俊成。
「トシくんは先生に言ってもいいって言ってたから、まずは先生に言うの?」
「いや、先生への報告はタイミングを考えた方がいいだろうね。先生任せにして簡単な注意だけだったらいじめは終わらないし、下手をしたら余計にひどいことになると思う」
大人の協力は不可欠だとは思う。だけどそれだけに頼っているのは逆に危険だろう。
「品川ちゃんの話からしてこれだけのいじめをしておいて担任にまったく気づかれないってのはあり得ないと思うんだよ」
「それって、先生が見て見ぬフリをしてるってこと?」
瞳子ちゃんの眉がピクリと動いた。俺は「あくまで想像だけど」と前置きをしてから続ける。
「担任の先生はいじめ現場を見ていないのかもしれない。でも話通りのいじめなら事実をまったく確認できないってことはないはずだ。それで動いているのかはわからないけど、品川ちゃんへのいじめは続いてるんだ。他の先生にも動いてもらわないとどうにもならないよ」
少なくともこんないじめが行われているのに大きな動きを見せないようでは頼ろうだなんて思えない。先生への報告にしても、品川ちゃんのクラスの担任の他に別の先生の協力が必要だ。
「先生への報告にしても誰に報告するか。先生選びもあるからそれは後で考えよう。まずは品川ちゃんを守るところからだ」
最終目標はいじめを止めること。だけどすぐにできることでもない。まずしなきゃいけないのは品川ちゃんの安全の確保だ。
「あの子を守るのは賛成ね。学校から家に帰るまでならあたし達がついてあげられるわ。他に誰かがいれば簡単に手を出そうだなんて思わないでしょ」
「そうだよね。お昼休みだっていっしょにいられるんじゃないかな? 学校の中でもいっしょにいてあげたらいいと思うな」
瞳子ちゃんと葵ちゃんがぽんぽんと案を出してくれる。二人からすれば出会ったばかりの女の子なのに、こうやって真剣に考えてくれて嬉しくなる。
「学校の中でもいっしょにいてあげたいけど、問題は短い休み時間だよね」
そう言うと葵ちゃんと瞳子ちゃんがうーんと唸り始める。
短い休み時間とは、授業と授業までの間の休み時間である。基本的に次の授業の用意やトイレを済ませておく時間なのでとても短いのだ。俺達五年生と品川ちゃんのいる四年生の教室は校舎が違う。この距離を短い時間で行き帰りするのは難しいのだ。
「四年生の子で秋葉ちゃんと仲良くしてくれる子はいないのかな?」
葵ちゃんがぽつりと呟くような音量で言った。ちなみに秋葉ちゃんというのは品川ちゃんの下の名前である。
「正直、品川ちゃんの話だけだとクラスでどの程度の人がいじめをしてるのかはわからなかったんだよな。まああの男子達が中心になってるのは間違いないんだろうけど」
「そうね。ああいう声ばっかりが大きい男子がいじめてると、周りの人だって話したくても話せないでしょうね」
悪循環での孤立。品川ちゃんのクラスメートは手を出せない空気になってるんだろうな。
「それでも仲間を集めてみようよ。……とは言っても、俺の四年生の知り合いって登校の班と仲間班とクラブでの人しかいないんだけどね」
「あたしも似たようなものよ……」
瞳子ちゃんが同調してくれた。俺達は揃ってはぁとため息を吐く。友達百人はできていないのです……。
「私もそんなに知ってる子がいるわけじゃないんだけど、ちょっとお願いしてみるね」
葵ちゃんはにぱーと笑う。なんだかそのお願いって、ちょっとどころではない武器になっているのは気のせいだろうか?
「それに私達だけじゃなくて真奈美ちゃんや赤城さんにも協力してもらおうよ。男子だって佐藤くんや本郷くんだっているしさ」
「そんなにたくさんの人に相談したら、あの子がいじめられてるってたくさんの人に知られることになっちゃうわよ?」
瞳子ちゃんの懸念に、葵ちゃんは笑顔で返す。
「何言ってるの瞳子ちゃん。トシくんだって言ってたじゃない。大ごとにするってさ。だからみんなに助けてって言うんだよ」
葵ちゃんは胸を張った。たくさんの人を巻き込んででも、品川ちゃんを助けようという意思がそこにはあった。
……葵ちゃんも強くなった。彼女のように品川ちゃんも強い子へと成長できるかもしれない。ただ、それはいじめられながら成長できるものではないのだ。
いじめは子供の成長の阻害でしかない。それはいじめる側だってそうだ。曲がった方へと行くだけで、成長とは程遠く停滞ですらない。それは枝葉が伸びているのではなくしおれている。いや、腐っているだけなのだ。
「そうだね、みんなに相談しよう。とくに小川さんや本郷あたりは交友範囲も広そうだし、四年生の友達もいるかもしれないしね」
こうして品川ちゃんをいじめから助けるための方向性が決まった。その後も俺達は具体的にどうするかなどと話し合ったのだった。
さあ、早速明日から行動開始だ!
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