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9.ずっと言いたかったこと
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古川律の睨みつける攻撃。能見大輔に一〇〇のダメージ。俺は死んだ……。
「能見くん何白目になってんの?」
「はっ!?」
俺を復活させたのは雛森だった。ゆっさゆっさと揺らされてどうにか正気を取り戻す。
「……ちっ」
小さく聞こえる舌打ち。不機嫌具合がわかってしまうね。なんで不機嫌なのかは知らないけど。
さて、体育館裏で俺を待ち構えていた古川さん。体操服に着替えている彼女は臨戦態勢が整っていた。コスチュームチェンジしてるとか、やる気満々じゃないですかぁ。
「ななななな、何用ですかな?」
「どもんな気持ち悪い」
精神的に古川さんに何度殺されただろうか。威圧感があり、言葉のナイフの切れ味も鋭い。俺専用の殺人鬼である。
「は? 気持ち悪いって何? いくらりっちゃんでも、怒るよ?」
ここで不穏な声を上げたのは雛森だった。
まさかの援軍にちょっと泣きそうだ。お前は味方だって、俺信じてたよ!
「ご、ごめんね由希。ちょっとした言葉の綾だから怒んないでよ」
しかも赤髪ヤンキーの方が力関係が下ときた。雛森が上とか信じられなかったが、これで確定だろう。
つまり、雛森がこの場にいてくれる限り、俺は安全を保証されているということだ。
「それとさ、能見くんと秘密の話をしないといけないんだ。悪いんだけど二人きりにしてくれる?」
「告らない?」
「絶っ対にない!」
「うん、わかった」
あっさりと防壁は破られた。「じゃあねー」とこの場を後にする雛森を引き留めようとしたが、古川さんの睨みの前に断念せざるを得なかった。
「おい能見」
「は、はひっ」
雛森がいなくなった瞬間、古川さんの声が冷ややかなものとなった。
不機嫌そうな赤髪ヤンキー。赤髪じゃなく性格も穏やかであれば良い意味でドキドキできそうなシチュエーションなのにな。今は恐怖で胸の動悸が収まらない。
「お前さ、由希のことどう思ってんの?」
「へ?」
どう、とは?
恐怖からなのか、質問の意味がわからない。とにかく雛森のことを聞きたいってのはわかる。わかるのはそれだけだ。
戸惑っていたら舌打ちされた。だからそういうのが怖いんだってばっ。
「GW、お前由希と遊びに行くんだってな」
「あ、ああ。そうだな」
もう伝わってんのかよ。これが女子の口の軽さか。友達ネットワークには流されてしまったのだと考えるべきか。
「なんで?」
「なんでって聞かれても……。雛森が誘ってきたとしか」
「由希はそんな軽い女じゃねえ!」
歯を剥き出しにして怒られた。
と言われてもな。俺は事実しか言っていない。たぶん雛森もそう説明したと思う。
しかし言葉や態度から、なんとなく呼び出された理由がわかった。
古川さんは大好きな友達が悪い男に引っかかるんじゃないかと心配でたまらないのだろう。こいつもただ友達思いなだけなのだ。行き過ぎてる感があると思うのは俺が敵認定されているからか。
なら理由を話しておくべきだ。これほど友達思いな奴を、心配させるべきではない。
「雛森が俺にかまってるのは、善意なんだよ」
「善意?」
神妙に頷いてみせる。
これから説明することは、俺と雛森が出会ったきっかけだ。それはすなわち交通事故の経緯を話すということ。
あまり人に話すようなことではないと思う。それでも話しておかないと、雛森の善意や罪悪感を理解してはもらえない。友達として仲良くしようと接しているけど、始まりはそこからだから。
誤解のないように、古川さんには丁寧に説明した。
「まあ、それは知ってた」
「知ってんの!?」
彼女は「当然だろ」と鼻を鳴らす。
「由希が私に隠し事するわけないからな。問題はお前だ」
「え、俺?」
「お前……、由希が優しいからって手籠めにしようとか考えてんじゃねえだろうな?」
「はあ?」
思わずまじまじと古川さんを見つめた。
えーと? ちょっと待って整理させて?
つまり、雛森の罪悪感につけこんでいるんじゃないかってことか? 手籠めってリアルに口にする奴がいるんだって、そっちの方に驚いたぞ。
「ない」
きっぱりはっきりと言わせてもらう。変なうわさが立つ余地がないように断言する。
「俺は雛森をこれっっっっぽっちも、異性として見てはいない」
「そ、そこまで言うのかよ……」
俺の否定に古川さんはなんとも複雑そうな顔をした。あれ、ここは安心するところじゃないの?
「ただまあ、雛森には感謝しているよ。高校生活もスタートに出遅れるとこんなにも心細くなるもんなんだなって実感していたからさ。雛森が話しかけてくれて、助かっているとこあるんだよ」
もちろん迷惑なこともある。それを友人である古川さんに言っても仕方ないだろう。怒られそうだし。
「雛森の中で上手いこと罪悪感が消えたら、俺を優先してくれることもなくなるだろうけど、それまでには一人や二人、友達くらい作ってみせる」
いつまでも雛森におんぶされているみたいな状況ではいられない。一歩を踏み出すことすらためらってしまう俺。それでも、がんばろうと決めて高校に入学したのだ。やってやれないことはないはずだ。
「あー、わかったわかった」
頭をガリガリかいて、古川さんは俺を見た。さっきのような威圧感はなかった。
「能見の気持ちが本当なんだってよくわかった。由希に対してやらしいこと考えてないのならそれでいい」
やらしいことは……考えてはないよ。たまに雛森の胸に目が行くのは不可抗力だから問題はない!
「それから」
古川さんは勢いよく頭を下げた。
「由希を助けてくれてありがとう! 本当に、心の底から感謝してる」
その行動と声色だけで十分伝わった。とても雛森が大切なんだなって。
赤髪ヤンキーだと怖がっていたけど、けっこういい人なのかもしれない。
「ずっとそれを言いたかっただけだから。じゃっ、私は部活に行ってくるわ。わざわざ呼び出して悪かったな」
言うが早いか、古川さんは足早にこの場を去った。
部活か。だから体操服だったのかな。つまり運動部! 我ながら推理が冴えている。とか思ってみたり。
「部活か……」
今、友達作りのヒントをもらえた気がする。
「能見くん何白目になってんの?」
「はっ!?」
俺を復活させたのは雛森だった。ゆっさゆっさと揺らされてどうにか正気を取り戻す。
「……ちっ」
小さく聞こえる舌打ち。不機嫌具合がわかってしまうね。なんで不機嫌なのかは知らないけど。
さて、体育館裏で俺を待ち構えていた古川さん。体操服に着替えている彼女は臨戦態勢が整っていた。コスチュームチェンジしてるとか、やる気満々じゃないですかぁ。
「ななななな、何用ですかな?」
「どもんな気持ち悪い」
精神的に古川さんに何度殺されただろうか。威圧感があり、言葉のナイフの切れ味も鋭い。俺専用の殺人鬼である。
「は? 気持ち悪いって何? いくらりっちゃんでも、怒るよ?」
ここで不穏な声を上げたのは雛森だった。
まさかの援軍にちょっと泣きそうだ。お前は味方だって、俺信じてたよ!
「ご、ごめんね由希。ちょっとした言葉の綾だから怒んないでよ」
しかも赤髪ヤンキーの方が力関係が下ときた。雛森が上とか信じられなかったが、これで確定だろう。
つまり、雛森がこの場にいてくれる限り、俺は安全を保証されているということだ。
「それとさ、能見くんと秘密の話をしないといけないんだ。悪いんだけど二人きりにしてくれる?」
「告らない?」
「絶っ対にない!」
「うん、わかった」
あっさりと防壁は破られた。「じゃあねー」とこの場を後にする雛森を引き留めようとしたが、古川さんの睨みの前に断念せざるを得なかった。
「おい能見」
「は、はひっ」
雛森がいなくなった瞬間、古川さんの声が冷ややかなものとなった。
不機嫌そうな赤髪ヤンキー。赤髪じゃなく性格も穏やかであれば良い意味でドキドキできそうなシチュエーションなのにな。今は恐怖で胸の動悸が収まらない。
「お前さ、由希のことどう思ってんの?」
「へ?」
どう、とは?
恐怖からなのか、質問の意味がわからない。とにかく雛森のことを聞きたいってのはわかる。わかるのはそれだけだ。
戸惑っていたら舌打ちされた。だからそういうのが怖いんだってばっ。
「GW、お前由希と遊びに行くんだってな」
「あ、ああ。そうだな」
もう伝わってんのかよ。これが女子の口の軽さか。友達ネットワークには流されてしまったのだと考えるべきか。
「なんで?」
「なんでって聞かれても……。雛森が誘ってきたとしか」
「由希はそんな軽い女じゃねえ!」
歯を剥き出しにして怒られた。
と言われてもな。俺は事実しか言っていない。たぶん雛森もそう説明したと思う。
しかし言葉や態度から、なんとなく呼び出された理由がわかった。
古川さんは大好きな友達が悪い男に引っかかるんじゃないかと心配でたまらないのだろう。こいつもただ友達思いなだけなのだ。行き過ぎてる感があると思うのは俺が敵認定されているからか。
なら理由を話しておくべきだ。これほど友達思いな奴を、心配させるべきではない。
「雛森が俺にかまってるのは、善意なんだよ」
「善意?」
神妙に頷いてみせる。
これから説明することは、俺と雛森が出会ったきっかけだ。それはすなわち交通事故の経緯を話すということ。
あまり人に話すようなことではないと思う。それでも話しておかないと、雛森の善意や罪悪感を理解してはもらえない。友達として仲良くしようと接しているけど、始まりはそこからだから。
誤解のないように、古川さんには丁寧に説明した。
「まあ、それは知ってた」
「知ってんの!?」
彼女は「当然だろ」と鼻を鳴らす。
「由希が私に隠し事するわけないからな。問題はお前だ」
「え、俺?」
「お前……、由希が優しいからって手籠めにしようとか考えてんじゃねえだろうな?」
「はあ?」
思わずまじまじと古川さんを見つめた。
えーと? ちょっと待って整理させて?
つまり、雛森の罪悪感につけこんでいるんじゃないかってことか? 手籠めってリアルに口にする奴がいるんだって、そっちの方に驚いたぞ。
「ない」
きっぱりはっきりと言わせてもらう。変なうわさが立つ余地がないように断言する。
「俺は雛森をこれっっっっぽっちも、異性として見てはいない」
「そ、そこまで言うのかよ……」
俺の否定に古川さんはなんとも複雑そうな顔をした。あれ、ここは安心するところじゃないの?
「ただまあ、雛森には感謝しているよ。高校生活もスタートに出遅れるとこんなにも心細くなるもんなんだなって実感していたからさ。雛森が話しかけてくれて、助かっているとこあるんだよ」
もちろん迷惑なこともある。それを友人である古川さんに言っても仕方ないだろう。怒られそうだし。
「雛森の中で上手いこと罪悪感が消えたら、俺を優先してくれることもなくなるだろうけど、それまでには一人や二人、友達くらい作ってみせる」
いつまでも雛森におんぶされているみたいな状況ではいられない。一歩を踏み出すことすらためらってしまう俺。それでも、がんばろうと決めて高校に入学したのだ。やってやれないことはないはずだ。
「あー、わかったわかった」
頭をガリガリかいて、古川さんは俺を見た。さっきのような威圧感はなかった。
「能見の気持ちが本当なんだってよくわかった。由希に対してやらしいこと考えてないのならそれでいい」
やらしいことは……考えてはないよ。たまに雛森の胸に目が行くのは不可抗力だから問題はない!
「それから」
古川さんは勢いよく頭を下げた。
「由希を助けてくれてありがとう! 本当に、心の底から感謝してる」
その行動と声色だけで十分伝わった。とても雛森が大切なんだなって。
赤髪ヤンキーだと怖がっていたけど、けっこういい人なのかもしれない。
「ずっとそれを言いたかっただけだから。じゃっ、私は部活に行ってくるわ。わざわざ呼び出して悪かったな」
言うが早いか、古川さんは足早にこの場を去った。
部活か。だから体操服だったのかな。つまり運動部! 我ながら推理が冴えている。とか思ってみたり。
「部活か……」
今、友達作りのヒントをもらえた気がする。
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