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二章 魔道学校編

第25話 代表決定戦開始! そして決着

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「はっ! 呆けてる場合じゃないっ」

 ホリンくんとシグルド先輩のやり取りのせいで集中力が霧散してしまっていた。ていうか二人の関係が気になります!
 などと考えてる場合じゃないな。これから代表入りをかけての魔法戦だ。気合を入れなければ。

「エル・シエル」
「は、はいっ」

 名前を呼ばれて振り返ると、わきの下をかきながらトーラ先生が近づいてきていた。
 って女性なんですからちょっとは周りの目を気にしてくれよ。人前でわきの下をかかない!
 とか考えても口にはしないのであった。つーか誰か指摘してやれよ。

「もしケガをしても私がいるからね。安心して全力を出してくれたまえよ」
「は、はあ。その時はお願いします」
「……私はキミがケガをするとは考えてもいないがね」

 トーラ先生は態度からして面倒そうである。この人の言うことは本心からなのかそうじゃないのか、ちょっと判別しづらい。

「私は期待しているという意味だよ。もちろんホリン・アーミットもね」
「ホリンくんが、ですか?」
「ああ。キミは彼の力になれるだろうと、私は思っているのだ」

 なんか微妙に話がかみ合ってないような?
 ホリンくんは友達だし、期待してくれているのだろうってのはわかる。でもホリンくんの力になれるってなんだろ? 友達として力になるってこと? なんのだよ。

「ではがんばりたまえよ」

 言いたいことだけ言ってどっかへ行ってしまった。トーラ先生って不思議っていうかなんていうか。ミステリアスっていえばいいのかな? いや、ただの変な人だ。
 あれで治癒魔法の専門家っていうんだから変な感じ。わたしはあれだけのやり取りでちょっと疲れちゃったよ。
 まあいいや。期待されてるって言われれば嬉しいのは確かだ。がんばろう。
 こっそり握りこぶしを作って気合を入れていると、先生と生徒が一人ずつわたしの前に現れた。
 今度は誰だよ、とか思って見つめると、先生が口を開いた。

「えー、ルヴァイン・エイウェルとエル・シエルの試合を始めたいと思う」
「え? は、はいっ」

 どうやら対戦相手と審判の先生だったようだ。
 えーと、ルヴァイン先輩っていったかな? 見つめすぎないように観察してみると、眼鏡男子だった。
 なかなか眼鏡が似合うお人だ。ノンフレームの眼鏡がキラリと光る。その奥の瞳もキラリと光っていらっしゃる。
 ……というか睨んでいらっしゃいます?
 ま、まあそうだよね。せっかく代表入りしたと思ったのに、下級生からケチつけられてこんな衆人環視の中で試されるようなことされてるんだから。そりゃあムカつきますよねー。
 二年か三年かはわかんないけど、とりあえずこのルヴァイン先輩を倒せばいいらしい。おそらく彼が「我が校の代表者の中では最弱」ってやつなのだろう。つまりホリンくん以下か。
 そう思ったら負ける気がしないなぁ。気づけば緊張もどっかに行っちゃったし。ある意味ホリンくんとシグルド先輩のせいだけど。

 さて、魔法戦だ。
 集まった観衆が静かになる。これから戦いが始まるのだ。アルバートの代表、最後の椅子をかけて。
 対戦する両者はフィールドの中央へ。杖を持ち、互いに背を向けて十歩歩く。
 十歩目の時に振り向く。なんだか西部劇みたいでワクワクした。

「はじめっ!!」

 その瞬間、審判からの開始宣言が響いた。
 一気ににぎやかになる観衆。眺めてる方は楽しそうだ。スポーツ観戦しているノリなのかもしれない。
 だけどこっちは集中しなきゃ。まずは相手の様子を見る。

「風よ、刃となりて切り裂かん」

 眼鏡先輩はいきなり詠唱を始めていた。あの詠唱はエアカッターか。
 開始位置からの魔法。そんな棒立ちじゃあ無詠唱できるわたしならただの的にしか思えないよ。
 でも一応相手の実力を測っておきたい。まずはエアカッターを観察だ。
 エアカッターは風の下位魔法だ。不可視の刃と聞けばかなり有用な魔法に思えるが、実はこの魔法、射程が短いのが難点だったりする。
 正直、眼鏡先輩の位置からじゃあわたしにはまともに当たらないだろうってくらいの射程の短さなのだ。まあ術者によってその辺も変わるんだろうけど。
 ちなみに風の中位レベルに至っているわたしでも射程は十メートルほどだ。なんだかんだで下位魔法だからね。仕方ないね。
 眼鏡先輩がわたし以上の使い手だっていう可能性もある。一応壁を作っておこう。

「アースウォール」

 杖を振って土壁を出現させた。土の下位魔法だ。それでも上位レベルに達している得意の土属性だ。そんじょそこらの壁じゃない。

「エアカッター!」

 眼鏡先輩の魔法が解き放たれる。ピュンッ、と風を切ったかのような音がした。

「……ん?」

 衝撃も何もない。届いてないのだろうか?
 土壁の端からひょっこり顔を出してみる。眼鏡先輩は杖を突き出したポーズのまま固まっていた。

「んー?」

 何やってんだろ?
 土壁の表面に目を向ける。そこには、傷一つない土壁があるだけだ。
 表面をぺたぺたと触ってみる。どうにも傷をつけられたようには思えなかった。
 届かなかったのか? まあ射程の短い魔法だからね。もうちょっと接近した方が威力が上がるけど。
 それを教えるほど、わたしは人が良くないのだよ!

「く、くそっ。火よ集え、放たれ――」
「エアカッター」
「ああっ!?」

 眼鏡先輩の魔法が完成する前に、わたしのエアカッターが彼の杖を真っ二つに切り裂いた。
 わたしならこの距離でも届く。……ギリギリだけど。
 審判の先生がぽかんとしてる。あれ? 杖を使用不能にしたんだからこれで勝ちじゃないの?
 もしかして相手にダメージを負わせないとダメだったのかな。仕方がない。無手の相手で申し訳なさが先行するけれど、仕方がないよね。

「母なる大地よ、集え」

 杖を掲げて詠唱する。ぶっちゃけ杖も詠唱も必要としないわたし。でもこうやって厳かに口にするのが大切なのだ。
 わたしの頭上に一塊の岩が生成される。人一人くらいならぺちゃんこにできそうなくらいの大きさだ。

「ヒ、ヒィッ!」

 眼鏡先輩は尻もちをつく。立たない様子から腰を抜かしてしまったとわかる。
 そうそう。こうやって脅しにできるからね。こういうことにばっかり慣れてしまったのは一体誰のせいなのやら。
 ケガをさせたいわけじゃない。このまま脅して「まいった」と言わせよう。
 わたしは一歩二歩と眼鏡先輩に近づいて行く。先輩は尻を引きずりながら後ずさる。
 口をパクパクさせてはいる。けれど降参の言葉が出てこない。
 うーむ、脅しが足りないかな。岩の大きさがもっとあった方がいいのかも。魔力を込めて岩を大きくする。影が差した。

「ひ、ひええぇぇぇぇっ!!」

 うむうむ、びびってるびびってる。このまま「まいった」を言わせられるかな。
 そう思って待っているのに、なかなか眼鏡先輩は言ってくれなかった。
 あれー? まだ足りないのかな。仕方がない。もうちょっとサービスだ。
 わたしは大岩を回転させる。岩肌が見えないくらいの高速回転だ。ギュオオオオオオン! とか音がする。まるでドリルの回転みたいだ。

「うわわわわわわわわわ……」

 効果はバツグンだ。ほらほら降参しなよ。ハリーハリー。
 早くしないとこれ、先輩に落としちゃいますよー。という意味を込めて高速回転する大岩を眼鏡先輩の頭上でくるくる浮遊させる。
 怖かろう。早く降参するがよい。ふはははははは!
 余裕たっぷりで見つめていると、眼鏡先輩が仰向けに倒れた。

「あ、あれ?」

 わたしは困惑してしまう。いきなりどうしたのだろうか。まだ落としてもないのに。
 よーく眼鏡先輩を見つめると、泡を吹いて気絶していた。

「……」

 こ、これはリアクションに困るな。まさか気絶してしまうとは思わなかった。そこまできつい脅しじゃないって思ってたよ。バガンの感覚に慣れてしまったわたしが悪いのか?

「しょ、勝者、エル・シエル!」

 審判の先生が決着を告げた。けれど、観客の生徒からは拍手喝采は起こらなかった。
 まるでドン引きされているような、そんな空気を感じる。き、気のせいだよね?
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