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相合傘して帰りましょう(小学三年生)

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 今朝は「良い天気でしょう」と予報したくなるような空だったのに、下校時刻を迎える頃には曇天の空模様になっていた。
 雨は容赦する様子もなくざんざん降りだ。

「ううぅー……」

 そんな空を恨めしそうに睨んでいるのは瞳子ちゃんだった。ちょっと怖いくらいの睨みっぷりである。
 午後から雨でしょう、とは本日の気象予報士さんの言葉である。俺と葵ちゃんは言う通りに傘を持ってきたのだが、瞳子ちゃんは珍しく天気予報を確認しなかったようだ。
 まあ、葵ちゃんも家を出た時には忘れていたんだけどね。登校の班が同じだからすぐ指摘できたからよかった。

「ううぅ~……」

 さらに唸る瞳子ちゃん。普段忘れ物しない子だからレアな光景である。
 さて、かわいいからっていつまでも眺めているわけにもいかないな。
 ここで彼女を見捨てるわけがない。傘を傾け入るよう促す。

「瞳子ちゃん、俺の傘に入る?」
「俊成っ」

 瞳子ちゃんの表情がぱぁっと輝く。彼女にとってはよほどピンチだったみたい。空を恨めしそうに睨んでいた目が、いつものかわいらしい猫目に戻ってくれた。
 そんなわけで、瞳子ちゃんと相合傘をしながら帰ることになった。

「いいなぁ……」

 ここで葵ちゃんが指を咥えながら羨ましそうな視線を送ってきた。目つきが怖いわけじゃないのに、無視できない圧力を感じる。
 葵ちゃんのことだ。私も相合傘したい、といったところだろう。葵ちゃん検定一級の俺じゃなくてもわかってしまう態度だ。
 だがしかし、俺の傘は二人までだ。というか二人でもかなりギリギリである。ここで葵ちゃんまで入れられない。

「葵? どうしたのよ」

 瞳子ちゃんもそんな葵ちゃんの態度に気づいた。自分の状況と葵ちゃんの視線の意味を推察し、感情を読み取ったようだ。彼女のこの思考の流れは瞳子ちゃん検定一級の俺だからこそ察せられたのだ。

「……」
「……」

 なんて考える間に、葵ちゃんと瞳子ちゃんが睨み合いを始めてしまった。懐かしい光景だなぁ……、って言ってる場合じゃねえ!

「二人とも落ち着いて。だったらこうしようよ」

 俺は二人の和解のため、一つの提案を口にした。


  ※ ※ ※


「瞳子ちゃん濡れてない?」
「大丈夫よ葵。あたしのことよりも自分のことを心配しなさい」

 結局、相合傘をしたのは葵ちゃんと瞳子ちゃんのペアだった。俺? 後ろから仲睦まじい二人を眺めていますよ。
 なんだかんだ言っても二人は仲良しだからね。俺がこの提案をした時も、とくに不満は漏らさなかったし。それはそれでちょっと寂しいんだけども。
 え、俺が相合傘できないなら本末転倒だって? 葵ちゃんと瞳子ちゃんが仲良くできるならそれが最善に決まってるでしょう。

「天気予報で明日も雨って言ってたんだって。ってトシくんが言ってた」
「そう。明日は絶対に傘を忘れないようにするわ」

 瞳子ちゃんの言葉には決意がこもっていた。しっかり者の彼女なら同じ失敗はしないだろう。

「それよりもてるてる坊主を作ろうよ。明日雨が降らなくなるよ」

 てるてる坊主の効果が絶大なものだと信じて疑わない葵ちゃんである。

「別にてるてる坊主を作っても作らなくても、傘は持ってくるわ」

 瞳子ちゃんはてるてる坊主を信じていないというより、忘れ物をしないという固い意志があるようだった。

「じゃあこれから俺の家でてるてる坊主作る? 材料ならあると思うしさ」

 俺はといえばてるてる坊主に期待しているわけじゃなかった。ただ、二人と楽しく遊べるならと提案する。

「うんっ。トシくんの家に行く!」
「いいわよ。どうせ作るなら良い物にするわ」

 無邪気に笑う葵ちゃんと、クールに微笑む瞳子ちゃん。クールに見えるけど、物作りはけっこう凝り性な面が出ちゃうのが瞳子ちゃんなんだよね。

「そういえばさ、てるてる坊主の性別って女なんだって」
「えぇー、そうなの?」
「てるてる坊主に性別ってあったのね。坊主なのに女の子だなんて意外だわ」

 テルテル坊主は中国由来のものなんだっけか。元はちゃんと女の子の人形だったようだ。

「女の子ならかわいくしてあげなくっちゃね」
「うんとかわいくしなくっちゃ。かわいいのができたらトシくんにあげるね」
「あたしもっ。あたしもかわいいのができたら俊成にあげるわ」

 二人はまたまた対抗心を燃やして睨み合う。てるてる坊主作りでさえ大変そうだ。
 でもまあ、対抗心を燃やしながらも楽しそうだからいっか。二人が作るてるてる坊主が、今から楽しみだ。
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