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4.スタートダッシュで出遅れた

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 新しいクラスメイト。仲良くなるためにはまずお互いを知らなきゃならない。

「えー、能見大輔って言います。えー……」

 担任のご厚意で、俺は教卓の前で自己紹介をしていた。
 みんなは入学式の日に自己紹介を済ませていた。時間の関係上、持ち時間は一人一分程度だったろう。
 今まで入院していた俺のためにと「能見のために時間は取ってやったぞ」と担任に言われてしまった。持ち時間は五分。クラスメイト一人の自己紹介には長すぎないか?
 しかもわざわざみんなに顔を覚えてもらえるようにと教卓の前に立たされたのもよろしくない。扱いが転校生みたいだ。ホームのはずなのにアウェイに感じてしまう。

「えー……、以上です」

 結果、アガりまくった俺は自己紹介を失敗した。頭真っ白になって何言ったか覚えてないし。
 そそくさと席へと戻る俺に「もういいのかー?」と担任の声が追い打ちをかける。
 担任の余計な一言でみんなタイミングを逃したのだろう。遅れてまばらな拍手が聞こえた。いっそのこと一思いに殺してほしい……。

「……」

 いや、一人だけこれでもかと大きな拍手をしている奴がいた。
 クラスの中でも一際目立つ金髪ギャル。雛森が一人スタンディングオベーションの状態であった。俺は一体どんな偉業を達成してしまったのだろうか。
 突然の金髪ギャルの行動にクラスの空気がざわりと揺れた。俺は見なかったことにして席へと戻った。
 こうして、ただでさえ遅れたスタートでずっこけるという、なんともどうしようもない状態となってしまったのである。


  ※ ※ ※


「能見くんお昼いっしょに食べよー」
「……」

 昼休み。雛森が笑顔でそう言った。
 瞬間、クラスのあちこちのグループからひそひそ声が聞こえる。要約すれば「あの二人どんな関係?」といったものである。
 クラスでも見た目だけなら一番目立つ金髪ギャルと真面目な一男子の組み合わせだ。俺だって当事者じゃなかったら変な勘ぐりをしていたかもしれない。
 それに、自己紹介の時の無駄に大きな拍手。あれで悪目立ちしてしまった。おかげで休み時間では孤立していたのだ。誰も目を合わそうとしてくれない中で話しかける度胸は俺にはなかった。
 これで雛森と昼食をともにしたらどうなる? さらにクラスメイト達との距離が離れてしまうんじゃないかって恐れがあった。

「遠慮します」
「なんで!?」

 ノーとつきつけたらものすごく驚かれた。俺の方が驚くよ。俺達いっしょにお昼ご飯食べるような関係だっけ?

「わざわざ俺と食べなくてもいいだろ。ほら、友達が見てるぞ」

 雛森の友達グループであろう女子ズに好奇の目を向けられている。とくに赤い髪の子なんか目つき険しいし。あれはギャルってよりヤンキーだな。友達を傷つけられたらキレて相手を病院送りにするような人種と見た。

「だから能見くんもみんなといっしょに食べればいいじゃん」
「俺が? あの中に入れと?」

 うんうんと頷かれる。こいつ正気か?

「お前は俺を殺す気か?」
「なんで!?」

 雛森は男女の距離感というものがわかっていないのか。男子一人を雛森を含めたあの女子グループに入れるとか普通の発想じゃない。俺は普通なので「わーいハーレムだぁ!」と喜んだりはしない。普通にやべーと思っただけだ。
 ただでさえ出遅れたせいで気分は転校生とそう変わらないのだ。ここで女子グループに入ってしまえばもう後戻りはできなくなってしまう気がする。

「なんでも何もない。俺は一人で食べるのが好きなんだよ」
「それは、寂しくない?」
「寂しくないっての。早くしないと購買のパンが売り切れるからもう行くな」
「あ……」

 雛森を振り切って教室を出た。
 最後に見えた彼女の表情が脳裏にこびりつく。なんでそっちが寂しそうな顔するんだよ。
 ため息が出る。昼休みの間は教室に戻れそうにないな。

「あのお節介め……」

 雛森がああも俺に関わろうとする理由はわかっている。事故から助けられたのだと、未だに恩義を感じているからだ。
 そのため俺の学校生活がまともになるように手を尽くしているつもりなのだろう。今のところ裏目にしか出てはいないが。
 そんなお節介をやめさせるためには、俺自身が充実した学校生活を送れているのだと雛森に見せなければならない。リア充な俺の姿を目の当たりにすれば、彼女も余計なことはしなくなるだろう。
 それならそうと早くそうなりたいものだけど、残念なことに今のところ仲良くなれそうな友達候補すらいない状態である。
 くぅ~、打つ手が思い浮かばない。

「焼きそばパンと焼きうどんパンください」

 腹が減ってはなんとやら。考えるのだってエネルギーが必要だ。
 購買でパンを買ったはいいものの、どこで食べたものか。教室は論外としても場所の候補すら出てこない。
 それもそのはず、今日が初めての登校である。まだ敷地内の半分も知らないのだ。
 とりあえず適当に歩いてみる。探せばどこか人の少ない落ち着ける場所の一つや二つは見つかるだろう。

「の、能見くんっ」

 俺を呼ぶ女子の声。心当たりは一人しかいなかった。
 振り返れば肩で息をしている金髪ギャルがいた。
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