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四章 決着編

最終話 これからのために

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 ホリンくんが聖女様と話し合いがしたいとのことで、一旦王城に戻ることになった。どうやらアポはもうとっているらしい。

「その、エル……」
「う、うん……」

 ホリンくんが正面からわたしと向き合い、何かを言おうと口を開く。
 様々な思いが溢れ出てくるのだろう。思うところはいろいろあるだろうし、きっと聞きたいことだってある。わたしは緊張してぎこちなく頷く。

「あのな──」
「ホリン様! 急いでくださいませ。早くしないとあの連中が何をしでかすかわかりませんわ!」

 ホリンくんが言葉を発するよりも早く、先に馬車に乗ったコーデリアさんに呼ばれてしまった。

「……後でな」

 それだけ言って、ホリンくんは馬車へと乗った。その馬車には捕らえた状態のクエミーも乗っている。
 ホリンくんは、わたしに何を言おうとしていたのだろう? ……身に覚えがありすぎてわからないよ。

「エルって、ホリン王子と仲が良さそうだね」
「ま、まあ……一応学友だったからね」

 なぜか笑顔のウィリアムくんからプレッシャーを感じる……。クエミーと戦ってた時以上に冷や汗が噴き出るんですけど、これは一体どゆこと?

「黒いのが修羅場ってやがるぞ」
「はっはー。ガキのくせにいっちょ前にやるじゃあねえかよ」
「黒い子ちゃんはかわいいものね。たまにはもっと着飾ればいいのに」

 そこうるさい!
 サイラス達『漆黒の翼のメンバーから面白がるような視線を感じる。とりあえずブリギッドだけは後でぶん殴っておこう。あいつは殴ってもいい奴だ。
 手を叩いて注目を集める。

「とにかく、わたし達も王城に行こう。これからのことを考えるにしても、まずは聖女様に報告しなきゃいけないからね」

 けっこうやばい状況だけれど、ホリンくんがいるなら少しは穏やかな結果になると信じたい。

「ウィリアムくんも。王城に案内するから、わたしについて来てね」
「うん。絶対にエルから離れないよ」

 うん……。なぜかまたプレッシャーを感じたぞ? おかしなことは言ってなかったよね?


  ※ ※ ※


 見覚えのある黒髪を見て、わたしは足を止めた。

「よっ。エルちゃん元気にしてたか?」

 城に戻ると、笑顔のアルベルトさんに出迎えられてしまった。
 驚きで固まっているわたしに、彼は「大きくなったなー」と親戚のおじさんみたいなことを言う。

「アルベルトさん、お久しぶりです」
「おお、ウィリアムくんも大きくなったもんだ。立派になったな」
「アルベルトさんは変わりませんね」

 なんでウィリアムくんは普通にあいさつしているんだ? クエミーといっしょにいたならどういう扱いされてる人かわかってるでしょうに。
 二年前。マグニカの王都を混乱の渦に叩き込んだ張本人である。まあ、わたしもその一味扱いされているんだけども。

「おいアルベルト。俺について来い」
「うっす。お供させていただきますホリン様!」

 そしてなぜかホリンくんにへりくだっているアルベルトさんだった。この二人の謎の関係に、わたしの頭は大混乱だ。

「エルちゃん」
「は、はい」

 振り返ったアルベルトさんがニカッと笑う。変わらない、昔と同じ顔をしていた。

「また後でな」

 そう言って、アルベルトさんはホリンくんについて行った。これから聖女様と話があるとのことだ。
 どんな話をするのだろう? 割って入れる立場ではないのは承知していたけど、これからのことに大きく関わる話をするのだろうと漠然とした予感があった。
 そして、その予感は的中することになる。


  ※ ※ ※


 その後のこと。
 ホリンくんがクーデターを企てていた。

「俺がマグニカ王国を、ぶっ壊す!」

 こんなことを言われた時には驚くしかなかった。けれどこの考えに賛成派がそれなりにいて、アルベルトさん達もその中に入っている。

「いいでしょう。我々もホリン王子に協力させていただきます」

 さらにはルーナ様も賛成の姿勢を見せた。聖女としての言葉ということは、スカアルス王国が味方になったということだ。
 スカアルス王国だけじゃない。コーデリアさんが言うには他にも協力してくれる国があるとのこと。
 気づかないうちにマグニカ王国包囲網が敷かれていた。
 もちろんルーナ様が協力するというのなら、わたしも力になるつもりだ。それを伝えるとウィリアムくんも「僕も」と簡単に言う。けっこう重大な意思表明だと思うんだけど、わかってるのかな?

「僕はエルの味方だからね。僕の知らないところで大変な目に遭ってるかもしれないって考える方が嫌だよ」

 と、笑顔で言ってのけるウィリアムくん。二年前のことでかなり心配をかけてしまっていたようだ。
 そんなわけで、マグニカ王国と正面からやり合うことが決まった。
 このことに関しては渡りに船だと思っている。ホリンくんからの話が出なくても、わたしだけでも戦うつもりだったから。
 魔石と優秀な人材が多いマグニカ王国。勇者を輩出した国だから自然に集まっているのかと思っていたけれど、そうじゃなかった。
 人間を魔石に変える。そんなとんでもなく人道に反したことを、あの国は行っているのだ。


  ※ ※ ※


 さらにその後。

「その、元気か?」
「まあ、ぼちぼちだね。ホリンくんは?」
「まあまあだな」

 ぶっきら棒なホリンくんに、少し笑ってしまった。
 以前と同じで、不器用なホリンくんを見られたからかもしれない。変わらない態度に安心したのだろう。
 変わってしまったものはたくさんある。それは良いことだったり、悪いことだったり様々だ。すべて上手くいったとは口が裂けても言えないけれど、少しだけ……ほんのちょっぴり良かったと思えている自分がいた。

「エルの笑顔……見たのは久しぶりだな」
「だね。わたしもホリンくんの笑顔を見るのは久しぶりだよ」
「わ、笑っていたか?」

 自分の顔に触れるホリンくん。ワイルドな感じなのに、こういう親しみやすさがあるのが彼らしい。

「……ホリンくん。少し長い話になるけれど、わたしの話を聞いてくれる?」

 今まであったこと。今まで思ってきたこと。腹を割って、まずは話してみよう。
 ウィリアムくんは聞いてくれた。そして、笑ってくれた。言葉がなくても、それでいいんだ。
 ただ溜め込むだけだった心。もう少し、勇気を出してみようと思う。

「俺の話を聞いてくれたからな。友として、お前の話をちゃんと聞いてやる」

 そんなぶっきら棒な言葉が、とにかく嬉しかった。これから大きなことをやろうとしているとは信じられないくらいに。
 大変なのはこれからだ。それでも、無駄に苦しんでいただけだった自分とは、少しは違っているだけ未来はマシだろうと思えた。
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