9 / 23
背比べ勝負(中学二年生)
しおりを挟む
「高木くんってさ、けっこう身長伸びてない?」
「いきなりだなぁ」
唐突な小川さんの言葉である。俺をまじまじと見つめる彼女はなぜか眉間にしわを寄せている。
しかし言わんとすることはわからなくもない。
現在俺と小川さんの目線は同じくらい。つまり身長は同じくらいである。小学生の頃は見上げるほどだった彼女も、成長期に入った俺ならば追いついてしまえるのだ。口にはしないが嬉しかったりする。
それでも前世では小川さんは俺よりも背が高かったはずだ。並べたということは確実に俺は前世の自分を超えているということだろう。運動と睡眠の重要性を実感として身に染みる。
「でもさぁ、まだ私の方が高いよね?」
「む?」
断言めいた口調の小川さんには悪いがそれはどうかな? 少なくとも見た目でわかる程度の差ではない。俺の方が若干高くなっていても不思議じゃないほどの差でしかないのだ。
「待ってくれよ。最近の俺は今こそ成長期のピークかってくらい身長が伸びてるんだ。もう小川さんを超えてたっておかしくないぞ」
「へぇー。だったら勝負でもする?」
「いいとも。勝者は敗者から今日の給食のプリンをもらえる、ってのでどうだ?」
「乗った!」
かくして俺と小川さんの間でデザートのプリンを賭けた仁義なき争いが始まったのである。……ただの背比べだけどね。
「ほな、二人とも準備はええか?」
審判は同じクラスの佐藤だ。心なしか面倒そうなオーラをかもし出している気がするのだけど、佐藤に限ってそんなこと思ってもないだろう。
「二人とも背中合わせて。背筋伸ばして顎を引くんや。背伸びなんてズルしたらあかんで」
指示通りに小川さんと背中を合わせる。背中の感触だけではどっちが高いかなんてわからない。
そういえば、小学生の頃は葵と瞳子ともこんな風に背比べしていたっけか。中学生になってからは身長差が広がって背比べすることもなくなった。
その代わり、自然と上目遣いされることが多くなった。効果は抜群だ。ずっといっしょなのに未だドキドキさせてくるだなんて反則だと思う。
「んー……」
見るだけではわからなかったようで、佐藤は俺と小川さんの頭に手を置いた。ちゃんと測ってもらうためなのだろう。小川さんの体に力が入る。
「うん、ちょっとだけやけど高木くんの方が背高いで」
「えー! 嘘でしょ!?」
佐藤の判決に即座に抗議の声がかけられる。
どれだけ言われようとも小川さんが納得を見せる様子はなかった。そんなに俺に身長を抜かされたのが嫌なのだろうか。
「わかったわかった。ならもう一回測ったるわ。それでええんやろ?」
「う、うん……。それでよし」
佐藤が根負けしたような形でもう一度測り直すこととなった。
俺と小川さんはもう一度背中をくっつける。それを確認した佐藤が先ほどと同じように俺達の頭に手を置く。今度こそ負けないようになのか、小川さんが背筋を伸ばした気配がする。
「小川さん動かんといて」
「う、動いてないし」
とか言いつつ背後からいごいごした感覚。それを抑えようとしたのか頭に置かれた佐藤の手に力が入る。俺は別に動いたりしてないのにな。
「やっぱりちょっとやけど高木くんの方が背高いわ」
「そ、そお……」
今度は大人しく納得してくれた。さすがに測り直しの二回目に抗議する気はないようだ。
「さ、佐藤くんも私と勝負してみる?」
ここで小川さんは佐藤へと標的を変えた。どうしても勝ちがほしいのだろうか。
ふっと笑みを見せる佐藤は、諦めにも似た感情を露わにしていた。
「僕はええわ。まだ小川さんに届かなへんてわかっとる。比べるまでもあらへん」
佐藤の身長は男子の平均よりもやや下といったところである。女子の平均を大きく上回る小川さんよりもぱっと見ただけで低いのはわかりきっていた。
前世では俺と佐藤に身長差はあまりなかった。だからこそ気持ちがわかるんだ。自分の背が低いだなんてわざわざ強調したくはない。
「……でも、いつかは追い抜いたる! 打倒小川さんや!!」
佐藤の背後から何かが燃えているように見えた。今は届かないとわかっていながらも、未来を諦めた目ではなかった。自分の未来を、可能性を信じているのだ。身長の話だけどね。
でも、佐藤は本当に強いな。前世で同じだからって気持ちがわかるだなんて軽々しく言えなくなる。逆行してようやくがんばろうと思えるようになった俺とは大違いだった。
「ま、まあ? いいんじゃない」
打倒と宣言された当人はちょっとだけ恥じらいながらも応じたようだった。目を逸らしてしまっているのは佐藤の熱にやられたからなのだろう。
その後の給食では残った牛乳を佐藤が全部飲み尽くしてしまった。気合いが入っているのはわかるけど……腹、壊すなよ。
「いきなりだなぁ」
唐突な小川さんの言葉である。俺をまじまじと見つめる彼女はなぜか眉間にしわを寄せている。
しかし言わんとすることはわからなくもない。
現在俺と小川さんの目線は同じくらい。つまり身長は同じくらいである。小学生の頃は見上げるほどだった彼女も、成長期に入った俺ならば追いついてしまえるのだ。口にはしないが嬉しかったりする。
それでも前世では小川さんは俺よりも背が高かったはずだ。並べたということは確実に俺は前世の自分を超えているということだろう。運動と睡眠の重要性を実感として身に染みる。
「でもさぁ、まだ私の方が高いよね?」
「む?」
断言めいた口調の小川さんには悪いがそれはどうかな? 少なくとも見た目でわかる程度の差ではない。俺の方が若干高くなっていても不思議じゃないほどの差でしかないのだ。
「待ってくれよ。最近の俺は今こそ成長期のピークかってくらい身長が伸びてるんだ。もう小川さんを超えてたっておかしくないぞ」
「へぇー。だったら勝負でもする?」
「いいとも。勝者は敗者から今日の給食のプリンをもらえる、ってのでどうだ?」
「乗った!」
かくして俺と小川さんの間でデザートのプリンを賭けた仁義なき争いが始まったのである。……ただの背比べだけどね。
「ほな、二人とも準備はええか?」
審判は同じクラスの佐藤だ。心なしか面倒そうなオーラをかもし出している気がするのだけど、佐藤に限ってそんなこと思ってもないだろう。
「二人とも背中合わせて。背筋伸ばして顎を引くんや。背伸びなんてズルしたらあかんで」
指示通りに小川さんと背中を合わせる。背中の感触だけではどっちが高いかなんてわからない。
そういえば、小学生の頃は葵と瞳子ともこんな風に背比べしていたっけか。中学生になってからは身長差が広がって背比べすることもなくなった。
その代わり、自然と上目遣いされることが多くなった。効果は抜群だ。ずっといっしょなのに未だドキドキさせてくるだなんて反則だと思う。
「んー……」
見るだけではわからなかったようで、佐藤は俺と小川さんの頭に手を置いた。ちゃんと測ってもらうためなのだろう。小川さんの体に力が入る。
「うん、ちょっとだけやけど高木くんの方が背高いで」
「えー! 嘘でしょ!?」
佐藤の判決に即座に抗議の声がかけられる。
どれだけ言われようとも小川さんが納得を見せる様子はなかった。そんなに俺に身長を抜かされたのが嫌なのだろうか。
「わかったわかった。ならもう一回測ったるわ。それでええんやろ?」
「う、うん……。それでよし」
佐藤が根負けしたような形でもう一度測り直すこととなった。
俺と小川さんはもう一度背中をくっつける。それを確認した佐藤が先ほどと同じように俺達の頭に手を置く。今度こそ負けないようになのか、小川さんが背筋を伸ばした気配がする。
「小川さん動かんといて」
「う、動いてないし」
とか言いつつ背後からいごいごした感覚。それを抑えようとしたのか頭に置かれた佐藤の手に力が入る。俺は別に動いたりしてないのにな。
「やっぱりちょっとやけど高木くんの方が背高いわ」
「そ、そお……」
今度は大人しく納得してくれた。さすがに測り直しの二回目に抗議する気はないようだ。
「さ、佐藤くんも私と勝負してみる?」
ここで小川さんは佐藤へと標的を変えた。どうしても勝ちがほしいのだろうか。
ふっと笑みを見せる佐藤は、諦めにも似た感情を露わにしていた。
「僕はええわ。まだ小川さんに届かなへんてわかっとる。比べるまでもあらへん」
佐藤の身長は男子の平均よりもやや下といったところである。女子の平均を大きく上回る小川さんよりもぱっと見ただけで低いのはわかりきっていた。
前世では俺と佐藤に身長差はあまりなかった。だからこそ気持ちがわかるんだ。自分の背が低いだなんてわざわざ強調したくはない。
「……でも、いつかは追い抜いたる! 打倒小川さんや!!」
佐藤の背後から何かが燃えているように見えた。今は届かないとわかっていながらも、未来を諦めた目ではなかった。自分の未来を、可能性を信じているのだ。身長の話だけどね。
でも、佐藤は本当に強いな。前世で同じだからって気持ちがわかるだなんて軽々しく言えなくなる。逆行してようやくがんばろうと思えるようになった俺とは大違いだった。
「ま、まあ? いいんじゃない」
打倒と宣言された当人はちょっとだけ恥じらいながらも応じたようだった。目を逸らしてしまっているのは佐藤の熱にやられたからなのだろう。
その後の給食では残った牛乳を佐藤が全部飲み尽くしてしまった。気合いが入っているのはわかるけど……腹、壊すなよ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる