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覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
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五円玉の穴に糸を通す。たったそれだけで、必要なものは完成した。
「これで、今日から俺も催眠術師か」
プラプラと揺れる五円玉。確かに見ているだけで言いようのない何かに意識が囚われそうになる。
テレビで催眠術の番組をやっていた。出演者には本当に効いていたように見えたし、これなら俺にだってできると思った。
「本当に催眠術が使えるのか、早く試してみたいな」
なんてことを口にしたからだろうか。ノックもなしに自室のドアが開けられた。
「はろー、マーくん遊びに来たよー」
そんな礼儀知らず、俺は一人しか知らない。
にぱーと笑顔満面の女子。能天気だが顔だけは良い。それが俺の幼馴染であるカナだ。
「なんか失礼なこと考えなかった?」
「気のせいだろ」
幼馴染とはいえ、年頃の男子の部屋に躊躇なく入ってきやがる。やはり能天気女。何も考えていないに違いない。
でもこれはチャンスじゃないか? 実験台としてこれほどちょうどいい奴もいないだろう。成功しても失敗してもリスクは低いだろうからな。
「ようこそカナ。さっそくだけどちょっとした遊びに付き合ってくれ」
「えー? あたし漫画読みに来ただけなんだけど」
うちは漫画喫茶じゃねえよ。内心はちょっとイラッとしていたが、表情はスマイルで応じた。
「まあまあそう言うなって。そんなに時間かかんないし」
「マーくんのおやつくれるってんならいいよー」
こいつ……っ。
「いいよ、わかった」
今日のおやつは好物のモンブランだってのに……。催眠術かけたら覚悟しろよ。
「うぉっほんっ。では、この五円玉を見てください」
糸で吊るした五円玉をカナの眼前に持っていく。それだけしかしていないのに「ウケるー」とか言って笑いやがった。マジで覚えてろよ。
「何? 催眠術ってやつ? マジでできるかやってみせてよー」
これが催眠術の道具と知っていたか。それでも興味津々ってならちょうどいい。逃げられる心配がないなら俺も安心だ。
「この五円玉から目を離すなよ。……いくぞ」
「オーケーオーケー」
返事は適当だったが、言う通り五円玉を見つめている。
俺は少しの緊張を感じながらも、五円玉を揺らし始める。
「あなたはだんだん眠くなる~。眠くな~る」
左右に揺れる五円玉の動きに合わせるようにして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「うわっ、本当に催眠術みたい。ウケる」
うるせー黙ってろと心の中で注意する。集中集中。
カナに構わず何度も同じ言葉を繰り返す。カナの頭に沁み込ませるようにと意識した。
「……」
しばらくそうしていると、カナに変化が現れた。
カナはうっつらうっつらと船を漕ぎ始めたのだ。まぶたも重たそうにしている。今にも眠ってしまいそうだった。
俺は内心でガッツポーズした。催眠術の効果が出たのだと自信を持てたからだ。
「あなたは眠りま~す。そして次に起きた時、俺の言うことをなんでも聞くようにな~る……」
そう言い終わった瞬間、カナが突然がくんと前のめりに倒れた。俺は咄嗟に彼女の体を抱きとめる。
急に倒れるからびびった。でも、本当に催眠術が成功したのだろう。段々と嬉しさが込み上げてくる。
「おーいカナー。早く起きろよー」
本番はカナが目を覚ました時である。催眠術が効いているのなら、俺の言うことはなんでも聞いてくれるはずだ。
「……」
それにしても、と。抱きかかえた彼女に目をやる。
見慣れた幼馴染とはいえ、最近はこれだけ近くでカナの顔を見ることなんてなかった。肌が綺麗だとかまつ毛が長いだとか、わりと顔の作りは良いよなとか思ってみたり……。
カナの目がパチリと開いた。
「うおっ!?」
変なことを考えていたせいか、本気で驚いてしまった。びびったことが恥ずかしくて顔が熱くなる。
こういう時に嬉々としてからかってきそうなカナは口を閉ざしていた。目も焦点が合っていないように見える。
これは、催眠術にかかってるってことでいいんだよな?
ちょっと試してみようか。
「カナ、そこに正座しなさい」
「はい」
おおっ、文句も言わずに正座しやがった。ちゃんと意識があれば絶対に素直に聞かないはずだ。
「お手」
「はい」
犬のようにお手をするカナ。
「手を挙げて」
「はい」
授業中では絶対にしないような綺麗な挙手をするカナ。
「変顔して」
「はい」
「ぶはっ!」
年頃の女子が見せられないような変顔をしやがった。笑いすぎて腹が痛くなった。
しかし、これで確定だろう。
すごい……。これが催眠術の力か。これだけのことができるならもっと早く覚えておけばよかった。
くっくっくっ、さて、次はどんなことをしてやろうか。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点がわかれば、もうカナの好き勝手にはさせない。俺のおやつも死守できるってもんだ。
俺はカナに向き直る。
弱点っていってもどんな風に聞き出せばいいだろうか。「弱点は?」と聞いたら「ピーマン怖い…」とか返ってきそうだ。そんなことはとっくの昔から知っている。
うーむ、と考えて、ぱっと思いついた。
「カナ」
「はい」
焦点が合っていないような視線が向けられる。俺はニヤニヤしながら尋ねた。
「カナの好きな人って誰?」
好きな人。思春期の俺達にとって、それを知られるほど恥ずかしいことはない。クラスのみんなに知られれば羞恥心に耐えかねて叫んだっておかしくない。俺なら叫ぶ。
普段から軽い奴だが、それでも一応年頃の女子である。きっとこいつだって好きな人を知られるのが恥ずかしいはずだ。
「……」
その証拠に、催眠術にかかっているはずのカナがなかなか答えようとしない。口を固く閉ざし続けていた。
俺は根気強く待った。穴が空きそうなくらい見つめ続けた。
カナの心理的ストッパーってやつが戦っているのだろうと思う。それだけ恥ずかしい情報なのだ。弱味を握れるチャンスに胸がドキドキした。
やがて催眠術に負けたのだろう。カナが口を開いた。
「……マーくん」
「はい?」
なんか予想外にもほどがある名前が聞こえた気がする。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
今まで見たこともない熱っぽい目で見つめられる。俺は逃げるようにベッドにダイブした。
な、なんだ今の? 見間違いか?
もう一度、恐る恐るカナを見る。
「じー……」
穴が空きそうなほど見つめられていた。ちょっと目が潤んでいるのは気のせいか。
再びベッドに顔を埋めて緊急離脱する。視線からは逃れられた。問題は解決していないが……。
え、これどうすればいいの?
催眠術で聞き出したということは本心のはず。だったら告白に対して返事した方がいいのか?
いやいや待て待て。催眠術にかかっている間のことは記憶に残らないはずだ。うやむやにしてしまえばなかったことになるだろう。
「い、いいのか?」
正直な話、俺はカナに対して恋愛感情なんぞ抱いてはいない。
だって、ずっと幼馴染として接してきたのだ。いくら異性とはいっても、兄妹とそう変わらない関係だと思っていた。カナだって俺と同じように考えていると思っていたのに……。
まさか、いきなりこんな……ええいっ、こんなん予想できるかっ!
唇をぐっと噛みしめて、おもむろに体を起こす。
「カナ」
「は、はい」
俺はカナの前に正座した。心なしか彼女の背筋が伸びた気がした。
さっきまでは気にも留めなかったが、なんだか甘いようないい匂いがする。それがカナから漂う女の子の匂いだと気づいて、ばっと目を逸らす。
「お、俺が手を叩くと催眠術が解ける。催眠術にかかっている間の記憶もなくなる。いいな?」
「……」
「あ、あれ?」
急に返事しなくなって焦る。別に葛藤するようなこと言ってないだろ? ないよな?
わたわたしていると小さなため息が聞こえた気がした。
「……はい」
無感動というより、ぶっきら棒な感じで返事された。
とにかく返事したってことは催眠術は効いてるってことだ。落ち着いて手を叩いた。
「……なんか疲れちゃった」
「そ、そうか? 催眠術にかかってる記憶は残ってるか?」
「あたし催眠術にかかってたの? 残念、記憶にないなぁ。今度はもっとわかりやすいのにしてよ」
「お、おう」
正気を取り戻したカナはコリをほぐすように首を回した。
不自然なところはないよな? 彼女を観察していると深いため息をついていた。催眠術にかかると体力を使うようだ。
催眠術にかかっている間のことを深くは追及してこなかった。カナは「疲れちゃったからもう帰るね」と立ち上がった。
部屋を出る間際、カナは振り返ってこう言った。
「マーくん、今度は覚悟を決めてから催眠術にかけてね。あたしの気持ち……変わんないからっ」
パタンとドアが閉まる。俺はそれを口を半開きにして見送った。
え、いや、ん? それって? ちょっ、待って? どういう?
……え? ええっ!?
この日から、俺はこれっぽっちも意識していなかった幼馴染にドギマギさせられることとなる。……なってしまったのだ。
「これで、今日から俺も催眠術師か」
プラプラと揺れる五円玉。確かに見ているだけで言いようのない何かに意識が囚われそうになる。
テレビで催眠術の番組をやっていた。出演者には本当に効いていたように見えたし、これなら俺にだってできると思った。
「本当に催眠術が使えるのか、早く試してみたいな」
なんてことを口にしたからだろうか。ノックもなしに自室のドアが開けられた。
「はろー、マーくん遊びに来たよー」
そんな礼儀知らず、俺は一人しか知らない。
にぱーと笑顔満面の女子。能天気だが顔だけは良い。それが俺の幼馴染であるカナだ。
「なんか失礼なこと考えなかった?」
「気のせいだろ」
幼馴染とはいえ、年頃の男子の部屋に躊躇なく入ってきやがる。やはり能天気女。何も考えていないに違いない。
でもこれはチャンスじゃないか? 実験台としてこれほどちょうどいい奴もいないだろう。成功しても失敗してもリスクは低いだろうからな。
「ようこそカナ。さっそくだけどちょっとした遊びに付き合ってくれ」
「えー? あたし漫画読みに来ただけなんだけど」
うちは漫画喫茶じゃねえよ。内心はちょっとイラッとしていたが、表情はスマイルで応じた。
「まあまあそう言うなって。そんなに時間かかんないし」
「マーくんのおやつくれるってんならいいよー」
こいつ……っ。
「いいよ、わかった」
今日のおやつは好物のモンブランだってのに……。催眠術かけたら覚悟しろよ。
「うぉっほんっ。では、この五円玉を見てください」
糸で吊るした五円玉をカナの眼前に持っていく。それだけしかしていないのに「ウケるー」とか言って笑いやがった。マジで覚えてろよ。
「何? 催眠術ってやつ? マジでできるかやってみせてよー」
これが催眠術の道具と知っていたか。それでも興味津々ってならちょうどいい。逃げられる心配がないなら俺も安心だ。
「この五円玉から目を離すなよ。……いくぞ」
「オーケーオーケー」
返事は適当だったが、言う通り五円玉を見つめている。
俺は少しの緊張を感じながらも、五円玉を揺らし始める。
「あなたはだんだん眠くなる~。眠くな~る」
左右に揺れる五円玉の動きに合わせるようにして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「うわっ、本当に催眠術みたい。ウケる」
うるせー黙ってろと心の中で注意する。集中集中。
カナに構わず何度も同じ言葉を繰り返す。カナの頭に沁み込ませるようにと意識した。
「……」
しばらくそうしていると、カナに変化が現れた。
カナはうっつらうっつらと船を漕ぎ始めたのだ。まぶたも重たそうにしている。今にも眠ってしまいそうだった。
俺は内心でガッツポーズした。催眠術の効果が出たのだと自信を持てたからだ。
「あなたは眠りま~す。そして次に起きた時、俺の言うことをなんでも聞くようにな~る……」
そう言い終わった瞬間、カナが突然がくんと前のめりに倒れた。俺は咄嗟に彼女の体を抱きとめる。
急に倒れるからびびった。でも、本当に催眠術が成功したのだろう。段々と嬉しさが込み上げてくる。
「おーいカナー。早く起きろよー」
本番はカナが目を覚ました時である。催眠術が効いているのなら、俺の言うことはなんでも聞いてくれるはずだ。
「……」
それにしても、と。抱きかかえた彼女に目をやる。
見慣れた幼馴染とはいえ、最近はこれだけ近くでカナの顔を見ることなんてなかった。肌が綺麗だとかまつ毛が長いだとか、わりと顔の作りは良いよなとか思ってみたり……。
カナの目がパチリと開いた。
「うおっ!?」
変なことを考えていたせいか、本気で驚いてしまった。びびったことが恥ずかしくて顔が熱くなる。
こういう時に嬉々としてからかってきそうなカナは口を閉ざしていた。目も焦点が合っていないように見える。
これは、催眠術にかかってるってことでいいんだよな?
ちょっと試してみようか。
「カナ、そこに正座しなさい」
「はい」
おおっ、文句も言わずに正座しやがった。ちゃんと意識があれば絶対に素直に聞かないはずだ。
「お手」
「はい」
犬のようにお手をするカナ。
「手を挙げて」
「はい」
授業中では絶対にしないような綺麗な挙手をするカナ。
「変顔して」
「はい」
「ぶはっ!」
年頃の女子が見せられないような変顔をしやがった。笑いすぎて腹が痛くなった。
しかし、これで確定だろう。
すごい……。これが催眠術の力か。これだけのことができるならもっと早く覚えておけばよかった。
くっくっくっ、さて、次はどんなことをしてやろうか。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点がわかれば、もうカナの好き勝手にはさせない。俺のおやつも死守できるってもんだ。
俺はカナに向き直る。
弱点っていってもどんな風に聞き出せばいいだろうか。「弱点は?」と聞いたら「ピーマン怖い…」とか返ってきそうだ。そんなことはとっくの昔から知っている。
うーむ、と考えて、ぱっと思いついた。
「カナ」
「はい」
焦点が合っていないような視線が向けられる。俺はニヤニヤしながら尋ねた。
「カナの好きな人って誰?」
好きな人。思春期の俺達にとって、それを知られるほど恥ずかしいことはない。クラスのみんなに知られれば羞恥心に耐えかねて叫んだっておかしくない。俺なら叫ぶ。
普段から軽い奴だが、それでも一応年頃の女子である。きっとこいつだって好きな人を知られるのが恥ずかしいはずだ。
「……」
その証拠に、催眠術にかかっているはずのカナがなかなか答えようとしない。口を固く閉ざし続けていた。
俺は根気強く待った。穴が空きそうなくらい見つめ続けた。
カナの心理的ストッパーってやつが戦っているのだろうと思う。それだけ恥ずかしい情報なのだ。弱味を握れるチャンスに胸がドキドキした。
やがて催眠術に負けたのだろう。カナが口を開いた。
「……マーくん」
「はい?」
なんか予想外にもほどがある名前が聞こえた気がする。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
今まで見たこともない熱っぽい目で見つめられる。俺は逃げるようにベッドにダイブした。
な、なんだ今の? 見間違いか?
もう一度、恐る恐るカナを見る。
「じー……」
穴が空きそうなほど見つめられていた。ちょっと目が潤んでいるのは気のせいか。
再びベッドに顔を埋めて緊急離脱する。視線からは逃れられた。問題は解決していないが……。
え、これどうすればいいの?
催眠術で聞き出したということは本心のはず。だったら告白に対して返事した方がいいのか?
いやいや待て待て。催眠術にかかっている間のことは記憶に残らないはずだ。うやむやにしてしまえばなかったことになるだろう。
「い、いいのか?」
正直な話、俺はカナに対して恋愛感情なんぞ抱いてはいない。
だって、ずっと幼馴染として接してきたのだ。いくら異性とはいっても、兄妹とそう変わらない関係だと思っていた。カナだって俺と同じように考えていると思っていたのに……。
まさか、いきなりこんな……ええいっ、こんなん予想できるかっ!
唇をぐっと噛みしめて、おもむろに体を起こす。
「カナ」
「は、はい」
俺はカナの前に正座した。心なしか彼女の背筋が伸びた気がした。
さっきまでは気にも留めなかったが、なんだか甘いようないい匂いがする。それがカナから漂う女の子の匂いだと気づいて、ばっと目を逸らす。
「お、俺が手を叩くと催眠術が解ける。催眠術にかかっている間の記憶もなくなる。いいな?」
「……」
「あ、あれ?」
急に返事しなくなって焦る。別に葛藤するようなこと言ってないだろ? ないよな?
わたわたしていると小さなため息が聞こえた気がした。
「……はい」
無感動というより、ぶっきら棒な感じで返事された。
とにかく返事したってことは催眠術は効いてるってことだ。落ち着いて手を叩いた。
「……なんか疲れちゃった」
「そ、そうか? 催眠術にかかってる記憶は残ってるか?」
「あたし催眠術にかかってたの? 残念、記憶にないなぁ。今度はもっとわかりやすいのにしてよ」
「お、おう」
正気を取り戻したカナはコリをほぐすように首を回した。
不自然なところはないよな? 彼女を観察していると深いため息をついていた。催眠術にかかると体力を使うようだ。
催眠術にかかっている間のことを深くは追及してこなかった。カナは「疲れちゃったからもう帰るね」と立ち上がった。
部屋を出る間際、カナは振り返ってこう言った。
「マーくん、今度は覚悟を決めてから催眠術にかけてね。あたしの気持ち……変わんないからっ」
パタンとドアが閉まる。俺はそれを口を半開きにして見送った。
え、いや、ん? それって? ちょっ、待って? どういう?
……え? ええっ!?
この日から、俺はこれっぽっちも意識していなかった幼馴染にドギマギさせられることとなる。……なってしまったのだ。
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